2017年11月28日

春風を斬る 小説・山岡鉄舟



神渡良平(かみわたり・りょうへい)さんの本を読みました。2000年9月に出版されたもので、もう中古でしか手に入らない小説です。小説でありながらPHP研究所から出版されているというのも珍しいです。それだけ、「生き方」を考える上で役に立つ本と言えるでしょう。

神渡さんには、「天翔ける日本武尊」という小説もあります。その登場人物の苦悩、悟りが、手に取るように伝わってくるので、まるでその人が目の前にいるかのように感じます。神渡さんが書かれた本を紹介する記事の一覧もありますので、参考にしてみてください。


なお、山岡鉄舟という人はご存知ですよね? 勝海舟、高橋泥舟と並んで、幕末の三舟と呼ばれた3人の中の1人です。江戸城無血開城に尽力した人物ですが、多くの人は西郷隆盛と勝海舟の間で決まったと思っているようです。実は私も昔はそう思っていました。でも本当は、西郷を訪ねた鉄舟が、事前にその条件を認めさせていたのです。

その西郷が鉄舟を評してこう言っています。
生命も要らず、名も要らず、官位も金も要らぬ人は始末に困るものです。」(p.248)
官軍の前線を突破して西郷に会いに行き、江戸総攻撃をやめるよう西郷を説得し、徳川家の存続を約束させました。


ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。

歴史小説とは、歴史上の人物が置かれた立場を追体験することによって、自分の魂を磨くためにあると思うようになった。」(p.472)

神渡さんは4年かけてこの小説を書かれています。その中で、ご自身の過去と向き合い、魂を磨くという体験をされてこられたのですね。そういうこともあって、この小説の中では鉄舟が悟りを開く様子が、ありありと描かれているのだと思います。


天は私に何かをさせるために、この危急存亡のときに、敢えて私を送り出しておられる。
 まだそれは何なのかわからない、わからないけれども、何かあることは確かだ。そう思えたとき、人は自分を信頼することができる。自分を信頼するということは、自分を守り導いておられる天を信じることだ
」(p.88)

貧しくて妻に十分に食べさせてやれず、我が子を失った苦悩から立ち直った時の鉄舟のセリフです。どういう理由かは定かでないとしても、天から送り出された自分の命であるという見方をしたのです。そうであるなら、必ず何か役目がある。そう信じることで、他人と比べて自分を嘆くことがなくなるのです。


後年、鉄太郎が料亭でも大変もてたのは、仲居であろうと酌婦であろうと、一人前の人格として付き合ったからである。」(p.101)

アドラーも、子どもに対して信頼し尊敬することを求めています。つまり、自分より下の者という見方をしないのです。

これは「神との対話」でも同様のことを言っています。相手の魂を見るという見方です。完璧な魂を見れば、上から目線にはなり得ません。


特に「宇宙と人間」という題名には、宇宙森羅万象の根源者の体現者としての人間という深い覚醒が表されているのではないか。鉄太郎は宇宙界を図示して、「日月星辰の諸世界」と「地世界」とに分け、さらに「地世界」を「諸外国」と「日本国」に分け、詳細を叙述している。」(p.121)

直参旗本のわずか22歳の鉄舟が、「宇宙と人間」という小論を書いているそうです。哲学的と言うか、その精神性の高さがわかります。


さあ、みんな、富士のお山のようになろう。世の中はどうであろうと、富士の山は泰然自若と構えて、いつもそこにある。毀誉褒貶に惑わされることがない人間になろう。それこそが明治国家がつくり上げたい人間像なんだ」(p.295)

明治維新後、政府から請われて静岡から茨城へ旅立つ時、朝日に照らされた富士山を見て言った鉄舟のセリフです。鉄舟は西郷とも親しい関係にあり、「敬天愛人」という生き方に感服していました。人を相手にせず、天のみを相手にする。他人からどう思われるかなどということを気にしなかったのです。

鉄舟が作った歌に、こういうのがあります。この歌にも、鉄舟の気持ちがよく表れています。

晴れてよし曇りてもよし不二の山
     元の姿は変はらざりけり
」(p.334)


帝王学という言葉がある。人は国家や企業を司る後継者たちに、人心の機微を読み、収攬(しゅうらん)する何か特別な方法があるかのように考えるが、そうではないのであって、すべては自分を修めることからしか始まらないのだ」(p.320)

若き明治天皇を元田永孚(ながざね)が漢学を講義した場面に、神渡さんが書かれた言葉です。元田は、「修己治人(しゅうこちじん)」という教えを説きます。己を修めてのち初めて、人を治めることができるという意味です。他人をどうこう動かそうとする前にまずは自分をしっかりさせなければ、他人はついてきません。

このことも「神との対話」に書かれています。他人を変えるのは難しいが、自分を変えれば他人はそれを見て影響を受けると。他人を悟らせたければ、自分が悟って見せればよいのです。とやかく言う必要はありません。


誘惑に負けて、人に迷惑を掛け、人生を駄目にしてしまう人もある。手酷い失敗をしたために、今度は心を入れ替えて、再起を図る人もある。人の失敗を他山の石として学び、自分の人生に活かす人もある。人それぞれです。時を経、さまざまな経験をして気付き、正されていく。私は天を信じます。天を信じるがゆえに、人間も信じます……。」(p.362)

征韓論に敗れて下野し、鹿児島に引っ込んだ西郷を、明治天皇の依頼で連れ戻しに来た鉄舟のセリフです。ここで鉄舟は、徳川幕府が薩長幕府に置き換わっただけだと嘆く西郷に対して、自分は楽観視していると語ったのです。

人間の物欲などの煩悩は、規制すべきものではなく、自発的に研鑽して自分を高めていくもの。だから、上手く行ったり、行かなかったりする状況や出来事は、自分を高めるために起こっているのだと。それをそのように利用できるかどうかは、それぞれの人に任されているのだと鉄舟は言うのです。


一個の料理が心眼を開く−−。
 一つのものに心魂を傾けるとき、そこから宇宙の真髄が見えてくる。物がわれわれを人にしてくれるといってもいい。だから人生というものほど味があるものはない。
」(p.394)

鉄舟から「二葉の料理に禅味を持ってみよ」という命題を与えられた忠七が、「禅味」の意図を探りながら工夫を重ね、独自の海苔飯を作った場面の鉄舟のセリフです。「忠七めし」と名づけられたこの料理は、今も埼玉県の小川町にある割烹旅館二葉で出されているようです。

一心不乱に料理に打ち込めば、その中に何かを悟ることができる。「一芸に秀でたものは多芸に通ず」と言いますが、そういうことなのでしょうね。


それからというもの、心が平明なとき、前後左右のことを踏まえて決断するようにしました。いったん仕事に手をつけたら、結果に執着することなく、やるべきことをやる。するとどの事業も成功し、お蔭様で今では商人と呼べるような部類に入ることができました」(p.398)

鉄舟の弟子の平沼のセリフです。武士になりたいと言っていた平沼を、鉄舟は実業家にさせたのです。それがみごとに成功して名を馳せる実業家になったので、鉄舟は商売のコツを尋ねました。その答えとして平沼は、最初は不安や強気などに翻弄されて失敗したと言います。その中で、執着から自由になることが重要だと悟ったのです。

その方法が、先ほどのセリフです。まずは心が穏やかな状態の時に、よく考えて決める。そして決めたなら、もう結果がどうなるかを考えずに、ただ目の前のことを黙々とやる。結果を手放すことが必要なのですね。


−−光の存在が三次元の世界に現れるとき、なにがしかの衣をまとわなければ、相対の世界に現れることはできない。その衣は種の存続のために、一方はオス、もう一方はメスという二相に分かれる。そして再び合体して、ダイナミックに新しい世代が身籠られる。無から有が生まれるとはこのことだ。すべてはいのちの存続と継承発展のために行われていることである!」(p.446)

鉄舟を悩ませた情欲に対して、48歳でついに解を得たときの鉄舟のセリフです。単なる色情については、30歳の頃に乗り越えた鉄舟ですが、男女という相対的意識観念が超えられなくて苦しんでいたのです。

これによって女性という見方から生命という見方に変わった鉄舟は、芸者や酌婦も安心して鉄舟の側に近づくようになり、モテるようになったなったそうです。


禅がわしに与えてくれたものは、わしは一人ではない、いつも天が見守り導いてくださっているという実感だ。その実感があるから、自分の行動に自信が持てるんだ。これは天の行動だと思うから、少しも怖気(おじけ)づかない。だから”自分を信じる”ことと、自分を地上に遣わされて”天を信じる”とは同じことだよ。」(p.453 - 454)

自分を信じるとは、宇宙の愛を信じるということです。もしそれを信じるなら、何に対しても怖がる必要はありません。不安に感じる必要もありません。「神との対話」で言うように「不安(恐れ)」の反対は「愛」です。不安がなければ愛に至るのです。


500ページもの長編小説ですが、一気に読んでしまいました。それだけ没入できるんです。これまで、山岡鉄舟という人のことはあまり知らなかったのですが、いかに素晴らしい人物であったかがよくわかりました。幕末から明治にかけて、非常に優秀な人がたくさん現れています。また1人、私の好きな人が増えました。

春風を斬る 小説・山岡鉄舟
posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 18:31 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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