2022年05月02日

日本語が世界を平和にするこれだけの理由



何の縁でこの本を知ったのか忘れましたが、面白そうだったので買ってみました。著者は長年カナダで日本語教師をしておられた金谷武洋(かなや・たかひろ)さんです。

どうやら日本語の成り立ちが英語とはまったく違うという指摘だけでなく、そのことが世界平和に大きな影響を与えるという主張のようです。


ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。

ところが本当は何から何まで正反対だということに私は気づいたのです。
 それを知ることで、大きなメリットが二つあります。
 一つ目は、「普段あまり気づかれていない日本語の秘密」を知っていただけたら、日本語本来の美しさを生かしたコミュニケーションができるようになることです。「日本語に秘められた大きな力」に気づき、役立てていただければ、これほどうれしいことはありません。
」(p.5-6)

もう一つのメリットは、私たちの母語である日本語が英語とどう違うのかをはっきり理解すれば、英語の習得におおいにプラスになることです。」(p.7)

このように本書を読むメリットを最初に語られています。述語が最初(主語の次)に来る英語に対して、最後に来る日本語、ということは知っていますが、それ以外にも違いが多々あるようです。
そして、このことを通じて、日本人が日本語のことを実はよくわかっていない、という指摘もされるそうです。


ひとことで言えば、日本語は共感の言葉、英語は自己主張と対立の言葉だというのが私の結論です。
 日本人は話し手と聞き手の共通点に注目し、英語を母語にする話者は両者の違いに注目すると言ってもいいでしょう。
」(p.24)

これが世界平和につながってくるポイントになります。それは、本書の最後で出てきます。
ここからは英語などの言語と日本語の違いを紐解いていくのですが、この結論を知った上で読むと、よりわかりやすいでしょう。


さて、お互いを見合うのではなく、心を通わせるために二人が同じ方向を見ようとすると、不思議なことが起きます。
 相手と並ぶことで相手が視界から消えてしまい、見えなくなるのです。
 もちろん、話し手は初めから自分だって見えません。日常表現を比べて気がついた「英語の文には人間が出てくるのに、日本語の文にはいない」ことの理由の一つはそのためと言っていいでしょう。
」(p.30)

たとえば日本語の「ありがとう」と英語の「Thank you」を比べると、日本語には人が出てこないのに英語には人(you)が出てきます。このことが示すように、日本語は相手と一緒に同じ方向を見ているので、視界に人が入らないから言葉にも人が出てこないのだと言うのですね。
これは面白い視点だなぁと思いました。たしかに、「ありがとう」は「有り難いことです」という状況を述べる言葉です。「Thank you.(あなたに感謝します)」とは意味合いが違いますね。


第一章では、あいさつなど日常表現を比べて「英語の文には人間が出てくるのに、日本語の文にはいない」という結論を出しました。そして第二章の人名と地名の比較からも、これとそっくりの結論になりました。つまり、言葉を話す場を、劇の舞台にたとえるなら、英語はそれを演じる役者、「人間に注目」するのに、日本人は人間よりもその周りの舞台や背景、つまり「場所に注目」するということです。もしそうなら、全く同じ状況を日本と英語では全く違った角度からとらえていると言えそうですね。」(p.54-55)

様々な状況証拠を積み重ねながら、人に注目する英語と、場所に注目する日本語という違いをあぶり出そうとしています。


つまり、日本語という言葉そのものの中に「自己主張にブレーキがかかるような仕組み」が潜んでいるのではないか、と私は予想しました。」(p.73)

アメリカ人などが自己主張が激しく、自分の意見をはっきりと言うのに対し、日本人はあまりはっきり言わずに言葉を濁したりします。こういう民族的な違いも、実は言語の違いから来ているのではないか、と推測されるのです。


ですから英仏語と比べて日本語で少ないのを「人間」とするのは言い過ぎでした。そうではなく、初めて、つまり新しい情報として人間を出すときには「花子さん」や「太郎君」を使ってもいいけれど、「一度登場した人についてもう一度何か言うときにはわざわざ「彼」や「彼女」と言う必要は日本語にはない、ということなんだと修正したのです。」(p.83)

たしかに私も中学生くらいのころ、「彼(he)」「彼女(she)」という言葉に違和感を感じたことがありました。それは恋人のことを表す言葉だったからです。
日本語の場合、省略することが多いです。むしろ省略する(本当は話さない)方が日本語らしい言い方なのです。どうしても言う時は、「あのこ」「あの人」みたいな表現はあります。しかし、それとわかる場面で「あの人の家」とか「あのこの声」みたいな所有格での表現は、滅多に使われませんね。


日本の大学でフランス語を学び始めたとき、私が一番驚いたのは「動詞活用」でした。逆に言えば、動詞活用があるために、「食べます」などという簡単な日本文が何とそのままでは仏訳できないのです。誰が食べるのかが、つまり主語が決まらない限り、動詞の形(これを活用と呼びます)が決まらず、文が作れないからです。主語が文に「必ずある」のはそのためです。」(p.89-90)

英語は、せいぜい「三単現のS」くらいですが、それでも活用があります。フランス語はもっと細かくあるようです。
重要なのは、主語に対する動詞の活用があるかどうか、という点です。動詞の活用がある限り、文に主語が必要になってしまうのです。
たしかにこれは面倒くさいですね。実際、フランス人でも間違えてしまうのだとか。もう笑い話ですね。

ちなみに私が知っているタイ語では、動詞活用はありません。それどころか、まったく活用(変化)がありません。なので、覚えてしまえばすぐに話せる。発音が難しいという点はあるものの、文法的には非常に簡単だと思います。


日本語の文にはほとんど「わたし」が表れないのも、やはりその理由は話し手の「視点」、あるいは「立ち位置」です。
 上空からではなくて地上の、自分に見えている状況の中に「わたし」はいます。すると、「わたし」は話し手に見えなくなります。写真にカメラマンの姿が写らないのと同じことですね。
 そう考えたら、文の中から「わたし」が姿を消すのはむしろ当然と言わねばなりません。道に迷った日本人が「私はどこにいるの?」ではなくて「ここはどこですか?」と言うのも、自分(=わたし)が見えないから、という説明が一番いいのではないでしょうか。
」(p.122-123)

英語の話者は、全体を俯瞰した上空から見ているのに対し、日本語の話者は、話者の視点から見ているということです。それが文に「わたし」が出てくるかこないかという違いになって現れている、ということです。

この着眼点は面白いなぁと思いました。たしかに英語では「Where am I?(私はどこにいるの?)」と言います。日本語では「ここは、どこ?」です。でも日本語でも、集合写真を見ながらなら「私はどこにいるの?」と尋ねたりします。
つまり、視点が違うのです。写真を見ている自分の視点から、写真に写っている「私」を探せば、「(写真に写っている)私はどこ?」と言えるのですね。

ここでは、川端康成の「雪国」の冒頭の文を英訳した例も書かれていました。日本人なら乗客の視点でイメージするのに、英語話者は上空からの視点で、列車がトンネルから出てきた様子をイメージするのだとか。なるほどそういう違いがあるのかと納得しました。


「主語がいらない」ことと並んで、学校で教えてくれないもう一つの大きな日本語の特徴が「主題」です。学校文法の情けないところは、日本語にとって非常に大切な「主題」の本当の役割を教えてくれないことです。これは近い将来とか来年とか言わずに、今年から直してほしいと思います。特に文科省の大臣を始め、お役人の皆さんにお願いします。この問題と真剣に取り組んで一日でも早く解決することを、私は「国策上の大事」と考えています。」(156)

日本語には主語が要らないと言われますが、主題があると金谷さんは言われます。この主題を正しく認識していないこと、日本語文法教育で正しく教えないことが、間違った日本語を普及させることにつながり、ひいてはそれが世界平和に貢献できない日本語話者にしてしまうという論理のようです。

三上文法のすばらしさは、主題が句読点(つまり「、」や「。」です)を越えることを発見したことにも表れています。つまり、一度話者が「りんごは、」と日の丸を立てると、その後に盆栽がいくつ並んでもいいということです。
 英語やフランス語にはこんな便利なものはありません。助詞の「は」は、日本語の「スーパーてにをは」なのです。
」(p.162)

ここで言う「盆栽」は「文」のことです。戦後の日本語文法では、「〜は、」の「は」は、主語を示すと教えていますが、主語ではなく主題だと言っているのですね。主題とは、「これから○○について話しますよ」という複数の文のテーマを示しているということです。
なので、「私は、」というのは、「私」が主語ではなく、「私」について語ろうとする主題なのだということです。たとえば、「私は、英語が話せます。」という文の「私」は主語ではなく、主題なのです。文としては、「話せます」だけで成り立っていて、主語を入れる必要がないのです。


つまり、本書で注目してきた「わたし」と「あなた」の共存が、ここでは「敵」と「味方」の共存という形をとっているということに思いついたのです。そう考えれば、敵はいつまでも敵ではなくなります。
 国境を越えて、広く地球という一つの星の上に共存する人類というところまで連帯の和を広げてゆくなら、戦争という異常な状況に敵もまた当事者、そして被害者として巻き込まれていたと考えられるからです。確かに戦争では、ほんのひと握りの人たちを除いて、敵も味方もほぼ全員が犠牲者と言えるのです。「正しい戦争」などというものはありません。
」(p.207)

広島の原爆の慰霊牌に「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませんから」とあるのですが、この主語は誰なのかという論争がありましたね。過ちを犯したのは、日本なのか、日本の政府なのか、はたまたアメリカなのか、ということです。そこをあいまいにしているのが日本語であり、それが世界平和につながるのではないか、という指摘ですね。

私も同じように沖縄の墓参に来ていたアメリが人たちの姿を見て、私は、広島と沖縄の慰霊碑には共通する思想があることに気がつきました。それは、国や言葉はちがっても、結局我々は繋がっている、という「共存、共視の思想」であって、その「共視」の思想は日本語そのものに根っこがあるのだ、ということです。それがこの本でお伝えしたかった日本語の「共視」の思想です。」(p.209-210)

沖縄の慰霊碑には、亡くなられた日本人の名前だけでなく、戦って命を落としたアメリカ兵の名前も彫られているそうです。敵と味方を厳然と分けるのではなく、一緒に悲惨な体験をしたよね、という見方。それが日本語的な考え方なのですね。

今度の敵はイスラム原理主義です。テロを是とするイスラム過激派を容認はできませんが、私にはアメリカの「正義病」も同様に恐ろしいのです。その両者が不毛な殺し合いを続けています。実に愚かなことだと言わざるをえません。
 その意味では、今こそ、日本の出番なのです。日本的な共存、共生の思想は大袈裟でなく、地球を救える力を持っているのですから。その力の源泉が日本語であることこそ、本書が明らかにしようとしてきたことなのです。
」(p.212)

911後のテロとの戦いも、どっちが「正義」かという争いをやっています。アメリカにはアメリカの正義がありますが、相手には相手の正義があるのです。そこに気づかなければ、世界平和は実現しないのではないでしょうか。私はそう思います。


私は、ヨーコが、たとえ長年アメリカに住んではいても、日本語を話す日本人だったことがその大きな力の源泉だったように思えるのです。それは「日本語力」と言っていいものではないでしょうか。」(p.216)

ビートルズのジョン・レノンが、平和という考え方にシフトしたのは、オノ・ヨーコと結婚したことがきっかけになっているという見方ですね。そして、その核心的な要因は、日本語にあったと見られているようです。

その上で言いますが、日本語ほど、話者と聞き手を分離せず、進んで同じ地平に立って、できれば同じ袋に入ろうとする言葉は他にありません。その意味では、少なくとも私が学習して知っている10を越える言葉の中で、日本語は最も平和志向の、ロマンチックで幸せな、美しい言葉だと自信を持って言うことができます。」(p.223−224)

英語に代表される他動詞のSVO構文を基本とする言語の根本的な問題は、その構文が発想として「SとOの分離による二元論」、そして「S(主語)のO(目的語)に対する支配」へと繋がるということにあります。
 さらに、Sには「力」とともに「正義」がしばしば与えられてしまうのが一番危険なのです。英語を始め西洋の言語の話者が何か失敗をしてもあまり謝らないのはそのためでしょう。自分は力と正義が与えられるSの位置を常に保っていたいと思うからです。
」(p.224-225)

主語を明記しないと文法的に成り立たない言語は、「わたし」の正当性を主張しがちなのですね。そういう言葉を使っているから、そういう考え方が自然と身についてしまう。そういうことがあるのかもしれませんね。


日本語ブームと言われますが、世界でどれほど日本語が広まっているのか、私にはよくわかりません。金谷さんは、日本語を学んだ外国人が、ますます日本を好きになっているという事実から、これからも日本語が広まっていくと予想されています。
そこには、日本語は難しい言語ではなく、むしろ易しい言語なのだという見方があります。たしかに読み書きに関しては難しいのですが、会話は易しいという見方ですね。これは、私もそうかもしれないと認識を新たにしました。

さて、日本語が広まることが、本当に世界平和につながるでしょうか?
何とも言えませんが、可能性はあるなと、この本を読んで思うようになりました。

book20220501.jpg
 
タグ:金谷武洋
posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 17:19 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

●コメントを書く前に、こちらのコメント掲載の指針をお読みください。

ランキングに登録しています。面白かったらボタンをポチッと押してね。
↓↓↓↓
にほんブログ村 ライフスタイルブログ 自分らしさへ