2023年02月09日
70歳の正解
老後の健康や長寿に関して、たくさんの著述がある和田秀樹(わだ・ひでき)さんの本を読みました。
「80歳の壁」というご著書が大ヒットしたことで、それをどう乗り越えるかという視点で書かれたのが本書です。この本は、例によってYoutubeの本の要約を紹介する動画で知りました。
お年寄り向けに書かれただけあって、新書版ですが文字が異様に大きいのが特徴です。これなら私も楽々読めます。
それはもちろん内容が少ないということでもありますが、読んでみて、言われたいことを簡潔かつ十分に網羅しているのではないかと思いました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「人生100年として、80歳から最後の20年を輝かせるためには、その前の20年の心得・準備が欠かせません。本書では、60代・70代のちょうど中間が、「70歳」であることから、私なりの提案を「70歳の正解」と題してお伝えしようというわけです。『80歳の壁』を読む前に読む本、あるいはサブテキストとしてご一読下さい。」(p.4-5)
「その基本精神は、「できないことを嘆く」のではなく、「できることを楽しむ」ことです。「年をとったから何もできない」と考えるのではなく、できることを探し、できる方法を考える生き方をおすすめしたいと思います。」(p.6)
「はじめに」でこのように、本書の目的を述べられています。
「まずは「食」ですが、前著『80歳の壁』では、「肉を食べる」ことの重要性を強調しました。牛肉や豚肉は、トリプトファンというアミノ酸をたっぷり含み、それが脳内の神経伝達物質の司令塔、セロトニンの材料になり、脳の活性化につながる−−というのが、その大きな理由です。」(p.18)
「脳が活発に働いている状態とは、「神経伝達物質の量が多くなり、シナプス間を活発に行き来している状態」といっていいのですが、大豆は、その神経伝達物質の重要な原料「レシチン」をたっぷり含んでいるのです。」(p.21)
このように老後の食事にタンパク質が欠かせないことを、和田さんは言っています。肉も重要だし、大豆製品(納豆など)も重要だと。
「高齢者は、暮らしの活力をすこし失うだけで、フレイルに陥るリスクが高まります。とりわけこのコロナ時代には、ウイルスを避けながらも、さまざまに工夫して、フレイルにならないように工夫しましょう。
私は、その防止策を含めて、老後、心がけたいことを「あかさたなはまやらわ」で始まる10個の動詞にまとめて、患者さんらに伝えています。」(p.46)
フレイル(脆弱、老衰)対策が重要で、そのためには意識して行動的になることが大切なようです。
ちなみに10個の動詞とは、「歩く、噛む、サボる、食べる、和む、話す、学ぶ、役立つ、楽観する、笑う」というものです。何となくわかりますよね。
「有酸素運動というと、ランニングマシンの上を走るような運動をイメージしがちですが、私は「走る」ことは、60代以上の人にはおすすめしません。
「走る」ことを含めて、呼吸が荒くなるような運動は、心肺に負担をかけすぎるうえ、体内で活性酸素を大量につくり出してしまうからです。それは、体を酸化させるのでアンチエイジングの観点から、好ましいことではありません。」(p.49)
和田さんがお勧めするのは「歩く」ことです。つまり、日常的に活動的になることなのです。
「人に教えるためには、深く理解し、細かな点まで記憶しなければなりません。そのため、人に教えなければならないと思うと、目的意識を一段と高めて、重要ポイントを頭の中で整理することになります。人に教えるという目的があると、集中力も高まります。加えて、人に話し、質問に答えることが自然と反復学習となって、より深く記憶に残ることになります。」(p.66)
教える者が最もよく学ぶ、と言われますからね。教えることを目的として学べば、効率よく頭を鍛えられるということです。
「たとえば、ロシアのウクライナ進行に関して、
「なぜ、ロシアは侵攻したのか?」
「なぜ、ウクライナは善戦できたのか?」
などと考えてみる。そうして、自分で疑問を設定し、観察力や推理力を働かせることが、前頭葉の錆びつきを防ぐのです。」(p.72)
ニュースを聞いて、何も疑問に思わないようではダメなのです。何ごとも鵜呑みにせずに、自分の頭で考える習慣が、脳を衰えさせないことにつながるのですね。
「老後は、現役時代以上に「マイナス思考」に陥りがちです。「どうせ、うまくいきっこない」などというマイナス思考にとらわれると、行動力はいよいよ鈍り、前頭葉の働きが衰えていきます。うつ病の発症要因にもなります。」(p.74)
ネガティブ思考だと行動まで消極的になります。ポジティブ思考で、ともかくやってみるという行動的になることが、健康のためには重要なのです。
「そうしたイライラや怒りをしずめる最も簡単な方法は、「深呼吸」です。脳に酸素が十分に行き渡ると、脳内の扁桃という部位の興奮がおさまり、それが交感神経の興奮をしずめるのです。」(p.84)
イライラしたら深呼吸。簡単ですが、効果は抜群。多くの人が推奨する方法です。
「とりわけ、75歳以上の場合、2週間動かないと、動いているときの7年分も、筋肉量が落ちるというデータがあるくらいです。そして、転倒→骨折→要介護となるケースが、ひじょうに多いのです。
また、高齢者は、運動不足になると、食欲不振から、低栄養状態に陥るリスクが高まります。」(p.99)
高齢になると筋肉量を維持することが重要になってくる。それは他の本でも言われていることです。そのためにも、適度な運動が重要になってくるのですね。
「まずは、意識的に、人と「話す」機会を増やしましょう。人と話すと、脳内の神経伝達物質の動きが活発になります。昭和の時代に戻って、「長電話」でおしゃべりを楽しむのもOKです。友人、知人と電話で話して、不安や孤独感を吹き飛ばしてください。
そして、第二には、意識的に「笑う」ことです。笑うと、大きく息を吸い込むことが副交感神経への刺激になり、心身がリラックスします。」(p.101-102)
コロナうつを防ぐ方法として書かれていますが、老後の健康のためには、話すことや笑うことが重要になります。この点、女性の多くは社交的なので、健康を保ちやすいのかもしれませんね。
笑うことについては、免疫力を高めるという研究結果も出ています。深刻になり過ぎず、笑い飛ばすことも重要でしょう。
「今、夫婦で三度飯を食って、それがストレスでないという夫婦、少なくともストレスに感じないという「妻」は、ごく少数でしょう。」(p.111)
亭主元気で留守がいい、などと言われますが、四六時中一緒にいることや、あれこれ干渉されることは、人間関係を損ねる元だと私も思います。
「まず、私は「現代の親孝行とは、親をボケさせないこと」(正確にはボケるのをなるべく遅らせること)だと思っています。そして、それは、自分のためでもあります。
とにかく、親や配偶者が認知症になると、いろいろと大変です。そのために仕事を辞めたり、余暇の大半を奪われることにもなりかねません。ただ、認知症はある程度は予防できるうえ、早期に手を打てば、進行を遅らせることのできる病気です。」(p.125-126)
「親と別居していても、せめて月に一、二度は、電話で近況を報告し合う。遠く離れて暮らしていても、年に一、二度くらいは顔を見に帰る。そうして、親の老い、認知症の進行状況を自分の耳や目で確認することが、現代の”親孝行”だと、私は思います。」(p.127)
早期発見によって認知症の進行を抑制できるかどうかは、私は何とも言えません。可能性は否定しませんが。そして、効果的な認知症予防があるのかどうかも、同様に何とも言えません。ただ、可能性がある以上、いろいろ試してみることだと思います。
今の私の状況は、まさにここに書かれているような感じです。一人暮らしの父とは月に1〜2回の電話での会話、そして年に1回程度の帰省(今はコロナの影響でできていませんが)をやっています。
親との関係も、パートナーとの関係と同様に、あまりくっつき過ぎず、かつ離れ過ぎないことが重要ではないかと思っています。
「まず、現実的にいって、地方では、車を運転しないと、買い物にも病院にも行けません。外出が減ると、足腰が弱るうえ、認知症の発症リスクが高まります。
私は、まずは、親の車は、衝突防止装置のついた車、アクセルとブレーキを踏み間違えにくい車など、少しでも安全な車に買い換えることをおすすめします。」(p.130-131)
高齢者の免許返納に関する問題で、和田さんは無理に取り上げるよりも車の安全対策を勧めておられます。私も同感ですね。特に地方では、車がないと何もできませんから。
「「80歳の壁」を乗り越えるには、脳の健康寿命を延ばすことが重要です。さらに私が、声を大にしていいたいのは、「勉強は最高の脳の健康法」だということです。
しかも、それは脳だけでなく、体の健康維持にもつながります。私は、頭を鍛え、”脳力”を維持することほど、心身両面に効果的な健康法を知りません。脳をよく使い、感情を老化させなければ、ヒトは間違いなく長生きできます。」(p.166)
和田さんは、脳を鍛えることが健康で長生きの秘訣だと思っておられるようですね。
「私は、老後の勉強のアウトプット目標として、思いきって「本を1冊、書くこと」をおすすめしたいと思います。」(p.169)
本の執筆は和田さん自身も実践されていますが、ワープロソフトを使って、ブログに書き始めることでも良いとのこと。これならハードルは低そうです。
私の知人でも、ワープロで自分史を書かれて、自費出版された方がおられます。今なら、Amazonで電子書籍として販売し、印刷してもらうことも可能です。
「さて、ここまで述べてきた「本を書く」とか「映画を撮る」というのは、老後の勉強においてはいわば「自由研究」の分野です。私は、高齢者には、さらに「義務教育」として学ぶべき分野もあると思います。好きなことを勉強するにしても、まずは老いていく暮らしを安定させ、心身を健康に保つ必要があります。そのための勉強を、私は「60歳から始める義務教育」と位置づけたいのです。
私が、高齢者の必須科目だと思うのは、次の2科目です。
まず1科目めは、「健康医学」、あるいは「予防医学」です。健康にいい食事・生活習慣、サプリメントをめぐる知識、認知症を防ぐ方法などの健康リテラシーをしっかり身につけましょう。」(p.182-183)
「2科目めは、「老後の経済学」です。年金、介護保険、相続、投資など、お金に関するリテラシーを身につけることです。」(p.183)
老後を迎える前から、健康やお金に関するリテラシーを高める勉強が重要だと和田さんは言います。
私も、Youtube動画を観たり、本を読んだりして、そういう知識を身につけています。こういう勉強は、たしかに大切だなぁと思います。
「私も還暦を迎えるまえは、「60代になったら、しばらくは遊んでみたい」という気持ちがあったのですが、そちらの人生コースは断念しました。
自分の性格を考えても、趣味や遊びでは、早晩、飽きることがわかっているからです。そこで、今後も能力が続くかぎり、今までと同じようなペースで仕事をしていこうと、腹をくくりました。」(p.192)
私も和田さんと同様で、気ままに遊んで暮らすことを夢見ていましたが、それが難しいことがわかった時、逆に自分にプレッシャーを与え続けようと思いました。生涯現役の覚悟を決めたのです。
こういう「腹をくくる」ということは、とても大事ではないかと思っています。
「まずは、「自然に体を動かしていること」です。それらの地域には、年をとっても、農作業、庭仕事、家事などで、「自然に体を動かしている人」、要するに「働いている」人が多かったのです。」(p.194)
これは先日紹介した「THE BLUE ZONES 2ND EDITION」を和田さんも読まれて、長寿者の共通項の中でも、何らかの体を動かすことが重要だと思われたようです。
「その調査では、離婚や配偶者の死、失業といったライフイベントによって、人々の幸福度がどのように変化するかが調べられました。すると、わかったのは、人の幸福度に最大のダメージを与えるのは、失業だということでした。」(p.194-195)
これはイギリスの経済史の追跡調査によるものですが、離婚や配偶者の死別よりも、失業の方がダメージが大きいという結果なのだそうです。
自分の居場所がなくなる、アイデンティティを喪失する、そういう感覚になるのでしょう。特に男性は、仕事人間が多いですからね。
「一方、リスクをとり、法人格もとって、本格的に起業する場合には、自己資金ではなく、金融機関から、お金を借りてスタートすることをおすすめします。
その理由は、お金を借りることだけでなく、「事業計画書をプロの目で査定してもらう」ためです。」(p.203)
フリーで働くなど、リスクをできるだけ抑えて働き続けることを勧めておられますが、大きくやりたいなら、プロの査定を受けることを勧めておられます。これは良い方法だなぁと思いました。
「ただし、趣味や遊びに飽きたときは、Kさんのように現役復帰することです。老後の引退は、”国民の義務”ではありません。一度、仕事から退いても、仕事のない日常に飽きたら、シャバに戻ってくればいいのです。」(p.206)
定年を機にいったん引退するのもありだと和田さんは言います。そして、また仕事に復帰すれば良いのだと。
私の場合はリストラにあったので強制的ですが、離職して趣味や遊びの年月をしばらく過ごしました。お金がなくなったので、仕方なく仕事に復帰した状態です。
仕方なくではありますが、和田さんが勧めておられるような生活をしていることになりますね。(笑)
私は今、老人介護施設で働いています。多くのお年寄りを見ていますが、やはり自分で生活することができなくなる、つまり要介護状態になることは、大変なことだなぁと実感しています。
長生きしたいとは思いませんが、最後の最後まで自分で生活できるように、健康を考えた生き方をしたいと思っています。
そういう意味で、和田さんが勧めておられる対策は、とても参考になるものでした。
何ごとも、前もって準備しておくことが大事だと思います。
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