何を見て興味を持ったのか忘れましたが、若い女性が引き売りをしていることに興味を覚えて買った本です。
表紙に「「何のために生きているんだろう」と思う人へ届けたい」とあります。引き売りという仕事をする中で豆腐屋あこさんこと菅谷晃子(すがや・あきこ)さんが気づいたことが書かれています。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「何をやってもなんにも続かなかった。
自分には生きている価値がないと思ってた。
いつしか自分を責めるのがあたりまえのようになって、まわりを責めるのもクセになっていた。
そんな私が、リヤカーを引いてラッパを吹きながら人に喜んでもらえる仕事に出会い、少しずつ自分を認め、笑顔を取り戻し、お客様の命から大切なことを泣き笑いしながら学んできた人生のストーリー。
すべての出逢いに感謝を込めて。
この本を通して私が受け取った愛をあなたへお届けします。
今、辛かったり不安だったりしてもきっと大丈夫。
ひとりじゃないよ。
あなたはあなたのままで素晴らしい存在なんだ。」(p.3-4)
ちょっと長いのですが、まえがきを全文引用させていただきました。まさに、この本の内容をぎゅっと圧縮したようなまえがきですね。
そして、このことがあこさんのメッセージです。自己肯定感が乏しく、他人を恨んでいたあこさんが、引き売りによって変わっていった。今あるがままの自分でいいのだと全肯定できるようになった。そのメッセージは、同じように自己肯定できずに苦しんでいる人にとって救いになりますね。
「小学校5年生のころ、引っ越しにより転校することになりました。
新しい場所、新しい出会い……。
私はこれから始まる新しい生活に、期待で胸をふくらませていました。
ところが、新たな環境で待っていたのはそれまで経験したことのなかった壮絶な”いじめ”だったのです。その時から先の見えない、長く暗いトンネルにいるような地獄の日々が続くようになりました。」(p.27)
あこさんが自己肯定できなくなったのは、長く続いたいじめ体験にあったようです。
「当時、両親もきっと私への声のかけ方を悩んでいたのだと思います。
それでも朝になると、学校には行きなさい! と怒鳴られる。
お母さん、私頑張っているのにどうしてそんなに怒鳴るの? 行きたくないよ……。」(p.32)
「何年も続く、いじめの日々……そんな状況のなかでも、不思議と死のうという気持ちだけは起こりませんでした。
「私は私らしく生きたい!」という思いは、どこかで捨てきれませんでした。」(p.32-33)
「「私、お父さんと血がつながっていないの?」と、ふと母に尋ねたことがありました。
母も疲れていたのでしょう。
この問いに、「そうよ」と答えてしまったのです。
これまで私を育ててくれた父は本当の父親ではありませんでした。
私はショックのあまり血の気が引き、『私のこと、ずっと騙してたの!?』と、両親に強い嫌悪感をいだきました。」(p.33)
学校だけでなく、家にも居場所がないと感じたあこさんは、17歳で家出をしたそうです。
いじめは、小学校5年生の時から高校生まで、ずっと続いていたそうです。そういう闇が、あこさんの気付きのためには必要だったのかもしれませんね。
「小学校5年生からいじめにあい、人と話をすることがどんどん苦手になっていきました。だからこそ人の話をよく聞こうとか、辛かった思いがあった分だけ今の自分があると思えるのです。
弱さや傷ついた経験は、決して恥ずかしいことじゃない。あなたの強みであって、魅力なんだ。」(p.35)
悲しい経験や辛い経験があるからこそ、他人に対して優しくなれます。だからどんな経験もムダではないのですね。
「毎週、同じ曜日に同じルートを通るので、1人、また1人と、川澄おじいちゃんのように私を待ってくれる方が増えていきました。
気づけば私は、いっぱい買ってもらいたいという気持ちから、どうしたらみんなに喜んでもらえるだろう、みんなが喜ぶことってなんだろう、と他者を幸せにしたいと願うようになっていました。
すると……
「かわいそうだから買ってやるよ」という言葉から
「あきちゃん、ありがとうね」「本当に助かるわ」
ありがとう、ありがとう。
1日中、ありがとうという言葉をかけてもらえるようになったのです。」(p.52)
自分で自分を哀れんで頑張っているうちは同情されるだけだったのが、他人に関心を持つようになったら感謝されるようになった。自分が変われば、他人もまた変わるのですね。
自分がどう思われるかと自分への評価を期待していると変わることができません。どう評価されてもかまわない、どう評価されても気にしない。自分の評価への期待を捨てることで、心から他人に関心を寄せられるようになります。
「私は自分が好きでなかった。自分のダメなところばかり見つけては、自分を責め続けていた。
それからは、もやもやした気持ちの日でも、毎晩寝る前に「今日もよく頑張った!」「偉いね」(身体をさすりながら)「今日も1日ありがとう」「大好きだよ」「愛しているよ」と自分を励ましてあげるようにしました。そうすると、また次の日からもむくむくと頑張ることができ、嫌なことがあっても不思議と元気が出てくるのです。」(p.67-68)
自分褒めは大事ですね。私も意識して、自分を褒めてあげるようにしています。
「これは以前、モーニングセミナーで学んだことなのですが、もともと人間には「3つのたい」があると言われています。それは、
「認められたい」
「役に立ちたい」
「愛されたい」
という気持ち。
引き売りを始めたことで、私にはこれまで経験したことのなかっためざましい変化がありました。まさにこの「3つのたい」を満たしたのかもしれません。
誰かに認められ、役に立ち、愛される。
このことが自己肯定感を生み、ありのままの自分を愛することができる最大のキーワードなのかもしれません。」(p.69-70)
自己肯定感が高まると、他人からも肯定されるようになる。それによってさらに自己肯定感が高まる。好循環ですね。
「被災地にボランティアに行くことって、とても素敵なことだと思います。でも、すぐ近くにいる人にできる大切なことを、私たちは忘れてはいないでしょうか。それは決して難しいことではありません。
皆さんの”笑顔”と”真心の一言”。それだけで、目の前の人を幸せな気持ちにすることができるのです。」(p.90)
私たちはつい特別なことをして他者に貢献しようとしてしまいがちですが、他者貢献はすぐ身近なところでも十分にできるのです。
「目の前に大好きな人がいてくれるって当たり前なんかじゃないんだ。
今を大事にしよう、今を喜ぼう、そして、おじいちゃんとの思い出を大切に生きていこう、と心の底から思いました。」(p.97)
毎週のように出会うお年寄りのお客様が、突然、亡くなられるという経験もあったそうです。人はいつか亡くなるし、他の理由でも、いつ別れが来るかわかりません。だから「一期一会」なのですね。
「リヤカーを16年間毎日引いていると、こんなふうに大好きなお客さまが天国に召されていくことがたくさんありました。みんな最後に何を求めていたかというと、それはお金でも、何かすごいものでもありませんでした。思い返してみれば、みんな心のより所を求めていたんじゃないかと思います。」(p.108)
人生の終りを迎える時、お金とか高価な物というのは必要ではないと気づきます。本当にほしいのは人とのつながりだったり、愛情だったり。それをあこさんは「心のより所」と言われています。
「闇は光だよ。
みんなの傷ついた経験が、誰かの勇気や希望の力になることもあるんだよ。」(p.125)
「あなたは、あなたのままで素晴らしい。何者にもなろうとしなくていいんです。今のコンプレックスを変えようなんて思わなくていい。そのままで十分素晴らしい存在なんだよ。」(p.125-126)
これがあこさんからのメッセージですね。
闇があるから光がある。光に至れば、闇も含めて光だったのだとわかります。闇は幻想です。光を光として認識するためのもの。だから、闇もまた、愛すべきものなのです。
130ページに満たない本で、簡単に読めてしまいます。けれどもこの本には、あこさんの人生がぎゅっと詰まっています。
その人生を通じたメッセージは、非常に重いものがあるなぁと感じました。

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