JALの再建など、困難な事業を次々と成功に導いてきた稲盛和夫(いなもり・かずお)氏の本を読みました。ミリオンセラーとなった前作「生き方」の続編になるとのことです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「そんな私を見かねたのか、当時隣に住んでいたおばさんが一冊の本を貸してくれました。そこにはおよそ、次のようなことが書いてありました。
「いかなる災難もそれを引き寄せる心があるからこそ起こってくる。自分の心が呼ばないものは、何ひとつ近づいてくることはない」
ああ、たしかにそうだ、と私は思いました。病気を恐れず懸命に看病をしていた父は感染せず、また病気など気にせず平然と生活していた兄もまた罹患しなかった。病を恐れ、忌み嫌い、避けようとしていた私だけが、病気を呼び寄せてしまったのです。」(p.015)
稲盛氏は小学生のころ、肺結核の初期症状である肺浸潤にかかり、闘病生活を送ったそうです。死を間近に感じて、恐怖におののきながら過ごしたのだとか。
そんな中で1冊の本との出会いがあり、すべては自分の心が引き寄せているということを知ったのですね。私も母からある本を勧められて、同じように感じたことがありました。ひょっとしたら同じ本かもしれませんね。
「栄光に満ち、歓喜きわまる日があれば、苦難にさいなまれ、歯を食いしばって耐え忍ぶ日もあるでしょう。
そんな人生を、私たちはどう生き抜いていったらよいのでしょうか。この世という荒海をどのように漕ぎ進めばよいのか。
それは、実にシンプルなことなのです。人生で起こるあらゆる出来事はすべて自らの心が引き寄せ、つくり出したもの。そうであればこそ、目の前に起こってきた現実に対して、いかなる思いを抱き、いかなる心で対処するか−−それによって、人生は大きく変わっていくのです。」(p.035)
たとえば苦難な状況に出会った場合にも、運命を呪って自暴自棄になる人もいれば、希望を胸に困難を克服しようとする人もいます。目の前の現実がどうかではなく、自分がどういう心持ちで生きるかが重要なのですね。なぜなら、自分の心が原因だからです。
「京セラの本社の前には、連日テレビカメラが列をなし、私が頭を下げて謝る姿が幾度となくテレビで放映されました。私は身も心もすっかり疲れきってしまい、老師のところに相談に上がったのです。
老師はいつものようにお茶を点(た)てて、私の話をじっと聞いてくださいました。そして、「それはよかったですね。災難が降りかかるときは、過去の業(ごう)が消えるときなのです。それぐらいのことで業が消えるのですから、お祝いしなければなりませんな」といわれたのです。」(p.043 - 044)
京セラが人工膝関節の認可を受けずに製造、供給していたことで、世間からバッシングを受けた時の話です。認可を受けていたのは人工股関節だけでしたが、医療関係者からの急を要する強い要望があって、人工膝関節の認可を待たずに供給したのでした。
稲盛氏は一切弁明せず、ひたすら頭を下げたとのこと。それでも心身が疲弊し、元臨済宗妙心寺派館長の西片擔雪(にしかた・たんせつ)老師の話を伺いに行かれたのです。
そこで教わったのは、災難を喜ぶという考え方でした。意図的に喜ぶことです。
「喜ぶことができれば、おのずと感謝することができます。どんな災難でも喜び、感謝すれば、もうそれは消えてなくなるのです。」(p.043)
この考え方は、安岡正篤(やすおか・まさひろ)氏の「喜神を含む」という考え方に通じますね。また、良寛禅師の災難を避ける妙法の話にも通じます。起こったことは受け入れること、しかも喜んで受け入れることが大事なのです。
「瞑想でも座禅でもよいのですが、毎日短い時間でもよいので、心を平らかに鎮めるひとときをとることによって、真我の状態に少しでも近づくことができる。それは人生全般を豊かで実りあるものにしてくれる一助となることでしょう。」(p.189)
「神との対話」シリーズでも瞑想を勧めています。静かにして自分と向き合う時間が大切なのですね。
「しかし不思議なもので、進んでいくのを不安に思ったことはありませんでした。何か大きなものに守られているような安心感があり、その中で信頼と確信をもって歩いてこられたように思います。
あるいは、恐怖や躊躇を感じる余裕すらなかったというほうが正しいかもしれません。深い霧に覆われて一寸先すらも見えない、そんな道を必死懸命に、目の前の一歩を踏み出すことだけを考えてひたすら歩んできた。」(p.203 - 204)
半世紀以上も経営を続けられた稲盛氏は、危険で困難なことの連続だったが、不安を感じなかったと言われます。不安を感じる余裕もなく目の前のことに没頭したのだと。
ただ、心のどこかには、常に自分の心を磨いて自己を高めていれば、運命は必ず導いてくれるという信仰のようなものがあったとも言います。それによって安心感を得られたのではないかと。
経営の技術に関することは、ほとんど書かれていません。どういう心持ちで困難な出来事に対処してきたか、それが書かれているだけです。
常に自分の心を磨くこと。小さな自分のためではなく、全体のために「良い」と思うことを優先する。他に恥じることのない美しい心を保つ。
そういう生き方をすることで、運命は良いように導いてくれるのだということを、稲盛氏は語っておられるのです。
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