以前に、「月まで三キロ」という本を読んで、他の本も読みたいなぁと思って買った伊与原新(いよはら・しん)さんの本(小説)になります。買ったのは、その本を読んだ直後だったと思いますが、随分と長く積読状態にしていました。
理系の小説家ということで、私も思考的には理系だと思っているので、興味を抱いたのです。もともとミステリー作家だったということで、今回の本は、ミステリー(謎解き)的な要素が多分にあるもので、一気に読み終えました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
と、思ったのですが、引用しようと思った箇所は、ほとんどありませんでした。
なのでまずは、この本の構成について説明します。
主人公は誰なのか? おそらく、タイトルにもあるフクロウ准教授になるかと思うのですが、そうでもない気がします。
物語の展開は、首藤教授からアカハラを受けている吉川講師の目線で展開します。吉川講師の前に、フクロウこと袋井准教授が現れ、不思議な行動を取りながら、学長選に関わる問題を解決して(思い通りに進めて)いく。
何なんだこいつは? その目的は何か? どういうことを考えているのか?
疑問がいっぱい出てくるのですが、そのミステリーを解き明かしていく展開になっているのです。
1冊の本になっていますが、5つの短編小説に分かれているとも言えます。
5つの章と言った方が正しいかもしれませんが、それぞれが独立した物語になっています。
「アカハラの罠」「広報ギャンブル」「学会哀歌」「盗まれた密約」「梟の滑空」という5つのタイトルが付けられています。
では、フクロウ准教授がスーパーヒーローなのかと言うと、必ずしもそうではありません。
実は背後に、フクロウに対峙するカラスという存在があるのです。夜行性のフクロウに対して、日中に活動するカラス。この対峙が、最後の物語で解き明かされます。
いやぁ、これはハマってしまいますね。
ゴルゴ13のように、冷徹な感じのフクロウ准教授ですが、熱い想いを持っていることも表現されています。
それが、元学生に対する次の言葉に表れています。
「「そのことで僕がツクモの仕事に嫌気が指していることも伝えました。怒られるかと思ったら、こう訊かれたんです。『自分に向いていないと思うから辞めたいのか? 自分にとって大切なものを守り通していけないから辞めたいのか? どっちなんだ?』って」榎本はソフトモヒカンを拳で叩いた。「なんだか、ガツーンときました」
「まあ、あの人らしい言い方だけど」」(p.84-85)
パンフなどを作る会社に就職した榎本が、教授にキックバックを渡すことで営業することを上司から命令されていた。それに対する葛藤があったのです。
仕事を取ってくるのが営業だから、多少の不正には目をつむるべきだという考えもあるでしょう。それが、できないなら、自分には向いていないと考えることもできます。
それとも、自分には自分として大切にしたい生き方があるから、それができないなら会社を辞めるという価値判断もある。フクロウ准教授は、どういう考えで辞めようとしているのか、それを自分自身に問え、と言ったのです。
こういう心に残るやり取りが織り込まれているところが、さすが伊与原新さんだなぁと思うのです。
今回の本は、前の本ほど引用してお伝えしたいことはありません。純粋にミステリー小説として楽しませていただきました。
また機会があれば、本を読ませていただきたいと思っています。
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