Youtube動画で主に政治に関して話しておられる松田学(まつだ・まなぶ)教授の本を読みました。経歴を見ると、元財務官僚だそうで、今は東京大学大学院客員教授であり、松田政策研究所代表など、いくつもの顔をお持ちのようです。(「松田まなぶの公式ホームページ」はこちら)
松田氏は、まもなく本格的な「仮想通貨の時代」がやってくると言います。それによって、私たちの生活が大きく変わる可能性があると言われるのですね。そこでこの本では、「お金とはなにか」「仮想通貨の本当の存在意義」「お金を使いこなすための基礎」について、わかりやすく解説しているのです。
この本を読むのに、ITや金融の知識は必要ありません。社会人1年生のカナちゃん、その友だちのトシくん、そして「みらいのお金」の専門家マツダ先生の会話形式で書かれています。物語を読んでいる内に、自然と必要な知識が身につくという仕掛けですね。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「インターネットで海外の情報に簡単にアクセスできるように、仮想通貨は経済の国境を軽々と超えていくんだ。これは日本に暮らすみんなの仕事や生活にも大きくかかわってくる。」(p.38)
仮想通貨は、本来は暗号通貨と表現するのが正しいようです。インターネットにつながっていれば、どこの国にいても使うことができるお金。その国の貨幣に両替しなくても使用することが可能です。
とは言え、今現在ではそれほど多くの店では使えないし、決済に時間がかかるというデメリットもあります。その辺の改善がされないと、仮想通貨でお買い物、という時代にはならないでしょうね。
「ブロックチェーンは、正直者しか使えないシステムと言っていい。後ろめたいことや、悪い考えのある人は使いたがらないだろう。まともにビジネスをしている会社はすべて帳簿をつけている。お金を使う人のすべてが、帳簿を正しくつけて、お金の流れが完璧に把握できるようになる世界が、仮想通貨では当たり前になるんだ。お金の流れはそもそも隠すものではない。もし隠したいという人がいれば、その人は脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)など、後ろ暗いことをして儲けているかもしれない。」(p.90)
ブロックチェーンは、お金のやり取りの記録台帳を、すべて保持する仕組みです。ビットコインでは、それを誰もが閲覧できるようにしてあるそうです。ただビットコインでは、参加者は匿名なので、個人情報が明らかにされるわけではありません。
しかし、お金のやり取りを見える化するということは、「神との対話」にも書かれていましたが、正直に生きる社会につながるように思います。
「より正確に言えば、お金は「価値」を保存したり交換したり測ったりするものであって、「価値」そのものじゃないんだ。」(p.174)
お金そのものには価値がなく、道具に過ぎないという話は聞いたことがあります。実際、無人島に1人でいたら、どれだけ大金があっても意味ありませんから。それより、ペットボトルの水が1本でもある方が役立つでしょう。
「日本の財政は深刻な状態にありますが、政府が暗号通貨を発行することで、これを救う手立てがあります。」(p.285)
「以上の「松田プラン」は、@財政再建(赤字国債の消滅と将来の金利負担の軽減)、A日銀の出口戦略(バランスシート縮小)の円滑化、B新たな通貨基盤の創出、C国民の利便性の増大、を一挙に実現することになる施策です。」(p.287)
ここに簡単に「松田プラン」が説明されていましたが、私にはよくわかりませんでした。詳しく知りたい方は、松田氏の「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」(創藝舎)第8章、または「米中知られざる「仮想通貨」戦争の内幕」(宝島社)第3章を読むようにとのことです。
「三菱UFJ銀行は、独自の仮想通貨を「1コイン=ほぼ1円」の価値に調整すると発表している。」(p.309 - 310)
法定通貨を扱う銀行が、あえて仮想通貨の世界に進出するのは、これからは手数料ビジネスが成り立たなくなるという危機感があるからだと松田氏は言います。仮想通貨は「P2P」でスムーズに送金できるし、ATMも必要としませんから。
大手銀行が仮想通貨に参入するのは、新たなプラットフォームを提供することで、別の儲け口を得ようとしているのでしょう。
「欧州中央銀行も500ユーロ紙幣の廃止を決定している。いずれも主な理由は犯罪対策だ。日本でもそれにならって、一万円紙幣を廃止できないかと考えている人もいる。現金は偽札のリスクもあるし、マネーロンダリングにも使われる。」(p.314)
日本で流通している紙幣の9割は1万円札なのだそうです。私たちの感覚では、千円札の方が多そうですよね。これは、それだけ現金がどこかでストックされていることを示しているのです。
それが犯罪に使われると、当然、裏のお金は税金にはつながりません。そういうこともあって、各国は最高額紙幣を廃止しようとしているのですね。
「絵画の世界では伝統的に「誰がその絵の持ち主であったか」が重要視されてきたが、ブロックチェーンによってその履歴もたどりやすくなると期待されているんだ。農業分野でも、生産者まで記録が辿れるような安全な食物が求められているね。」(p.319 - 320)
ブロックチェーンの仕組みを使って、データ管理を行う企業が出てきたのだそうです。これまでの履歴がはっきりしていると、絵画では贋作が混じることを防げるのですね。
このようにブロックチェーンは、そのデータに「信用」を与えることになるので、価値の交換や保存ができて、お金に似たものになると松田氏は言います。仮想通貨は何種類もできて、それらを交換しながら、適切な仮想通貨を使う時代になると考えておられるようです。
「このように契約などの手続きを自動的に済ませてしまう仕組みを「スマートコントラクト」といって、ブロックチェーンの活用方法として注目されているんだ。」(p.331)
たとえば、不動産を買ったと同時に登記の移転まで済ませるようなことができて、あちこちへ書類を出したり、何枚も署名捺印しなければならないという手間も省略できるのだそうです。
それぞれの場所で、それぞれの書類を必要とするのは、要はデータが共有化されておらず、かつ信用がないからです。それを一挙に解決できるのがブロックチェーンの仕組みだというわけですね。
「「改ざんが不可能な形でデータを管理できる」「スマートコントラクトでさまざまな手続きを一度にまとめて行える」「仮想通貨でいろいろな価値を移転できる」。この三つだ。」(p.334)
これがブロックチェーンの革命的なところだそうです。これまでは、データ管理はコンピュータ、手続きは手動、価値の移転はお金を使っています。それが同一の仕組みの中で行われれば、社会は大きく変わると松田氏は言います。
なぜなら、これによって人びとにとっては非常に便利になるからです。また一方で、無用な作業が解消されます。単純なルーチンワークは少なくなり、人々はより創造的な仕事に取り組むようになるだろうと思われるのですね。
インターネットの世界では、「投げ銭」という仕組みがあって、歌や小説など気に入ったコンテンツがあったらその作者を支援する意味で、少額のお金を簡単にあげられるようになっています。これまでなら、振り込むのにも手数料がかかるため、そう気軽にお金を渡せなかったのに、その敷居が低くなったのです。
仮想通貨も、取引の手数料が安いので、人々が気軽にお金のやり取りをするようになり、経済が活性化するのではないかと思われます。
その仕組みを完全に理解するまでに至りませんが、入門書としてはとてもよい1冊ではないかと思います。
