日本講演新聞で紹介されていた本です。著者の末松孝治(すえまつ・たかはる)さんは、「ふくしまの男性家庭教諭」という肩書です。
男性で家庭科を教えているというのも珍しいのですが、この本は、末松さんが学年通信の裏に書き続けたコラムの集大成となっています。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「哀しいのは、大人になったいまでも、長く継続することがなかなか難しいということです。ですから、私にとって「自分との約束」というのはそれほど信用できるものではありませんでした。他の人との約束は一生懸命に守ろうと努力できるのですが…。
「自分との約束」とは、自分で決めたことを実行するということです。では、なぜ自分と約束するのかというと、それはきっと現状の何かを変えたいという決意があるからだと思います。」(p.43)
「継続は力」という格言がありますが、私の高校の時の陸上部の顧問の先生が座右の銘だと言っていました。どんな凡庸な人であっても、継続していれば必ず大成するのだと。
末松さんは、自分が継続できない性格だと告白します。他人との約束は守ろうとするけど、自分との約束を守れないのだと。そこで、次のような方法を提案します。
「それなら一層のこと、「もう『自分との約束』はあきらめ、他人との約束に変えてしまおう」と考えてみてはいかがでしょうか。そうすれば、「あの人と約束したんだからやらなければならない」に変換できるので、きっと成功率はあがるだろうと思うのです。」(p.44)
そう言って、生徒たちに自分と約束しようと呼びかけます。これが効果があるのかどうかはわかりませんが、生徒指導というのは、こういうものかもしれませんね。
「「偶然」という漢字を分解すると、「人」+「禺」(会うという意味)+「然」(然るべくして、必然という意味)になります。つまり偶然は、「人が出会うのは必然」と書くのです。不思議ですね。」(p.47)
学年通信のコラムを書こうとしてアンテナを張っていると、こういう引き出し(うんちく)がどんどん増えてくるのだそうです。
それにしても、偶然という言葉が実は必然を示しているとは、面白い考え方だなぁと思いました。
「片腕で見事に打ち、片腕で守るピートのプレーは、見ている人々に大きな感動を与えたのです。」(p.69)
片腕でメジャーリーガーになったピート・グレイの話を取り上げています。私はまったく知らなかったので、言われるがままに「ピート・グレイ」で検索してみましたよ。
メジャー在籍は1年間で、それほど活躍できたわけではなかったようですね。けれども、そういう選手がいたからこそ、後のアボット投手のような選手も出てこれたのかもしれません。
「最後に、ピート・グレイの座右の銘を紹介します。
「A winner never quits. (勝者は絶対にあきらめない)」」(p.70)
先程の継続の話とも重なりますが、「あきらめない」こと、「続ける」ことが、成功への唯一の道なのだと思います。
鶴ヶ城には縦横2.5m以上ある推定7.5トンの巨石が石垣に組み込まれているそうです。東山温泉の入り口にある山から約1kmの距離を運ばれてきたのですが、これをどうやって運んだかという話です。男衆が約100人で運んだと言うのですが、1人あたり約70kgを持って1kmも進めるでしょうか?
これを可能にする秘策があったと言うのですね。これが実に面白かった。
「実は、石の上に「あるもの」を乗せてさらに重くしたのです。そんな逆転の発想で石を動かしたというのです。では、いったいなにを乗せたのでしょうか?
それは、「女性」でした。石の上に美しく着飾った心動かされるほどの魅力的な女性たちを乗せ、歌い踊らせたといいます。それを見た男たちのテンションは最高潮にまで上がり、その勢いで7.5トンもの石を持ち上げて1キロ先まで運びきってしまったというのです。」(p.141)
男というものは、なぜにこうなのでしょうね。(笑)
いずれにせよ、こういうワクワクする動機があると、不可能も可能になるってことですね。
この話で思い出すのは、天岩戸伝説です。天照大神がお隠れになった時、神々が相談してやったのが大宴会。その中心には天宇受売命が半裸状態で踊っています。それにやんやと喝采を贈る神々。楽しかったのでしょうね。私は、こういう話が好きです。
「この二つの話に共通する視点は、「落ちたりんご」、「流された工場」を見たのではなく、「落ちなかったりんご」、「流されなかった缶詰」という残されたものに目を向けたということです。
これから皆さんは人生において、どうにもならないピンチが一度や二度は訪れるかもしれません。そんなときは、「ものの見方や考えかたを変えてみる」ということを心がけてみるといいでしょう。すると、それまで最大のピンチだと思っていたことが最高のチャンスに変わることもあるかもしれません。」(p.225-226)
有名な話ですが、平成3年9月の最大瞬間風速50mを超える台風によって、青森県津軽地方の特産のリンゴの約9割が落ちてしまったという話です。売り物にならなくなったリングを見て意気消沈したリンゴ農家の方々。その中で、落ちなかったリンゴに注目し、受験生への贈り物にしたらいいと考えた人がいたのですね。
また、2011年の東日本大震災の津波で缶詰工場が大打撃を受けた時、流されなかった缶詰に注目して、「希望の缶詰」として販売し、復興の一歩にしたという話です。
すべては見方次第ですね。末松さんは、ひすいこたろうさんの本をたくさん読まれているようです。そういう点、私とも親和性がありますね。
これも話題になった2013年3月のWBCアジア予選「日本対台湾」戦での出来事です。試合は日本が逆転で勝ったのですが、試合終了後に台湾の選手がマウンドを囲んで円になり、全員がスタンドの方を向いて一礼したという出来事です。
これには伏線があって、試合の2日前にTwitterで、東日本大震災の時に台湾から多大な支援をしてもらったことのお礼を、スタンドから発信してほしいという訴えがあり、その試合では、「謝謝台湾」のようなプラカードがたくさん掲げられました。それを見た台湾の選手が感動し、試合後のこの行動になったのです。
「野球は、台湾で最も人気のあるスポーツです。WBCの日本戦も台湾各地の大型ビジョンでも放送され、2300万人の人口の半数を超える1200万人が視聴しました。この東京ドームの映像は国際映像で台湾の人たちへと届けられ、日本人にとって台湾の方々への感謝を伝える機会となりました。
台湾が震災後、他国以上の支援を日本に対してしてくれたのはなぜでしょうか。その理由を知りたい人は、私のクラスの書棚にある白駒妃登美著『感動する!日本史』(中経出版)のP84〜を読んで下さい。」(p.235-236)
白駒妃登美さんの「感動する!日本史」は、私もブログ記事で紹介しています。P84から書かれているのは、台湾のために尽くした日本人、八田與一さんなどのことです。その恩を台湾の人たちは忘れずにいてくれたのです。
同じようなことは、他の国でもありますね。トルコが親日なのは、エルトゥールル号遭難事件のことを知って、日本人をリスペクトしてくれているからです。
これも白駒妃登美さんがいくつかの書籍で紹介してくださっています。「海難1890」という映画がありますが、このトルコの人たちの恩返しによって、イラン・イラク戦争時の日本人の危機が救われました。
また、イランも親日国です。これは、イランが石油を輸出できなくなった時、メジャーに対して喧嘩を売った出光興産の出光佐三氏の活躍によるものです。この話は、映画「海賊と呼ばれた男」になってますね。ひすいこたろうさんも「心が折れそうなときキミに力をくれる奇跡の言葉」という本の中で、この話を紹介されています。
私はこの映画を観て、出光佐三氏に興味を持ち、「マルクスが日本に生まれていたら」という同氏の本を読んでみました。これもお勧めの1冊です。
本書は、高校生向けに末松さんが書かれたコラムを集めたものです。なので、一つひとつのコラムを読みながら、「ふ〜ん、なるほどね。」と感じ入りながら読めるものになっています。
子どもへの贈り物としても良いと思いますし、大人が読んでみても、読み応えがあると思いました。
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