誰だったか忘れましたが、「これ、面白いよ」と勧められて買った本だと思います。これもずっと積読(つんどく)してました。(笑) アマゾンのリンク先は文庫本になってますが、私が購入したのは単行本です。2013年の発行ですから、3年くらいは読まずにいたのかもしれません。
著者は有名な藤田晋(ふじた・すすむ)氏とのことですが、申し訳ありませんが聞いたことがありません。どうやら、ホリエモンさんと同時期に活躍された若手起業家のようです。あのころ、ヒルズ族とか話題になりましたが、あまり興味がなかったので。
藤田さんは、起業家の中では憧れの的のような存在だったようです。サイバーエージェントという会社の社長。サイバーエージェントなんて聞いたことないなぁと思っていたのですが、読み進めるうちに気が付きました。アメブロを提供している会社なのですね。それで俄然興味が湧いて、あっと言う間に読み終えました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「クライアントや業界づきあいなど、企業を相手に仕事をしてきた我々に対して、秋元さんはひたすら視聴者、ユーザーと向き合って、面白いことや心を掴むことをやろうとしていました。
仮にもメディアを創ろうという会社の社長がこれではいけない−−。
私もそう考えるようになり、「千枚CD」の試みが転換点となって、仕事上でつきあう人の業種が少しずつ変わり始めたのです。」(p.43)
サイバーエージェントは、元々インターネット広告の分野で大きくなった会社です。しかし藤田氏は、メディアを創るという目標を持っていました。それがいつしか、既存の取り引きの中に埋没するようになっていたのですね。そんな時にネットと連動した音楽番組「千枚CD」を秋元康さんと行ったことで、秋元さんの生き方(つきあう人のジャンル)に気付かされたのだそうです。
私も、IT関連の仕事をしていて、似たようなことを考えたことがありました。仕事は大型汎用機の仕事でしたが、ワープロ、パソコン、インターネット、ブログ、スマホと、なるべく新しいものに手を出すようにしてきました。それは、「SEたるもの、ITの基本的なことは知っておかなければならない」という気持ちからです。それが直接仕事で役立ったかどうかは何とも言えませんが、こうしてブログを書いたりメルマガを出したりすることが、まったく苦労なくできています。
「大型買収はやらないという方針が決まると、大物人材を外部から採用しないということも同時に決まりました。
時間を金で買う買収が、事業をじっくりそだてている当社に合わないならば、時間を金で買うような採用も、人材をじっくり育てている当社には合わないと考えたのです。」(p.80)
それまで出入りの激しい会社だったそうです。しかし、日本の伝統的な終身雇用を行うと決めたことで、会社の中が落ち着き、愛社精神が芽生えてきたと言います。
時は、M&Aが盛んだった時代です。良きライバルだったホリエモンさんは、ライブドアを買収したり、有用な人材をスカウトするなどして、どんどん会社を大きくしていきました。藤田氏とは対極的な手法です。それだけに焦ったり、迷ったりすることも多々あったとか。それでも、自分はこのやり方でいくと決め、それを貫かれたようです。
どっちが正解かではなく、自分のやり方を崩さないことが重要なのだろうと思います。とは言え、自分のやり方に固執するのもよくない。この相矛盾した感覚の中で、どちらを選ぶかは難しいことです。経営者というのは、つねにそうした矛盾を抱え、それでも決断しなければならない存在なのです。
「しかし、アメーバ事業部の中では本部長の渡辺すらもほとんど自分のブログを更新していませんでした。そこで働く社員たちがアメーバに対する愛情も誇りもない状況であることに、今さらながら気づかされることになったのです。
しかも、社長である私も外様扱いで、現場は私の指示を素直に聞くような状態ではありませんでした。
この現場の現状を思い知ったとき、それまでの自分が間違っていたことに気がつきました。
(このままではいけない……)
(自分を変えなければ、会社は変わらない……)」(p.211)
やっと見つけたメディアの種。それがブログだった言います。しかし、藤田氏の熱い思いとは裏腹に、現場は本社ビルからも離れ、なかば見捨てられた状況だったのです。それまで、現場を信頼して任せる方針だった藤田氏ですが、ここにきて方針を転換します。
まずは、自らが陣頭指揮に立つよう体制を変更したこと。これまでの幹部クラスは更迭したそうです。そして、2年間の期限を切り、黒字化できなければ退陣すると宣言し、背水の陣を敷きました。さらに、売り上げを無視してPV(ページビュー)だけを意識するよう社員の頭に刷り込むようにしました。目標を絞り、明確化したのです。
ともかくユーザーの使いやすさ、使った時の楽しさを追求する。そうすればPVは自然に大きくなる。そういう方針のもと、ページを増やして姑息にPVを上げることを禁じたり、芸能人にブログを書いてもらうよう働きかけたりして、改革を進めたのです。
そして2年後、見事にアメーバ事業部は黒字化しました。現在でこそブログの中でもっとも知られたアメブロですが、ライブドアブログなどが有名で、事業としては後発でした。しかし、各社が伸び悩む中で、アメブロだけがどんどん事業を伸ばしていったのです。
「結果的に、「何がアメーバの転換点になったのか?」と尋ねられれば、幹部3人を更迭したことでした。
しかし、3人は3人とも優秀でした。ではいったい何が問題だったのでしょうか。
本当の理由は、幻冬舎の見城社長から聞いた言葉で気づかされました。
「全ての創造はたった一人の「熱狂」から始まる」
「新しいことを生み出すのは、一人の孤独な「熱狂」である」」(p.287)
ブログこそがメディアだ。そう信じた藤田氏の「熱狂」が、孤独に押しつぶされることなく赤々と燃えた。それが成功につながったと言うのですね。
メディアなんか作らなくても、広告事業でそこそこの成果を残せば、それで一生安泰かもしれません。しかし藤田氏は、そういう生き方を潔しとしませんでした。その思いが、この本のタイトルに表れています。自分は起業家である。起業家として生きる。それは、無から有を創り上げる喜びです。
六本木ヒルズで暮らし、派手な生き方をしているようなイメージがある青年実業家ですが、意外としっかりとした堅実な生き方をしているのだと気づかされました。それはある意味で当たり前かもしれません。本当に成功する人は、成功するなりの理由があるのです。もちろん運の良さもあるでしょうけど、それだけではありません。生き方に芯があるように思います。
私は、経営者としてはそれほど上手くいきませんでした。最初は、この事業は上手くいくはずだと信じ、日本の会社に戻るという道を捨てて、タイに残ったのです。それがいつしか現状に甘んじてしまって、「熱狂」がなくなっていたように思います。「熱狂」こそが重要なのだと、改めて気づかせてもらいました。
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