2022年05月31日

不倫と正義



Twitterで国際政治学者の三浦瑠麗(みうら・るり)さんをフォローしていたのですが、本を出版されるとのことで興味を持って買いました。中野信子(なかの・のぶこ)さんのことは存じ上げなかったのですが、脳科学者だそうです。
専門分野では大きく違うお二人ですが、女性であることと、割りと自由な考え方をされるように感じました。そういうこともあり、お二人がどういう対談をされるのか興味がありました。

最初に結論を言うと、少しもやもやした感じが残りました。対談というスタイルからして、そうならざるを得ない部分もあるかと思います。
また、お二人とも結婚されているのですが、夫が不倫した場合にどうするのか、という点に関して、心穏やかではいられないというようなことを言われているのに、それ以上の深掘りがない点です。
つまり、「不倫=悪」という観点を是認したまま、そこまでバッシングする必要がないじゃないか、ということになるかと思うのですが、そのスタンスが明確に感じられなかったのです。

ただそれでも、不倫とか結婚という制度についてとか、いろいろな話を聞くことができました。
そういう点では、有益な内容だったかと思います。


ではさっそく、一部を引用しながら本の内容を紹介しましょう。

もちろん、別々の人間であれば誰であろうと、「どの意見も完全に一致する」ということは論理的にあり得ない。あるとしたらどちらかが妥協して、あるいは心的負担というコストをかけて、関係性を優先することを主たる目的に、自分の意見をゆがめている可能性がある。けれど、そんなことをしなくても、互いに違う意見を持っているからこその面白さ、刺激、また内省につながる発見を得られるという喜びを味わえる能力自体が、知性というものだろう。三浦さんは、違う意見を持っていることを豊かさと捉え、是とできる人であると思う。」(p.3-4)

中野さんの三浦さん評です。私も、そういう雰囲気を三浦さんには感じます。
そして、こういう評価ができる中野さんも、ただ者じゃないなと思いました。この本を読み始めるにあたって、面白そうだなと感じた部分です。


前提としてまず申し上げておきたいのは、一夫一妻型の種って哺乳類では3〜5%とされているんですね。そもそも圧倒的に少数派なんです。その上、多くの人が誤解していると思いますが、人間は生物としては一夫一妻型ではないんです。一定の発情期もないから、いつでもパートナーを探すことができる。そして、同時に複数のパートナーを持つことが可能な脳を持っている。一夫一妻型の種ではそれができません。」(p.20)

中野さんの発言ですが、科学的に見ればそういうことなのでしょう。

ある遺伝子を持っているタイプの人では、未婚率、離婚率、不倫率が高くなる。この遺伝子の持ち主は、身内にはやや冷たい行動を取りがちになるためではないかと考えられています。一方で、外づらはいい。そのため、社会経済的地位も上がりやすくなる。で、「よく稼ぐ」です。1人にこだわる気持ちが薄いからか、人脈を形成するのも得意で、その場限りの雰囲気を作るのも上手です。」(p.21)

アルギニンバソプレシン(AVP)という幸せホルモンと呼ばれる脳内物質に似た物質があるそうですが、その受容体タイプによって性行動に違いが出るのだそうです。パートナーを1人に固定した方が心地良いのか、複数だったり次々とだったりの方が心地良いのか、という違いです。
そして、いわゆる「稼ぐ人」は、パートナーを1人に固定できない傾向があるのだそうです。何となくわかる気もします。

だから、片方のタイプの脳の人がもう片方のタイプの脳の人を「そんなの人間としておかしい」とかあれこれ言ってみてもあまり意味がない。それぞれの機構で「自分の感覚が普通だ」と脳が処理しているから。それなのに「生まれたからにはいろんな人と付き合いたい」だとか「1人の人と添い遂げるのが本当の幸せ」などと言い合っても話がかみ合わないわけです。あなたの茶色い目はおかしい、いやあなたの青い目こそいかがなものか、と言い合っているようなものです。」(p.29)

脳の機構によるものであれば、一方的な価値観である「倫理観」を押し付けようとしても無理がある。そう中野さんは言います。


要は、そのケースでは1人の女性にパートナーが2人いるんですね。ご本人は、私はポリアモリーという性的志向を持っているので、フェアに責任を持ってこの2人のパートナーと関係を維持しているんです、と言われるんです。でも、いやいや、それはパートナーの相当な犠牲のもとに成り立っているんじゃないですか? と思いましたね。身分制社会で別の目的を婚姻に求めるならともかく、好きになった人に他の男がいても、彼女はポリアモリーだったんだと思えば傷つかない、なんてことがあるわけないでしょう。だからって、そんなのは駄目だ! とか言いませんけどね。」(p.58)

こういうところに、三浦さんの限界を感じました。傷つかない人がいてもいいんじゃありませんかね。たとえば、パートナーもポリアモリーだったとしたら。
岡本かの子さんは、ご主人と若いパートナーと3人の生活をしていたそうです。ご主人が傷ついたかどうかは知りませんが、そういうかの子さんを丸ごと受け入れて、愛したのではないかと思いますよ。

そもそも、愛する相手を思い通りにしたいと考えるなら、それは愛ではないのです。違っているのが当然で、違うから面白いし魅力的だ、とも言えるわけです。
最初に引用した中野さんの三浦さん評からすると、この三浦さんの発言はちょっと残念ですね。

執着をしない恋愛というのはないでしょ。」(p.59)

中野さんもそう言って、三浦さんに同調します。
しかし、本当にそうでしょうか? 少なくとも私は、妻に執着しているとは思っていません。もちろん、それは恋愛ではないと言われればそれまでですが。
けれども、この時点でお二人の対談に、あまり魅力を感じなくなったのは事実です。


でも、要するにあの壁ドンの様子って、「支配されている」「身動きとれなくされている」わけですよね。そのことを、ああ、自分は要求されているんだと感じて喜ぶわけです。そういう回路があるんだなということですよね。」(p.92)

支配されることを必要とされていると感じ、そこに喜びを感じる。愛に飢えている時、執着している時、ありがちなことですね。


次は、男性の攻撃性についての話題です。男性が自分をリスペクトしろと迫り、そうしなければ暴力を振るうようなところがあるのに対して、女性にはそういうところがあまりない。その話題に関して三浦さんは、そういった男性がいても自分がアクティブになれたのは自分なりの防御の術を学んだからだと言います。

一つは「透明シールド」なんですよ。外部からの性的な、あるいは敵意のある視線や態度に対して、私にしか見えない「透明シールド」で自分の心を守るというのがあるんです。
 もう一つは、基本、みんなのことを好きになるように、いい面を引き出そうとする心がけですよ。私は誰に対しても割と悪意に取らないよう、善意に取るようにすることによって、世の中が恐怖ばかりではないという世界観を持っているというか、つくり出したんでしょうね。
」(107-108)

こういうところが三浦さんの魅力でもあるのでしょう。


社会全体の発想という点でいうと、結婚を尊べ、すなわち妻子を放り出すなというのは、「村」の社会保障で面倒を見るんじゃなくて、「家」単位の社会保障を機能させてほしいからだと思うんですね。人に迷惑をかけるな、という。その気持ちが強すぎて、公的な社会福祉が存在する現代でも、有名人が離婚すると、シングルマザーでやっていけるのか、などという余計なお世話に近いような記事が出回りますよね。」(p.138)

離婚や、それにつながる不倫は、「家」で保障すべき責任を果たさないことに対する怒り、つまり「家」に属さない他の「村」人に迷惑がかかるという発想なのでしょうか? そこは何とも言えませんが、三浦さんはそう考えるようです。


1人の男の人がたくさんの女の人に子供を産ませたけど、その陰には全く遺伝子を残せなかった男の人が大量にいたということですよね。そういう時代は実は意外と人類の時代を追っていくと長くて、今みたいに一夫一妻が保障されているなんて、男の人はパラダイスだよって思いますよ。結婚生活のおかげでいい思いしているのに、それに異を唱えるとは何事かって。でも、不倫報道でコメントしなきゃいけないときに、「でも一夫多妻制のほうが人間にとっては普通です」ということを私が言うと、えっ、男の味方ですか、みたいなことを嬉々として言う男の人が必ず現れる。いや違うよって(笑)。なんでみんなオレは一夫多妻側だと思っているのかすごい不思議です。」(p.154)

動物界を見ると、まさにそうですね。有能なオスは子孫を残せますが、残せない多数のオスに支えられているとも言えるわけです。
たくさんある精子の中の1つだけが受精できて、子孫を残せるというのも、ある意味で同じことですね。


国は不貞行為というものを民法上の不法行為として位置づけることによって、不貞行為は結婚という制度を裏切るものだって勝手に決めちゃったわけです。」(p.160)

中野 決め事をしていない夫婦のほうが長続きするという調査があるんですよね。」(p.161)

婚前契約書も、関係を安定させなくするものとして結果的に機能してしまうという面がある。大事なのは、ちょっと困ったねということがあったときに話し合える間柄、そういう信頼関係のはずなのに、外部装置の存在が、関係を安定させるどころか、かえって弱くしちゃうということを今いみじくも指摘してもらったような感じがします。」(p.161)

制度によって永遠の愛を保障しようとすると、かえって壊しやすくなってしまうという指摘です。不倫を違法なものにすることで、かえって許せないことになってしまい、関係が破綻しやすくなっている面があるのではないか。愛が自由なら、まさにそうなるでしょうね。


この話を素直に受け止めて考えると、日本は世界各国の中では最も世俗主義的な部類なわけですよ、本来は。宗教の要素もどちらかというと低いしね。最も価値相対主義的であってもおかしくない。」(p.208)

なのに、なぜか不倫に対しては強いバッシングが起きている。すると宗教的な倫理でバッシングしているというよりも、社会を機能させなくなってしまう不安みたいなものの方が根強いんじゃないかとも感じますよね。」(p.208-209)

日本人の場合は、唯一神の代行者が「世間」なんだと思うよ。「民衆」というと一見、主権在民的なことを言っているようで美しく感じられるんだけど、微細に網の目の張られたパノブティコン(中央の監視塔からすべてが一望できる監獄のこと)と考えるとかなり怖い社会。私たちの「世間」はアブラハムの宗教のような形を取らないけれど、人々の行動様式を制限したりある方向に誘導したりという機能だけで考えたら、宗教のような機能を持っているともいえる。それは、日本に独特なものかもしれない。これを同調圧力と呼ぶ人もいるだろうね。」(p.210)

不倫を倫理に反するという意味で考えた時、倫理を支える宗教がなく、何となくこれまでの社会が壊れてしまうような漠然とした不安が、それを否定する原動力になっているという見方ですね。
そして、その原動力である不安を正当化しているのが「世間」という目に見えないもの。何となく、「みんな」がそうなのだから、それに合わせるべきだという同調圧力ですね。


三浦 そこら中に性産業やラブホテルが林立している国で、そんな「倫」もへったくれもないだろうと思うはずなのですが、そうじゃないんですよね。「建前としての倫理」だろうと思うんですよ、これは。
中野 エクスキューズだよね。きれいで、自分が正しい側に立つための化粧みたいなもの。身だしなみとしての「倫」であって、本当に行動規範として植えつけられているかというと、そうではない気がしますね、「正しいラベル」みたいな感じ。
三浦 だから、何だろうな、みんなの見ているところで悪いことをしちゃだめだよと。
中野 見えないところならいいよっていう。
」(p.215-216)

他人に知られるようにやることは他人に影響を与えるから悪いということですね。知られないなら適当にやっておけと。たしかに、そういう面が日本人の思考にあるかもしれません。


三浦 女性が化粧をする姿を見て不快になるということ自体、すごい現代的なことですよね。だけど、ものすごい不快ってねぇ……わざわざこっちの様子を見て憤慨するというのはなんなんだと。
中野 女の舞台裏を見たくない、みたいな人いますよね。あるいは、してはならないとされていることをしている女に対するむかつきみたいなものもあるかもしれない。
」(p.218-219)

不倫バッシングと電車内での化粧バッシングには、共通点があるようにも思います。そのものはけっして「悪い」とは言い切れませんが、本来は隠しておくべきものであり、他人の目に触れることが「悪い」のだと。
私は同様に、公衆の面前で抱き合ったりキスしたりする愛情表現を嫌悪する気持ちも、同じではないかと思います。他人が見ている前でやるなよ、というもの。


「おわりに」の中で三浦さんは、本音と建前の中にバッシングの欲求が生じるのではないかということを考察されています。
つまり、本音では美しくありたい、正しくありたいと思っていても、自分の弱さからそうなれないでいる。でも、その弱さを開き直って認めてしまうと、本当は求めている美しさや正しさを放棄したことになる。それは嫌なので、建前としては美しく正しい自分であることを見せるが、実は他人に知られないそうではない部分を持っていることもわかっていて、そういう矛盾した自分を受け入れざるを得なくなっている。その本音が表に出されることが嫌なのです。
不倫が世間に知れ渡るということは、隠しておくべき本音を開き直って見せたようなもの。それが許せなくて、バッシングするのではないかということですね。

たしかに、そういう面があるのかもしれませんね。
結論としてはよくわからないということになるのですが、ああでもないこうでもないと、思考をめぐらしてみるのは楽しいことです。

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posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 16:07 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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