日本講演新聞(旧「みやざき中央新聞」)に、とても魅力的な記事を書かれる人がいます。現在は中部支局長をされている山本孝弘(やまもと・たかひろ)さんです。最近は時々、社説も書かれるようです。随分と出世されたなぁと思いながら、注目していました。
その山本さんが、本を出版されたと聞きました。最初のご著書ですから、これは買わずにはおれません。さっそくネットで注文しました。
新聞でも、センスの良いコラムを書かれていた山本さんが、いったいどんな本を出版されたのかと思ったら、文庫本サイズのエッセイ集のような本でした。
旅がお好きで、経験豊富な山本さんのエッセイは、読んでいてほっこりしたり、ホロリとしたり。そんな見開き2ページにぴったり収まるエッセイが、36話、収められていました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。それほど長い文章ではないので、特に気に入ったエッセイを2つ選び、そこからの引用です。
「今では口癖になっているという桜井さんの台詞に心を打たれた。
「私は不運ではあったが不幸ではない」
不運を不幸だと思わない生き方をする人に幸福はやってくるようだ。」(p.55)
「不運を不幸と思わない生き方」と題したエッセイで、桜井昌司さんという冤罪被害者の方の話です。あの冤罪があったからこそ幸せに生きられる。そう桜井さんは本気で思っておられるようです。
「妻の無言の励ましを受けて世間の攻撃と戦ってきたと言う河野さんは、さらにこう言った。
「人は間違えるものです。仕方ありません。人を恨むことで人生に与えられた貴重な時間を費やすくらいなら他のことに使いたい。私は人格者ではありません。許す方が楽だからそうしているだけです」
平穏に常に感謝し、今は釣りが楽しみだと語る彼に真の強さを見た。」(p.57)
これは「その男は「許す方が楽だ」と言った」と題するエッセイで、松本サリン事件の被害者でありながら、犯人扱いされた河野義行さんの話です。
河野さんは、刑を終えた犯人を自宅に優しく迎え入れました。何の落ち度もないのに、しかも被害者なのに、犯人扱いされて苦しめられた。その原因となった犯人を、河野さんはいとも簡単に許されたのです。
それは、14年間、意識が戻らずに亡くなられた奥様から、いつも見守られ、励まされてきたという思いがあったからのようです。恨んで生きるのも人生なら、許して生きるのもまた人生。河野さんは、それが楽だからと言って、許す人生を選ばれたのです。
山本さんのエッセイには、いろいろな人が登場します。そこで語られるエピソードは、山本さんご自身の経験の深さによって培われた人間観察力によって掘り出された、一級品の彫刻のような感じがします。だから私は、山本さんの文章が好きなんですね。
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