呼吸 〜こころの平和への旅〜 - プレム・ラワット, 大島とうこ
文屋という小さな出版社を知って、そのメルマガを購読しています。その中で紹介されていたのがこの本です。
著者はプレム・ラワット氏。インド北部の生まれで、幼い頃から「すべての人のこころの中に、生まれながらにある平和」について語り始めたとあります。13歳にはインドを出て、世界100ヵ国以上、数十億人に対して語りかけておられる講演家であり、慈善活動家なのだそうです。
世の中には、こういう不思議なパワーを持った方がおられるのですね。翻訳は大島とうこさんです。
ではさっそく、一部を引用しながら本の内容を紹介しましょう。
「どれほどたくさん金やダイヤモンドがあっても、
世界中のお金を全部合わせても、
たった一つでさえ呼吸を買うことはできません。
呼吸が何度も繰り返し、あなたに入ってきます。
しかも、お金は要りません。
あなたはそれほど豊かです。
自分がどれほど幸運であるかを理解してください。」(p.46)
本書は全体として、この「呼吸」の素晴らしさを称え、私たちは生まれながらにその素晴らしい「呼吸」と共にあるのだということを語っています。
ただ、「呼吸」というものを、まるで1つの存在であるかのように表現しているので、ちょっと違和感を感じます。まぁでも、それは詩的な表現だと思うこともできますね。
「渇きを癒すということは水が持つ可能性です。
これは水の力ですが、
渇きが癒されるその喜びはあなたの中にあります。
あなたが探しているものはあなた自身の中にあります。
全宇宙の中でもっとも尊いものが、あなたの中にあります。
あなたがどれほど美しく素晴らしい贈り物を授かっているかを
思い起こしてもらうのは、わたしの喜びです。
その贈り物とはいのちであり、呼吸です。楽しんでください!
それはあなたに無限に与えられた、唯一のものです。
できる限り多く、さらにもっと多くを受けとってください。」(p.51‐52)
喜びを感じるということが素晴らしいことなのですね。その力を私たちは、生まれながらに持っています。そして、その力を私たちに与えているのは「いのち」であり、「呼吸」なのだと言うのです。
「すべてのことが変化します。
ものごとがうまくいっていると思うなら、
しばらく様子を見てください。いろんなことが変化します。
順調にことが運ばないと思ったら、
しばらく待ってみてください。すべてのことが変化します。
あなたも変わります。考えも変わります。
思考も概念も変わります。
世界も変わります。すべてのことが変化します。」(p.57)
この部分の直前に、「人間万事塞翁が馬」の故事を思わせるような話が挿入されています。「悪い」と思ったことが「良い」に変わり、「良い」と思ったことが「悪い」に変わる。そういう事例として紹介されていました。
仏教では「諸行無常」と言います。すべてのことは変化するということです。これはお勧めしている「神との対話」でも言われていることです。
ただ、「神との対話」では変化しないものが1つだけあり、それは「変化する」ということだと言っていました。つまり、変化が止まることはない、ということですね。
それに対して本書では、変わらないものが1つあり、それは「呼吸の出入り」だと言っています。そして、呼吸が変化するとすべての変化も止まるのだと。少し意味がわかりづらいのですが、生きている間は吸っては吐くという呼吸の出入りは変化しませんが、それが止まれば死ぬということを言いたいのかなと思いました。
「この存在に、この人生に、この瞬間に、
この呼吸に心地よさを感じるようになれば、
あなたは比類のない深い喜びに気づくでしょう。
一度に一つずつ出入りする呼吸を楽しむこと、
理解すること、自分自身に向き合うことができること、
これは真の技法 ー 生きる技法です。」(p.85)
一つひとつの呼吸に意識を向けることで、呼吸を楽しみ、呼吸を喜ぶことができる。ある意味で瞑想とか禅のような手法でしょうか。
「人生で、与えられた恵みを受けとることのできる人は幸運です。
「そうわたしは呼吸しています。
わたしの中に入っては出ていく一つひとつの呼吸のすべてに
感謝しています」と、
謙虚な気持ちで言えるでしょう。
最高の祈りとは、感謝の気持ちを持つことです。」(p.100)
「神との対話」にも、最高の祈りは感謝だという言葉がありました。呼吸を意識して、呼吸の素晴らしさを感じたなら、自ずと感謝したくなりますね。
「世界に欲張りがあるにもかかわらず、感謝もあります。
そして、その感謝が解毒剤となって、欲張りを中和します。
でも、人が感謝の気持ちを持てないのは、
「もっともっと、もっと欲しい」と、
それだけに気を取られているからです。
自分が持っているものを受け入れて楽しみ、感謝し始めると、
「これはいい! 他の人とシェアしよう!」
という気持ちになります。
なぜなら、それが人間の本質、人間性だからです。」(p.124‐125)
「足りない」という思いが執着心を呼び起こし、感謝の心を遠ざけるのですね。だからこそ、今あるものに意識を向けることが大切なのです。
「あなたがほんとうにこのユートピアを持つことができる
唯一の場所は、あなた自身の中だけです。
外ではなく、あなた自身です。
そして呼吸は、このユートピアを体験するように、
毎日あなたを呼んでいます。」(p.149)
私たちはユートピア(理想郷)を望みますが、それは外に探しても見つかりません。自分の中に見出すしかないのです。
「神との対話」でも、まずは内的平和を実現するようにと言っています。外的な世界は今あるがままに、内的に平和を築くのです。
「わたしの戦略はとてもシンプルです。
それはあなた自身が平和になることです。
他の人とは関わりなく、
自分自身のこころが平和になることです。では、どうやってこころ穏やかに
平和でいることができるでしょうか?
自己への旅、つまり自分自身を知ることが必要です。」(p.175)
外的な平和は、内的な平和を実現することによって打ち立てることができます。暴力革命では平和を達成できない。それは歴史が示している通りです。
「戦争が起き、罪のない人たちが犠牲になります。
これと同じように、あなたのこころが戦争状態であれば、
あなたの人生の無垢(むく)な瞬間が奪われます。」(p.176)
マザー・テレサさんは、戦争反対運動には参加されませんでした。それは闘争だからです。自分の心の中に闘い(戦争)があるなら、それは外的な戦争をやめさせる力にはならないのです。
「あなた自身が戦いの場であり、戦う相手は自分自身です。
そして自分に勝つ必要があります。」(p.177)
怒り、恐れ、憎しみ。この自分の中に渦巻くネガティブな思いに向き合い、克服する必要があるのです。
「自分を知ることが、この戦略で最もたいせつなことです。
自分自身を知らないと、自分の強さがわかりません。
自分は弱い人間だと信じてしまうかもしれません。」(p.177)
自分自身と対峙した時、自分の弱さを感じてしまうことがあります。けれども、それは本当の自分ではないと見抜かなければならないのですね。
「鍛錬が必要です。どんな鍛錬でしょうか?
それは喜びを深く味わうことです。」(p.178)
つまり、一つひとつの呼吸を意識して感じることによって、その素晴らしさを味わい、喜びに浸ること。そうすることで、本当の自分を知ることになり、内的な平和を築くことができる。そういうことなのでしょうね。
詩のような、散文のような本でした。書かれている内容は、ハウツー的で論理的なものと言うより、雰囲気で味わうようなもの。そんな感じがしました。
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