Twitterで紹介されていて、興味を覚えたのですぐに買ってみました。Kindle版の小説です。著者は比嘉ダイヤ(ひが・だいや)さん。表紙にもあるように、LGBT、発達障害、虐待、ポリアモリー、霊的体験がてんこ盛りの小説です。多様性ということ、愛ということを、深く考えさせられる内容になっています。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。ただ、これは小説なので、ネタバレにならない範囲で引用します。
最初に、この小説の体裁を説明すると、主人公のエリが、親しい友だちに、自分のことを話すというスタイルで物語が進んでいきます。したがって、登場人物は他にたくさんいても、語っているのはエリだけです。
ちょっとおちゃらけた感じのエリですが、発達障害があり、子どもの頃から霊的体験もしていて、母から虐待を受けたトラウマがあります。そんなエリが、自分がポリアモリーだということに気づいていく中で、自分の心の問題と向き合っていくのです。
自分が特定のパートナーとだけ関係を持つモノガミーだと思っていて、男性(タクヤ)と結婚したエリ。しかし、魅力的な女性(エステラ)と出会ったことで、ポリアモリーだと気付かされることになります。そこでエリは、タクヤにカミングアウトすることに決めました。
以下、断片的に引用しますが、エリが自分の心に正直に生きようとする姿が見て取れるかと思います。
「あたし は 性別 問わ ず、 たくさん の 人 を 好き になり ます。 これ が あたし の セクシャリティ。 これ が あたし の パーソナリティ。 だから 変え られ ない。 これ が 本当 の自分 なの。
そう やっ て 自分 の セクシャリティ を ハッキリ と 自覚 する こと。 それ が、 まずは 大切 な 第一歩 だっ た。」(Kindle の位置No.467-470)
「あたし は 彼女 への 恋 を通して、 どんどん 本当 の 自分 を 取り戻し て いっ た の。
無意識 の うち に、 社会 常識 に 合わせ て 抑圧 し て 閉じ込め閉じ込め て い た 自分 を、 一つ ずつ 取り戻し て いったん だ よね。
たま しい を 解放 さ れる 喜び で いっぱい だっ た よ。」(Kindle の位置No.498-500)
「それ って エゴ じゃん。 相手 の ため に 与える 純粋 な 愛 では ない じゃん。 なー ん だ。 そう 思っ たら すごく 気 が 楽 に なっ た の。
嫉妬 イコール 愛 だって 思っ て た のは 完全 に 間違い だっ た って。 だから 反射的 な 怒り や 反発 は ある だろ う けど、 三日 も すれ ば その 状況 に 慣れる と 思う。」(Kindle の位置No.584-586)
「コツ として は、 お互い に 自分 の ルール を 簡潔 に 説明 する こと。 その ルール の 背景 を 理解 し て もらっ たり、 共感 し て もらっ たり する 必要 は ない の。 お互い に 自分 の ルール を 説明 し あっ て 共通点 を 探し て、 一緒 に い られる 場所 を 探す こと。」(Kindle の位置No.601-603)
「それ を 聞い た 彼 が どういう 選択 を する のか、 それ は 彼 が 決める こと だ。 それ は あたし の コントロール できる こと じゃ ない。
すべて を 包み隠さ ず 話す こと。 あたし に できる こと は そこ まで。 それで 彼 が どういう 選択 を し た として も、あたしはそれを受け入れるしかない。」(Kindle の位置No.667-669)
「どっち が 幸せ か、 どっち がより 自分 らしく 素直 に 生き られる か って いつも 考え てる の。 社会 常識 よりも 自分 の 心 に 従っ てる。 自分 の 心 を 無視 し て 生きる なんて、 あたし には 無理 な ん だ。」(Kindle の位置No.888-889)
「きっと あたし 以外 にも、 スピ や 発達障害 の こと で 自分 を ごまかし て 否定 し て 生き てる 人 が たくさん いる だろ う ね。
誰 もが 自分 らしく のびのび と、 ありのまま に 生き て いける 世の中 だっ たら いい のにね。」(Kindle の位置No.1223-1225)
自分に正直であること。そして相手にも正直であること。「神との対話」でも語られていますが、「正直」ということが、重要なキーワードだと思います。
そして、自分の価値観を他人に押し付けないこと。他人のことは他人が決めればいいという、アドラー心理学の「課題の分離」が重要だということも語られています。相手を自由にさせることが愛なのです。
そうすれば結果として、多様性を受け入れる社会になります。多様性とは、それぞれが自由に自分自身でいられるということなのです。
こうしてエリは、自分自身と向き合い、ありのままの自分を受け入れることで、変わろうとします。しかし、どうしても弱い自分が現れてしまいます。そんな時のコツも語っています。
「この 浄化 魔法 には ちょっとした コツ が ある よ。
最初 に「 ねえ ね え リノ、 今 から 十分 だけ グチ 聞い て くれる?」 って 言う の。 そして 終わっ たら「 あー スッキリ し た!」 って 言う こと。
最初 と 最後 の 区切り を つける 魔法 の 呪文 を 言う ん だ よ。 これ すっごい 大事 ね。」(Kindle の位置No.1842-1843)
「ダメ で 弱く て 情けない よね。 でも、 それ が あたし で すっ て 堂々 と し てれ ば いい。
そういう 自分 の こと、 もう 許し て あげよ う よ。 そのまま で いい じゃん。 顔 を 上げ て 前 を 向こ う。 自分 の こと も 人 の こと も、 いびつ な 形 の まま 愛し たい。
正しい こと だけが 美しい って わけ じゃ ない。」(Kindle の位置No.2095-2098)
他の人から見れば「おかしい」のかもしれないし、「正しくない」のかもしれない。そして、自分自身も、そんな自分は嫌だと感じているかもしれない。でもすぐには変われない。そんなジレンマもある中で、まずは「これが今の自分です」ということを受け止めることが大切なのだと思います。
感情は抑え込まないこと。抑圧せずに目の前にさらけ出してみること。そうすることで、そんな自分を受け入れられるようになります。そして、受け入れることによって、少しずつ変わっていけると思うのです。
ちょっと変わった小説ですが、人間として大切な「生き方」について深く考えさせられる内容だと思いました。LGBTとかポリアモリーなど、世間の常識を最初からガンガンぶち破るため、嫌悪感を覚える方もいらっしゃるでしょう。そういう方にはお勧めしませんが、多様性こそが重要だと感じている方は、読んでみられてはいかがでしょうか。
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