2018年02月23日

1リットルの涙



これはおそらく「みやざき中央新聞」で紹介されていた本だと思います。サブタイトルに「難病と闘い続ける少女 亜也の日記」とあります。著者は木藤亜也(きとう・あや)さん。難病(脊髄小脳変性症)を患う亜也さんが発病した14歳から自力で書けなくなる20歳までつづった日記を本にしたものです。

闘病する亜也さんの励みになればと、1986年に単行本として出版されました。亜也さんは、その2年後に亡くなられています。2005年には文庫化されました。私は文庫本で購入しましたが、2017年に発行された54版となっています。この本が、いかに多くの人から支持されているかを物語っています。


ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。なるべく私の解説を入れずに引用してみますね。

歩くたびに、そう、一歩踏み出すごとに感じる体の不安定さ、頼りなさ、みんなができることがやれない屈辱感、惨めさ。そんな気持ちは実際に体験しなければ理解できないものなのか? 本当にその人の気持ちになれなくても、少しくらいは、わたしの立場に立ってほしい。
 でも難しいことだと思い直した。わたしだって、こうなって初めてわかったことだから……。
」(p.23 - 24)

体育の授業を受ける代わりに自習を言い渡された時、クラスメイトたちから羨ましがられた時のエピソードです。動く身体があれば、自習より授業を受けたかった。亜也さんはそう感じたのです。


たった三メートルの幅の廊下が渡れない。
 人間は精神だけで生きていけないものか?
 上半身だけで、歩くことはできないものか!?

 わたしは空気のような存在の人になりたい。いなくなって初めて大切な存在であったことがわかるような、ともかく優しくて、にじみでてくるような、そんな人格の持ち主になりたい。
」(p.63)


わたしは、生まれ変わりました。
 身障者であっても、知能は健常者と同じつもりでいました。
 着実に一段ずつ上った階段を、踏みはずして下まで転げ落ちた、そんな感じです。
 先生も友達も、みな健康です。悲しいけど、この差はどうしようもありません。
 わたしは東高を去ります。
 そして、身障者という重い荷物を、ひとりでしょって生きていきます。
 こう決断を自分に下すのに、少なくとも一リットルの涙が必要だったし、これからはもっともっといると思います。
」(p.75 - 76)

東高の先生から養護学校へ移るよう勧められていました。と言うより、遠回しにみんなのじゃまになるから、移りなさいと言われていたのです。

担当した山本医師は、その時のことをこのように書いています。

教育の現場では、亜也ちゃんの扱いに困り、このような子のために養護学校ができていると判断されての処置であろう。だが亜也ちゃんは他の生徒にとって迷惑なだけの存在だったのだろうか。同級生の中には体の不自由な友達を助け労(いたわ)る気持ちがごく自然に芽生えて来ていたし、また亜也ちゃんの生きる真剣な態度に学ぶことも多かったのではないかと思われる。病気に関しての問い合わせもなく、規約通りにことを運ぶ教育に少なからず失望させられた。」(p.244)


もしも、わたしの体がもっと機敏に動けるならば、喜んでトイレの掃除もやりに行ったでしょう。自分の意志をはっきり主張できず、結局、わたしは「このやろう」と思いながら、何も言わずに退散した。
 部屋の外に出たとたん、悔しくて泣いてしまった。
 寮母さんが通りがかって、「集団生活の中で泣いてはいけません」。わたしは、どうしたらいいのでしょう?
」(p.108 - 109)

養護学校は寮生活です。亜也さんは、自分の体が思うように動かず何もかも遅くなるので、早く起きて半分だけ部屋の掃除を済ませ、ラジオ体操へ行って帰ってきました。すると部屋長から、部屋の掃除は無理だからトイレのタオルと汚物の始末をやってくれと言われたのです。亜也さんは、無理だからと勝手に決めつけられたことが悔しかったのですね。

それにしても、集団生活は泣くことさえ許されないのでしょうか? 自分が自分であることを否定される集団って、いったい何なのでしょうね?


後で気づいたことだが、資料館の中で広島の小学生たちといっしょになった。その子らは、展示物と車椅子の私を同じような気味悪いものを見るような目つきで見るのです。人の目など、気にしていてはだめだと思った。きっと車椅子や車椅子に乗った人が珍しいのだろう。そう考えて、ただ展示物にじっとくいいっていたような気がする。」(p.150)

養護学校の修学旅行で、お母さんが同伴して広島の原爆資料館へ行った時の話です。皮膚が焼けただれた人がさまようような人形が、まだ展示してあった頃のことですね。

車椅子で出歩く身体障害者と出会う機会が少ない。だから、奇異の目で見てしまうのでしょう。「見慣れる」ということが、健常者と身障者を近づけるカギになると、私は思っています。


十二年間の学校生活で学んだ知識、先生や友人から受けた教えを生かして、社会の役に立ちたかった。
 たとえどんな小さな弱い力であっても、喜んで与えたかった。お世話になった、せめてもの恩返しにしたかった。
 わたしが世の中に貢献できることは、死んだあと、医学の進歩のために体を提供して、腎臓、角膜、使えるところはみんなバラバラにしてもらって、病んでいる人にあげることぐらいしかないのか……。
」(p.165)

18歳になり、養護学校の卒業が近づいてきた頃です。徐々に動かなくなっていく体、将来への不安が、亜也さんに迫ってきます。


「良くはならない」と先生に言われてから、燃えてパッと散りたい、短命を願う、なんて覚悟までしているんだ。
 お母さん、心配ばかりかけ、何の恩返しもできなくてごめんね。
 弟妹よ、姉らしいことしてあげられなくてそのうえお母さんまで取り上げてしまって、許してね。
 これからの幾年月、のたうちまわって生きていくのがわたしの一生。
 ああ一体、どうしたらいいのだろう。
」(p.180)

病気が治ってくれたらという見果てぬ夢を、否定しながら生きる亜也さんです。


老人(わたし)の生活。
 若さがない、張りがない、生きがいがない、目標がない……。
 あるのは衰えていく体だけだ。
 何で生きてなきゃあならんかと思う。反面、生きたいと思う。
 楽しいことといったら、食べる、読書、書くことしかない。他の十九歳の人ってどんなことを楽しんでいるのかなあ。
」(p.193)


一年前は立っていたのです。話もできたし、笑うこともできたのです。
 それなのに、歯ぎしりしても、まゆをしかめてふんばっても、もう歩けないのです。
 涙をこらえて、
「お母さん、もう歩けない。ものにつかまっても、立つことができなくなりました」
 と紙に書いて、戸を少し開けて渡した。
 顔を見られるのがいやだったし、母の顔を見るのもつらかったので、急いで戸を閉めた。
」(p.202)


亜也が養護学校へ転校するのを機会に、中学生になっていた弟妹に、
「病気は治る見込みがなく、数年の内には目が離せない状態になると思うが、私が中心になって世話するから、あなた達は自分の将来の設計をしっかり立て、健康に充分注意していくように」と話した。
 黙って真剣に聞いていたが、数日して妹は肩まで伸ばしていた自慢の黒髪をばっさり切ってしまった。
「どうして切ったの?」
「うん、ちょっと変身してみたかっただけ」
 と答えたが、その後の行動の変化は、自分の生き方を定めたか、何か覚悟したな、と感じさせるものがあった。
」(p.256)

お母さんの述懐です。妹さんは、亜也さんが果たせなかった東高を卒業し、看護士を目指しているとありました。弟さんは、お母さんのことを気づかい、警察官になってからは少しずつ貯金をして、その通帳を「お姉のために使っていいよ」と言って置いていったそうです。

亜也の将来の世話について「あんた達がやるんだよ」と強要したこともないけど、自然と母なき後は自分達で世話しようと、土台固めしてくれている様子が窺(うかが)えることが、私にとっては何より嬉しいことである。」(p.258)


亜也さんという存在は、いったい何だったのでしょう? 何だと考えれば良いのでしょう? もし、身近に亜也さんのような人がいたら、いったい何と言葉をかけるのでしょうか? 「かわいそう」は上から目線だし、「がんばって」は酷だと感じます。ただただ見守ることしかできない。そんな気がします。

運命というのは、時に過酷なものだし、壮絶な人生を生きた人は多いことでしょう。そして亜也さんもまた、その1人です。もし亜也さんの立場だったら、事故や事件ですぐに死んだなら、その方が幸せだと感じるかもしれません。まるで真綿で首を絞められるがごとく、徐々に失っていく自分の機能と対峙する。それがどれほど過酷なことか、想像もつきません。

でも、亜也さんという存在は、無意味ではないことは確かです。最後のお母さんの述懐にあるように、亜也さんと出会ったことで、妹さんや弟さんは自立されたのです。きっと東高のクラスメイトたちも、亜也さんから何かしらの贈り物を受取り、その後の人生に生かされたことと思います。

人は、何かをして役立つだけが存在意義ではありません。どんな生き方であっても、その生きる姿を他の人にさらすことによって、何らかの贈り物をします。それは間違いないことです。だから、ただ生きたというだけで、充分に存在意義があると、私は思うのです。

1リットルの涙
 
posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 13:31 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

●コメントを書く前に、こちらのコメント掲載の指針をお読みください。

ランキングに登録しています。面白かったらボタンをポチッと押してね。
↓↓↓↓
にほんブログ村 ライフスタイルブログ 自分らしさへ

スポンサーリンク