不思議な旅行会社があることを、忘れてしまったのですが何かで知りました。「みやちゅう」こと「みやざき中央新聞」ではなかったかと思います。人間のお客さまはお断り。ぬいぐるみだけが対象のツアー会社なのです。
ぬいぐるみが旅行って、どういうこと? いったいどんなニーズがあるの? そんな疑問を抱きました。その答えは、本人が旅行に行けないから、その身代わりとして旅行してもらう、ということでした。わざわざそんなことをする人がいるのかなぁ? そういう気持ちもしましたが、なぜかとても気になったので、この本を買ってみたのです。
著者は、ウナギトラベルを起業された東園絵さんと記者の斉藤真紀子さんです。NHK「あさイチ」などで紹介されたことでブレークしたウナギトラベル。どんな人が、どんな思いで依頼するのか。その結果、どうなるのか。そんなことが、この本には書かれていました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「江戸時代には、お伊勢参りに病気などで行けない人は、犬にお金を持たせて旅に出し、お札をもらってこさせたという。そうしてお伊勢参りをする犬は「おかげ犬」と呼ばれた。
「おかげ犬ならぬ、おかげぬいぐるみが、自分の思いをかなえてくれるなんて」
由紀さんは、どうしてもこの年、伊勢神宮に行きたかったけれど、旅行に出られるほど体調が回復しなかった。でも、くまこさんが参拝している様子を見ていたら、なんだが自分がお参りしているような心持ちになってきた。」(p.64 - 65)
そう言えば、「おかげ犬」の話を聞いたことがありました。昔の人は大らかだったのだなぁと感じたのです。だって、その犬だって何かを食べなきゃなりません。みんなが餌をやって、「えらいねぇ。がんばってね。」と、犬を励ましたのでしょう。まあ、それ以前に、犬が伊勢神宮へ参ってくること自体がすごいことですけどね。
自分の身代わりに誰か(何か)にどこかへ行ってもらう。それを自分ごとのように思う。そういう考え方は、昔からあったのですね。そんな昔の大らかさを再現したのが、このぬいぐるみのツアーなんだなぁと思いました。
「おんぶでもドライブでも、のんびりした旅行でも、母はやっぱり「行きたくない」と言ったかもしれない。自分の手元を離れて楽しげに旅をするカエルがそうであるように、母も「ひとりの独立した存在」なんだ。みんな、それぞれの人生がある。その人生に、私が後悔したり、悲しんだりするなんて、おこがましいのではないだろうか。」(p.90)
旅行に誘っても頑なに「行かない」と言っていた母。その母が生前、京都旅行の写真を見せた時、いいところへ行ったねぇと顔を輝かせました。その記憶から、本当は行きたくなかったのではなく、旅行をすることで迷惑を掛けたくなかっただけではないかと、娘は感じたのです。
そうして申し込んだのは、母の代わりのカエルの旅行。母は、旅行をしたかったのか、したくなかったのか、そんなことをいろいろと考えさせられたのだそうです。そのことによって、旅行を依頼した本人が、気付かされることがあるのですね。
寝たきりの身体障害者の子どもの代わりとして、病気で外出が困難になった自分の身代わりとして、あるいは亡くなった親への孝行のつもりでなど、いろいろな理由で、このぬいぐるみの旅行に申し込みがあるそうです。
とても不思議な気はしますが、それによって申し込んだ本人が、何かを得たいとか、自分が変わりたいと思っているのでしょうね。ある意味で、カウンセリングのような役割をしているのだなと感じました。

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