2017年12月12日

生きる職場



これはおそらく、「みやざき中央新聞」で紹介されていた本だと思います。サブタイトルに「小さなエビ工場の人を縛らない働き方」とありますが、スタッフを管理することを極力廃止したことで、返って効率が良くなったという会社があるのです。その会社はパプアニューギニア海産。その工場長である武藤北斗(むとう・ほくと)氏が、この本の著者です。

同社では、日時を定めずにいつ出社してもよく、またいつ退社してもよいというフリースケジュールという制度があります。しかも、いつ出社する、退社するということを、事前に報告してはいけないという制度です。さらに、嫌いな作業をやってはいけないという制度もあります。大きくはこの2つが特徴的です。

しかし、そんなことで会社が経営できるのでしょうか? 上手くいくはずがない。そう思われてしまいそうですが、しかし、現実に同社はそれで上手くいっています。しかも、ただ経営が成り立つばかりか、それらを導入する以前よりも低コストで効率が良いというのです。にわかには信じがたいのですが、どうしてそれができるのか、その秘密を知りたくて読んでみました。


ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。

ですから、僕は根本的に仕事というものは、楽しみではなく、生きていく手段に近いものだと考えています。
 そのうえで、「働きやすい職場」を作るというのは、従業員一人一人が仕事をどのように感じていようと関係なく、会社がひたすらに職場環境や人間関係を整え、誰もが居心地がいい状態を目指すことだと思っています。
」(p.25 - 26)

意外と現実的な方なのですね。仕事そのものは楽しいからやるのではなく、生活のために必要だからやる、少々嫌でも仕方ないからやる、という感覚がベースにあるようです。


このとき、僕は「働きやすい職場を本気で作っていきたいから、みんなを信じてルールを作っていく。だから僕のことをどうか裏切らないでほしい」と何度もミーティングで繰り返しました。」(p.34)

フリースケジュールなどの制度を導入した時、やはりサボる人はいたそうです。それで会社の方針に合わなくて辞めていく人もいたとか。このことは、単に制度だけ導入すれば上手くいくというものではない、ということを物語っていると思います。


このフリースケジュールの原型は家族経営の会社にありがちな、親族の働き方と似ています。端的に言えば、経営者の親族だけは、子育てや私生活を優先した出勤形態になっていることがままあるのです。」(p.80)

たしかに家族経営の小規模事業では、家族親族の働き方はかなり自由です。朝の家事に時間が取られれば、奥さんが仕事に入るのは遅くなります。夕方、学校の用事などあれば、早くあがることもあるでしょう。それに対していちいち目くじらを立てたりしません。

ただ、この会社のフリースケジュールは、パートタイマーの従業員にだけ適用されている点は、ポイントかと思います。時給ですから、多く働けば報酬が多くなり、少なく働けば報酬が少なくなる。そのため、基本的には極端に少ない勤務時間で満足する人が少ない、という前提があるのです。そのことにより、全体で一定の作業時間は確保できている、ということがあるかと思います。

もちろん正社員が多い職場でも、月間の最低勤務時間とか、年間の最低勤務時間を決めることで、フリースケジュールを導入することが可能になるかもしれません。あとは、どれだけ代わりが利くか、という点ですね。この会社では、パートさんがすべての仕事で代わりが利くので、誰が出てきてもかまわないという仕事形態です。どうしてもこの人に期日までにこの作業をやってもらわなければ、という環境では、難しさはあると思います。


従業員同士の関係も大事です。
 そのためには風通しのよい職場環境を作るとともに、従業員同士がお互いのことを助け合える土台のようなものを作ることが重要です。
」(p.101)

出勤した時、その日の体調を○か☓でホワイトボードに示す仕組みを作られたのだとか。これによって、いちいち「今日は頭が痛くて」などと言い訳をしなくても、緩慢な作業や集中力がない従業員がいても、その背景を思いやることができるのです。

あの人はサボってるとかズルしていると感じていると、その人の気分もよくありません。また、そう思われる方の人もつらいものです。そういう感情の行き違いをなるべくなくそうという取り組みですね。


どんなによいルールでも、経営者が一人で作ったものを次から次へと押し付けられるのは、現場にとって気持ちのよいものではありません。特に会社のルールは、経営者的な目線と従業員としての目線のバランスを取ることが必要です。だからこそ従業員は、自分たちで作ったルールであればこそ、気持ちよく守っていくことができるのではないでしょうか。」(p.107 - 108)

ルールは必要だとしても、それを経営者が勝手に作って押し付けた場合、なかなか上手く行かないようです。制約を受ける側にも入ってもらって、どう決めるのが良いか考える。言われてみれば当然のことのようにも思いますが、みんなで話し合っても紛糾して決まらないという恐れもあります。

そこをどうまとめるかが、経営者の腕の見せ所かもしれませんね。絶対的に正しいルールはないのですから、まずはこれでやってみて、ダメならまた検討する。そういう柔軟な態度が必要なのだろうと思います。


もしほかの作業でもこんなふうに好き嫌いが分かれるのであれば、先ほど出てきたような作業の遅い人が力を発揮できるような、もしくは作業の早い人がそれを率先してできるような、そんな仕組みができるのではと感じたのです。
 そこで、工場の作業工程を細かく分類し、アンケート形式で個々人の作業の好き嫌いを書いてもらうことにしました。
」(p.117)

人の好き嫌いは多様だということです。全員が全員、この作業が嫌いということはないのです。このことから、嫌いなことをやって気分を滅入らせたり、それによって作業効率が悪くなることがないよう、嫌いなことをやらないというルールができたのです。

でもそうすると、もしみんなが嫌いという作業があったらどうするのか? という疑問が出てくると思います。それに対して武藤氏は、全員で分担すると答えています。率先してやる作業ではない、というだけで、やらなくてよい作業ではないのですね。


もちろん困難を克服することで、諦めない気持ちや耐える力といったものが養われる可能性があることは否定しません。しかし、そうした困難は他人や会社に無理やり押し付けられるべきものなのでしょうか。
 自分でやると決めて、自分から立ち向かっていくからこそ乗り越えられるし、それを自分にとってプラスに捉えて、その後の人生にもよい効果をもたらしていく。他者からの強制ではなく、自分から気持ちを奮い立たせて立ち向かうことで、人ははじめて成長できるというのが僕の考えです。
」(p.122 - 123)

好きなこと、得意なことをしながら、さらに上を目指す。自分で自分にハードルを課すから、困難なことも楽しくやれる。私も、挑戦とはそういうものだと思うし、そうであってこそ成長するのだと思います。

実際この会社では、従業員が主体的に働ける環境を作ることで、離職率が大幅に下がったそうです。そのために技術(熟練度)が蓄積され、作業効率が高くなり、経費削減につながっています。嫌いなことを無理にさせて辞めていく人が多かった頃は、ストレスが溜まるばかりで作業効率が低かったのです。


こうした取り組みをすると、会社が従業員のためにと思って作った制度を悪用して、ずるずると休み続けたり、やるべき仕事をサボって会社に不利益をもたらす人が出てくるのではないかと考える人もいます。
 でも、果たして、従業員のことを親身になってくれる会社に対して、あえて会社の不利益になるようなことをする人がいるでしょうか。僕は人の気持ちによる相乗効果というものを信じています。そして、もしも前向きに取り組む中で会社に不都合なことが起きたとしても、それはそのときに考えるようにしています。
」(p.155)

まず会社が従業員のことを親身になって考えてあげれば、従業員も会社を裏切らないだろうと信頼することが重要だと言います。もちろんそこで、本当に裏切らないかどうかは別です。その従業員にとっては、会社のことより自分の生活が優先ということはあるからです。

そこで武藤氏は、その時はその時になって考えると言っています。つまり杞憂から従業員を疑い、あらゆる可能性に対処しておくという考え方は捨てているのです。それが信じるということなのでしょう。


僕が今でも印象に残っている一言があります。それは僕が彼らに「日本に来てなにが一番びっくりした?」と訊ねたときの答えなのですが、「毎日多くの人が遅刻せずに時間どおりに来ることにびっくりした」と言われたのです。
 その頃の僕はその言葉を聞いて日本人の几帳面さに得意げになっていました。
 しかし今考えると、彼が言っていたことは、僕が今まさに懸念している日本の社会に蔓延する縛る働き方への警告をしてくれていたのではないかと感じることがあります。
」(p.179 - 180)

パプアニューギニアでは資源を守るために年の3分の1は禁漁期間だそうです。それで、天然エビを獲る会社から毎年2名、1ヶ月くらい研修で働きに来てもらっているそうです。そうすることで、彼らに自分たちが獲ったエビがどのようになって消費者に届くかを知ってもらえる。そんな研修に来た青年が言った言葉です。

私もタイに来たとき、文化の違いに違和感を感じました。日本のように思い通りにならないことにイライラしました。日本の方が優れていると信じていたのですね。でもしばらくすると、タイはタイのやり方で上手く回っているのだと気づきました。そのことによって、必ずしも日本のやり方だけが正しいわけではないとわかったのです。

やり方は他にもある。その気付きが、私を自由にしてくれました。そして、そういう目で日本を見てみると、他人の価値観でがんじがらめになって、窮屈な閉塞感の中に沈んでいる姿が見えたのです。


最終的には、自由にすることが重要というより、自由にするための信頼関係を作る工程が重要なのだと思います。
 そして人は自分が自由になったとき、ほかの人のことを気にしなくなります。自分が幸せなときに、ほかの人を不幸にしようとは思わないのと一緒です。そう考えると、権力をもつことと、幸せになることは違うのだなと改めて感じることができます。
 さらには、この自由を継続できるように自分たちで努力し、これを崩さないようにバランスをとり始めるのです。
」(p.190)

フリースケジュールなどで従業員が自由に、自主的に仕事に取り組めるよう環境を整えていくことは、従業員と経営者の、また従業員同士の、信頼関係を構築することなのですね。その結果として個々人が自由になる。その自由が出来上がると、みんながその自由を守ろうとするようになる。

その逆に、自由が少なくて不幸だと考えていると、誰かが出し抜けすることが許せません。「なんだあいつばかり楽しやがって!」と頭に来るのです。他人が幸せになると、引きずり下ろしたくなります。そういう非生産的なことにエネルギーを注ぎたくなるのです。

ですから、お互いに自由になれるよう協力し合うための関係を構築すること、つまり相互に信頼し合うことが重要になってくるのです。そのためにはまず、経営者が従業員を信頼することなのでしょう。


先にも述べましたが、「フリースケジュール」や「嫌いな作業はやらなくてもよい」というのはあくまでも働きやすい職場へ向けての一つのパーツでしかありません。ですから、それをそのまま自分の職場に当てはめてできる、できないといった議論をするのはあまり意味がありません。
 やらなければならないのは、自分たちの業種や会社で、従業員が働きやすくなるためにはなにができるのかを、現場での経験を生かして、まずは自分たちで考えて行動することです。
」(p.204)

重要なのは手法ではない、ルールではないということですね。上記ですでに述べましたが、たとえば私がやってきたプログラム開発では、途中で誰かに変わるというのは非常に困難です。どうしてもその人が期日までにそれを成し遂げなければなりません。そういう中では、いつ働いてもいいよとは、なかなか言えません。

しかし、フリースケジュールが重要なのではなく、その仕事をする上で働きやすいルールを考えて作ることが重要なのです。たとえば、在宅勤務という選択肢もあるでしょう。でもそんなことをしたら、働かずにいるかもしれませんね。そこで必要になるのが、まずは信頼するという態度なのでしょう。


この本は、単に手法を教えてくれるものではなく、どういう態度で取り組むのかという根本的なことを教えてくれています。そういう意味で、非常に評価できる本だと思いました。

ただ残念なのは、この本の趣旨とまったく関係なく、ご自身の体験もふまえて、原発や、政府を安易に批判しておられることです。そう考えたくなる気持ちはわかりますが、本題と関係のない一方的な思い込みをこの本に含められることには、ちょっと賛同しかねます。


原発に反対なら、その分の電力を使わないのならまだわかります。でも、自分たちは同じように電力を使いながら、原発だけを批判する。原発が停止されたために、何が起こっているかをまったく考慮せず、ただ廃止すべきだと主張される。そういう偏った正義感を振り回されている部分は、ちょっとどうかなと思います。

原子力の代わりに化石燃料が使われ、大気汚染が進んでいることは、目に見えなくても調べればわかります。原発の発電量あたりの死者は、火力発電に比べれば圧倒的に少ないことも、WHOの資料で明らかです。つまり、原発を使わずに火力を使うということに賛同するということは、自分の目に見えないところで多くの人を殺すことを受け入れる、ということと同じだと思います。

少なくともそのことを知っていれば、安易に原発を批判するようなことは言えないと思います。もちろん、原発の事故による被害などもあり、そのリスクがあることも知っています。けれども、リスクはどこにでもあります。だからこそ科学的に検討し、どのリスクをとるかを冷静に判断すべきだと思うのです。安易な批判は不毛だと思います。

生きる職場
 
posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 16:21 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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