今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。 [ 石澤 義裕 ] - 楽天ブックス
何で紹介されていたか忘れましたが、軽自動車でアフリカをドライブして回ったという話のようだったので、興味を持って買ってみました。
著者はデザイナーとしてリモートワークをしている岩澤義裕(いわざわ・よしひろ)さん。ネットが通じればリモートワークで仕事ができるから、長期間の車中泊旅行ができたようです。
それにしてもすごい冒険旅行だし、何よりも文章が面白い! 本業はデザイナーのようですが、文才もかなりありますねぇ。約450ページもある分厚い本ですが、あっという間に読み終えてしまいました。
旅の目的は、海外で暮らす拠点を探すこと。稚内からフェリーでロシアに渡り、アフリカを目指す珍道中。奥様のYukoさんも、夫の義裕さん以上にぶっとんでるんでしょうね。
ではさっそく、一部を引用しながら本の内容を紹介しましょう。
とは言っても、これは旅行記なので、ぜひ全文を読んでみていただきたいのです。なので、その面白さが伝わる部分を少し引用したいと思います。
「軽自動車を根城にして、八年になろうとしている。
果たしてボクらは楽園を見つけたのだろうか?
めでたく海外移住をしているのだろうか?
そもそも軽自動車なんかで、南アフリカにたどり着けたのだろうか?
探検家たる方々が、地球はもう開拓され尽くしたと嘆いているが、そんなことはなかった。ぜんぜんない、まったくなかった。
探検の素人からすると、たとえ道路があったとしても、火星のように殺伐とした荒野がいくらでもあるのである。前人未到感に満ちあふれた草原、砂漠、寒村、湖や大河のほとり、「ワニ・カバ・危険! 食われるぞ」の看板の前の車中泊は、日本では味わえないスリルとサスペンスを楽しめる。
本書には、そんな写真を自慢げに載せているので、ぜひ、心から羨んでいただきたい。」(p.8-9)
2023年1月に書かれたこの前書きには、「いまだ日本に帰れない著者」と記されています。軽自動車で南アフリカを目指し、車中泊の旅をしていた石澤さんですが、帰るに帰れない状況になったようですね。それは、本書の最後の方を読むとわかります。
「歓迎してくれるのは嬉しいけれど、どうして英語なんだろう?
それが流暢ならわからなくもない。でも、どちらかというと果敢で、ときどき無謀だ。
食堂で会った育ちの良さそうな少年は、同じテーブルの女性を紹介してくれた。
「母です。House wife です」
それはそれはご丁寧に。こんにちは、日本から来た旅フーフです。どうぞよろしく。
次に、隣に座っている娘さんを指差して、
「姉です。Hotel wife です」
それはどういったサービスで? と訊くところだった。Yukoの前だというのに。」(p.104)
「ところでイランは、長らく経済制裁を受けているためか、西欧との交流が少ないのだろう、珍しいものに飢えていた。
珍しいものが、珍しい。
駐車場の一番人気は、うちのChin号。目を離すとすぐに撮影会場になってしまう。
観光地の一番人気は、ボクらだ。中東の「3P」と異名を取るものすごい遺跡「ペルセポリス」を前にして、行列ができたのはYukoの前だ。
確かにYukoは似ている芸能人がひとりもいないという亜種だけど(ボクはミヤギさん)、あれだけバシャバシャ写メっておきながら、誰ひとりとして、
「どこから来たの?」と訊かないのは、あんまりじゃないか。
動物じゃないぞ。」(p.107)
アメリカから経済制裁を受けていて、反米色の強いイランでの出来事。なぜか英語がよく使われ、ドルもつかわれるのだとか。こういう自分の常識をぶっ壊してくれる出来事と遭遇するのが旅の醍醐味だろうなぁと思います。
ちなみにChin号というのは、石澤さんが車中泊をしている軽自動車の名前です。日本国内であれば軽自動車で車中泊をする人は大勢いますが、海外には軽自動車というものが存在しないこともあり、軽自動車で車中泊なんてのは、絶滅危惧種並みにレアなのでしょう。
「小さな宿があり、眼の前は単なる原野。末法くさい風が吹いているだけ。地面に張り付いているのは、気が滅入りそうなどどめ色の苔。栄養のなさそうな雑草をほじくり食うヤギ。ボクらが近づいても、しっぽひとつ振ってくれない愛想のなさである。
今夜世界が終わったとしても、ここにだけお知らせが来そうにないアウェー感で。
いい夢は望みませんから、せめて、明日、悪いことが起きませんように!」(p.330)
本書のタイトルは、南アフリカと国境を接するレソトという小国での出来事から取られているようです。
そんな国があることさえ知りませんでしたが、国ごとにいろいろな規則があり、想定外のことが多々あるようです。この後、レソトに入国している間も南アフリカの滞在期間としてカウントされることを知った石澤さんは、あわてて南アフリカに戻るのでした。いやいや、ふつう国外へ出たのなら、滞在期間はいったん切れるでしょ。そんな常識さえ通じない世界があるのです。
私自身は、ここまで破天荒な生き方はできないと言うか、やりたいとは思わないのですが、こういう破天荒な生き方をしている人がいるってことを知ることは、とっても楽しく感じます。人って、こんなにも可能性が大きいんですね。
無茶するなぁ。そう何度思ったことか。本書を読むと、自分の中の冒険心がくすぐられます。まぁでも、石橋を叩いても渡らないと称した私の性格では、絶対にやらないでしょうけどね。(笑)
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