ひょんなことでTwitterで知った著者の中山美里(なかやま・みさと)さん。お勧めのご著書を尋ねたところ、この本だとおっしゃるので、さっそく買ってみました。
風俗については私も関心がある方ですが、70歳代でも風俗嬢として働いているし、そういう風俗嬢を望む男性客がそれなりにいるということが驚きでした。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「結婚に失敗したりダンナが早死にしたら、風俗で一生懸命働けば子ども3人を育てていける。ダンナが浮気して私を振り向いてくれなくなってもきっと彼氏ができる……という人生の選択肢があることは、大きな救いとなった。
不安も迷いも恐れも、全部自分の思い込みが作り出しているだけだった。
それを教えてくれたのが、”超熟”と呼ばれるジャンルで活躍する風俗嬢やAV女優たちだった。」(p.5)
著者自身が未婚のシングルマザーとして生きてきただけに、人生に対する不安がつきまとっていたようです。その不安をふっとばしてくれたのが超高齢の風俗嬢たちなのですね。
「ソープランドやAV、ピンサロのようなグレーの職種、ストリップのような公然わいせつ罪が適用される危険がある職種でも、被害者がいるわけではない。世間に迷惑をかけている仕事ではなく、彼女がいなくて寂しい思いをしている人、奥さんとセックスレスで満たされていない人、奥さんに先立たれてしまった人、障害のある人……さまざまな男性がサービスを利用することで対価を払い、心身を満たしてくれる接客業であり、エンターテインメント産業である。」(p.10)
私も、性産業の中に非合法なものがあるとしても、「誰にも迷惑をかけていない」という視点は大事だと思っています。むしろ、それが喜ばれて役立つ、つまり需要があるからこそ、成り立っているのです。
「そもそも私のスタンスとして、風俗の仕事は、学歴のない女性、結婚などによって職歴が途切れてしまっている女性、就職に失敗した女性、一家の大黒柱として稼がなければならないシングルマザーなど、まとまった収入を普通の職業や仕事で得ることが難しい女性にとっては、救済的な側面がある職業だと思っている。」(p.21)
社会の現状は、残念ながら女性に対して不利なものです。そういう中にあって、たとえ学歴やキャリアがなくても普通以上に稼ぐことができる仕事。風俗にはそういう一面があることも確かです。
中山さんが取材した中に、70歳代のAV女優のKさんがいます。彼女は還暦を過ぎてから性に対してもタガが外れて、付き合っていた彼氏の勧めもあってAVに出演したのだとか。
「AVが発売されると、彼氏とラブホテルに行き、その作品を一緒に観た。もちろん彼氏は嫉妬に燃え上がる。そして、「負けないぞ」といつも以上に頑張るのだそうだ。そんな彼氏とセックスをするのが楽しいのだとKさんは話していた。」(p.49)
性的な興奮もあるのでしょうけど、私にはKさんが、「自由」を得て幸せを感じているように思えます。
「風俗は、若さと美しさをウリにしていると思われているが、それだけでは客は同じ女性に何度も金−−しかも安くはない−−を落とさない。
もてなしのきめ細やかさ、客を思いやる心、熟練したテクニックなど、さまざまな技術や経験によって、癒されたり、楽しい時間を過ごせたり、恋愛に近い気持ちを味わえる−−だからこそ、客は財布を開く。
風俗嬢とは、私に言わせれば、れっきとした専門職、技術職だ。」(p.111)
「風俗業界では、見た目のいい派手な女性よりも、地味でパッとしない女性が本指名を返す真のトップランカーであることが多いとよく言われている。
男性が、決して安くはないプレイ料金を支払う対価として求めているのは、見た目のいい女性にヌイてもらうことではなく、優しく癒してくれるエッチな女性とどんな時間を過ごせるか−−なのだ。」(p.127-128)
たしかに若さや美しさにはアドバンテージがあるけれど、それだけで上手くいくものでもありません。そして、そういうアドバンテージがないならないで、工夫次第で何とかなるもの。
風俗に限らず、仕事はすべてそういうものだし、仕事だけでなく人生すべてが、そういうものではないでしょうかね。
風俗には、障害者にサービスを提供するところがあります。(「セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱」でも紹介しています。)障害者を専門にしているところもあれば、風俗嬢によって障害者もOKとなるところもあるようです。
「働く女性たちは、「社会の役に立ちたい」「普通の風俗では働く気はない。障がい者風俗だからやりたいと思った」など、高い志や優しさをもった女性が大半だが、ちょっと変わったところでは障がい者フェチの女性もいるという。」(p.135)
動機も好みも人それぞれだということですね。
超熟女を求める客は、意外にも若い男性が多いと言います。そして、その多くはプレイ中にマグロなのだとか。つまり、何もせずに寝転がっているだけ。
「−−責めたりするのが、面倒なんですかね?
「そうみたいですよ。プライベートでは若い女性と付き合っているんじゃないかと思うんですが、そこでは愛撫してあげたり、気持ちいいかどうか気をつかったりしているんだと思うんですよ。でも、若い女の子ってわがままだし、気も強いじゃない? そういうのが疲れて熟女風俗に来るんじゃないかなって気がしています」」(p.139)
「あと、男の人には失敗しちゃいけないってプレッシャーがあるでしょう? ここぞというところで勃起して、女のコをイカせてからじゃないと発射しちゃいけないみたいな。そのプレッシャーを感じなくていいのが、熟女風俗なのかなと思うんですよね」(p.139-141)
「そういう鎧を脱ぎ捨て、素をさらけ出し、わがままを受け入れてくれる懐の深い女性に甘えることができる。
それが、超熟女風俗の魅力なのかもしれない……。」(p.141)
男性には男性の不安(恐れ)があり、それがプレッシャーとなっている、ということはあると思います。私自身も、そういうプレッシャーは感じましたから。
そういう不安(恐れ)があるからこそ、安心して甘えられる性風俗が求められるのかもしれませんね。
「とにかくすぐ離婚しなければ……という状態で子どもを連れて家を出たとき、風俗という職業はとても優しく女性を迎え入れてくれる。
寮があったり、提携の託児所があったりするほか、待機室に子どもを連れてきてもいい(教育的にどうかという意見もあるかと思うが)という店もある。
さらには、新人期間だと優先的にフリーの客を回してもらえて、しっかり稼がせてくれる。新人期間が過ぎた後は本人の努力次第だが、入店して3ヵ月はある程度収入の目処が立つ。毎日8時間ほど待機していれば、安い店でも流行っていれば、1日3万円程度は稼げる。
はたして、行政がここまでしてくれるだろうか。民間の支援団体がここまでしてくれるだろうか……と思うのだ。」(p.149)
実際問題、シングルマザーとか貧困にあえぐ女性に救済の手を伸べてきたのは風俗産業だろうと思います。批判する人たちは、いったい何をしてあげたのでしょう? 彼女たちを本当に助けたのは風俗産業であり、その客の男性だったのです。その現実から目を逸らしているから、言っていることが観念的で、現実に役立つ考えにならないのです。
「また、社会では性欲だけがなぜか蔑んでみられている。でも性欲は、食欲や睡眠欲と同じ人間の根本的な欲求だ。風俗は、レストランや居酒屋といった業種と同じジャンルに属していると私は考えている。
食欲を満たしたいだけなら、定食屋や立ち食いそばでも充分だ。しかし、家でも味わえないような食事をしたい。友達と楽しくしゃべりながら食事をしたいということで、レストランや居酒屋を利用する。そのため、単なるサービス業というよりは、アミューズメント産業として扱われている店舗もある。
風俗も同じだ。単純に性欲を解消するだけなら、ちょんの間やピンサロで充分かもしれない。けれども、昨今は、イチャイチャと恋人同士のように過ごす素人系のサービスや、本格的なオイルマッサージとともに性感マッサージも受けられ最後にヘルスプレイを楽しめるようなタイプの風俗が人気である。一昔前は、風俗に行かなければ味わえないマットプレイやイメクラプレイが人気だった。このように、風俗は単純に性欲を満たすだけでなく、プロのテクニックでしか味わえない快楽を得るほか、寂しい心を癒すといった役割まで担っているのである。」(p.154)
食欲や睡眠欲が高尚で、性欲が下賤なんてことはないはずです。それぞれ身体の欲求であり、そこに精神的な欲求が絡んできて、様々なサービスが提供されているのがこの社会です。そうであれば、性欲絡みだけが否定されるべきではないと思います。
「すると、「老後が不安だから」という答えが返ってきた。年金をもらえるかどうかわからないし、世の中では60歳で定年を迎える時点で、持ち家があった場合に夫婦ふたりで3千万円の貯金が必要だとも言われている。けれども、3000万円もの金額を貯められるとは思えない。その3000万円という大きな金額を用意しなければならないという強迫観念をもち、まだまだ先のことなのに老後が不安になってしまうのだという。
そして、お金を貯めたところで、使う目的もないそうなのだ。」(p.164)
「でも、アダルト業界で働く超熟女たちを取材し始めてから、私の不安は少しずつ小さくなっていった。
いくつになっても、元気で働ければなんらかの形で稼ぐことができ、ニコニコしながら柔軟に生きていけば求めてくれる人がいる。本当に最低限必要なのは、健康な心と身体だけなのだなと実感できるようになったからだ。」(p.161)
「風俗の仕事は、求める男性さえいれば、何歳になっても仕事がある。そして、男性の数だけ性癖があり、好みがある。それは風俗で働く女性にとって、とても救いになることではないだろうか。
こんな自分でも必要としてくれる人がいるという実感は、そのまま「生きていてもいいんだ」という喜びにつながる。」(p.168)
最近の若い女性は、漠然と老後に不安を抱いているのだそうです。そもそも持ち家があって、貯金が3千万円ってほとんどの人が無理でしょ。それが安心のために必要な資産なのだと言われれば、不安が煽られても仕方ありませんね。
それに対して中山さんは、性風俗が女性のセーフティーネットになると考えておられるようです。「蓼食う虫も好き好き」と言いますが、性に関する好みはそれぞれであり、だからこそすべての人に性風俗で働けるチャンスがある。そこが、安心の元になるんですね。
「以前、婦人科の医師から「セックスをし続けている女性は、閉経した後も女性ホルモンが出続けている」と聞いたことがある。実はこれには続きがあって、「年をとって恋愛をすると再び出る」というのだ。そして閉経後に女性ホルモンが分泌されている人のほとんどは、配偶者以外の男性と関係をもっているのだとその医師は話していた。
人間にとって、セックスとは心と身体にいい影響を与えるものなのだ。」(p.169)
年をとっても恋をして、配偶者以外とも性的な関係を持つことが、女性の身体にとって良い結果をもたらしている。その事実を受け入れるべきではないでしょうか。
「現場でよく聞くのが”40歳を過ぎてから開発された”というケースですね。それまでは旦那さんだけだったけれど、男の人ってどうしても年齢とともに落ち気味になるじゃないですか。仕事も忙しくなる時期だし。でも、女性は熟女になってから”性の感度が上がる”といいますよね。そこでミスマッチが起こるのか、初めて彼氏をつくる……つまり不倫をするわけです。ここで開花しちゃう人が多いように思います。残念ながら旦那さんの影響で開花するって人はあんまり聞かないかもしれません。」(p.177-178)
AVの制作スタッフの男性は、このように言います。私自身、性的に「落ち気味」を実感しているので、さもありなんと思いますよ。(笑)
「介護施設なら、個室で一人ひとりお風呂に入るんじゃなく、混浴で大浴場に入ったほうがいいんじゃないですか。Hが好きな人はとにかく健康で明るいですね。よく笑うし、しゃべるし。僕も歳とって、こんなふうになれたらいいなと思います。枯れていく感じじゃなく、咲いていく感じですよね。衰えることあるのかな?」(p.178-179)
同じAV制作スタッフの言葉ですが、今、私が介護施設で働いているだけに、こういう考えもあるなぁと思いました。
「人生もゴールが近い時期に、さまざまな男性から女として求められつつ、パートよりもちょっよいい金額を稼ぎ、健康な身体で毎日を過ごしている……私は、その生き方を、人間としての尊厳や自由があるものとして、「いい生き方だな」と思っている。」(p.183-184)
「若くしてこの業界に入った女性は、案外その後も逞しくやっている。
セックスワークは”堕ちる”場所ではない。
チャンスをつかむ場所なのだ。」(p.189)
たしかに、そういう一面があるなぁと私も思います。
そもそも、なぜ不特定多数の人とセックスしてはいけないのか? 誰にも答えられません。神が決めたから? クリスチャンなどには説得力がありますが、そうでない人、たとえば日本人には本来、説得力がありません。
古事記には天岩戸伝説があり、岩戸にお隠れになった天照大神を引き出すために、神々がストリップショーのような宴会を堪能しています。それが日本人の神話なのです。
そうであれば、まずは思い込みを捨ててみるところから始めてはどうかと思います。そういう意味でも、超熟女と呼ばれる高齢者風俗嬢が活躍する現実があることを知るのも、悪いことではないと思うのです。
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