これも日本講演新聞の記事で知った本だと思いますが、尼崎にある小さな書店(小林書店,まいぷれのWEBページ)が舞台の物語です。実話ではなく、店主の小林由美子(こばやし・ゆみこ)さんが体験されたことを元に、コピーライターで著者の小林徹也(こばやし・てつや)さんがフィクションに仕立てたものになります。
ではさっそく、一部を引用しながら本の内容を紹介しましょう。とは言え、小説なのでなるべくネタバレしないようにしたいと思います。
物語は、書籍の取次会社大手「大販」に就職した主人公の大森理香が、尼崎の小林書店の店主、由美子さんから影響を受けながら成長していくというストーリーになっています。
その中にある由美子さんの実際のエピソードも含まれていて、ピンチの時に傘を売ったという話には、由美子さんの人柄が感じられました。
「まずは、仕事のことでも会社のことでもまわりの人のことでも、ひとつずつでもええから、ええところを探して好きになってみ。そしたら自然ともっと知りたくなってくるもんや。何でもええやん。せっかく縁あって大販に入ってんから、仕事のことも会社のこともまわりの人のことも、好きにならんともったいない」(p.93)
なぜか大阪支社の営業に配属された理香は、慣れない大阪での一人暮らしに参っていました。そんな時、由美子さんからかけられた言葉です。
最初にまず好きになってかかる。そう決めてかかる。そういう考え方が、自分の未来を明るくしてくれるのです。
「由美子さんが薦めてくれたのは、『百年文庫』というシリーズだった。
『百年文庫』とは、一冊ごとに漢字一文字でテーマを決め、日本と海外を分け隔てることなく短編3篇を集めたアンソロジー。何と全100巻あるとのこと。」(p.96)
こういう小説の集め方があったんですね。面白そうだと思って調べてみたのですが、すでに販売されていない本が多いようです。もし、気に入ったものがあれば、私も読んでみようかと思いました。
「「えー、私なんて何もないですよ。薄っぺらで」
「理香さん、ひとつだけ忠告してもええ?」
「何でしょう?」
「自分を卑下するような言葉を使ってたら、ほんとに薄っぺらくなるよ」
「はい。でも私なんて」
「ほら、また『私なんて』」
「ゴメンナサイ」
「謝ることやないけど、何で理香さんはそうやって自分を低くするん? もっと自信持ってええやん」」(p.119-120)
私もそうでしたが、無意識に自己卑下するんですよね。そしてそれを「謙虚」なことだと思っている。自分が低くあることによって、他人を喜ばせ、それによって他人から評価してもらえる、つまり愛されると思っているんですね。
「「理香さんが仕事していく上で一番の弱みは何?」
「読んだ本の量が圧倒的に少ないことです」
「だとしたらそれが強みやないかな」」(p.151)
「「この業界、本好きの人が多い。でも世間を見渡したら、本好きは圧倒的に少数派や」
「確かに」
「だとしたら理香さんは多数派の人たちの気持ちがわかるってことやろ?」」(p.152)
「当たり前だが、読書量が圧倒的に少ない私に何か気の利いたフェアを考えることはできない。できることは本を読まない人の気持ちになって、どんなフェアが実施されていたら手に取ってみたくなるかを考えることだ。」(p.153)
「だとしたら店が薦めるのではなく、お客さんがお客さんに薦めるのはどうだろう?
考えてみたら、私たちは普段から他のお客さんの意見を参考にすることが多い。」(p.153)
自分で弱みだと思っていることが、見方によっては強みになるという実例です。本を読んでいなからこそ、本を読まない人の気持ちがわかる。そういうことがあるんですね。この小説では、読者が好きな本を他の人に伝えるというイベントで、新たな読者を掘り起こすことができたということになっています。
食べログなどもそうですが、今はレビューによって販売動向が左右されます。新規の顧客の開拓にも、こういう既存ユーザーのレビューが、大きな力になるのでしょう。
こういうことがあるので、すべてのことにおいて、「弱み」というのは1つの見方に過ぎず、単に「違い」なのだと思います。「違う」からこそ、他の人にない発想が可能になるし、それは「強み」とも言えるのですね。
「大阪での経験で一番学んだのは、人は「熱」がある場所を「快」と感じるということだ、逆に「熱」がないところに人は集まらない。「熱」を生み出すためには、人の気持ちが乗っかる必要がある。もちろん店側のスタッフの気持ちも大切だが、お客さんの「本気」がそれに乗っかると、さらに店は熱くなる。」(p.257)
人は「熱」に引かれるという観点、たしかにそうだなぁと思いました。そうであれば、誰かが「熱」の中心になれば、他の人を引き付けることも可能になるわけです。
実際、これまでの私のわずかな人生経験においても、事態を打開していく人は「熱」のある人だったなぁと思います。可能か不可能かに関係なく、ともかくやってみる、可能性を信じてやってみる人なのです。
そうであれば、重要なことは、闇の中にあって闇を嘆くのではなく、自ら光になることだと思います。これはお勧めしている「神との対話」で言われていることですがね。
これは小説ですが、店主の由美子さんは、実にエネルギッシュな人なのだなぁと感じました。つまり「熱」のある人であり、人を引き付ける人なのです。
それだけで万事が上手くいくわけではありませんが、山あり谷ありでも、そうやってエネルギッシュに生きる人生は、楽しいものだなぁと思いました。
小林書店では、年間を通じてお勧めの本を送るというサービスもやっているようです。自分が読みたい本ではなく、由美子さんがお勧めしてくれる本が読めるというものですね。これも、面白いなぁと思いました。
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