長いタイトルの本を読みました。これも、どこで紹介されたのか忘れましたが、帯にある「マインドフルネスが人生を変える鍵となる」という言葉にピンときたように記憶しています。
著者はジェームズ・ドゥティ教授、翻訳は関美和さんです。ジェームズ氏は脳外科医として活躍しておられます。読むまでよくわからなかったのですが、これはいわゆる「引き寄せの法則」を使って現実を思い通りにするマジックのことのようです。
内容は回顧録かノンフィクション小説のような体裁なので、とても読みやすいし、読んでいるうちに引き込まれていきます。貧乏で勉強もあまりできなかったジェームズ氏が、手品用品店で不思議な女性ルースと出会い、人生を変えるマジックを教えてもらうのです。
その方法がマインドフルネスと呼ばれる瞑想法で、それを実行することで、紆余曲折がありながらも最高の人生を手に入れるに至ったという自伝です。
ジェームズ氏は、事故に合うことで臨死体験もしていますが、それほどスピリチュアルな世界に踏み込んでいるわけでもありません。ただ、脳がすべてを創り出しているわけではない、という気づきはあるようです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「人生にはどうしようもないことがたくさんあるわ。とくに子供のときは、すべてが思いどおりになるなんて考えられないわよね。なんでも変えられるなんてね。でも、からだを思いどおりにできれば、心も思いどおりになるの。たいしたことじゃないように聞こえるかもしれないけど、それがすごく力になるの。すべてが変わるのよ」(p.57)
ジェームズ氏は、ルースからこう言われて、まずは身体をリラックスさせる訓練を始めます。体を緩めることが、まず最初にやるべき重要なことなのです。
「心の傷も同じよ。注意を向けてあげないと治らないの。そうしないと、傷が痛み続けるわ。ずっとそれが続くこともある。誰でもかならず傷つくの。そういうものなのよ。でも、傷や痛みにはすごい目的があるのよ。心は傷ついたときに開くものなの。痛みを通して人は成長するの。難しい経験を通して大きくなるの。だから、人生で出遭う困難はすべてありがたいと思わないといけないの。」(p.100)
ルースのマジックは、1.体を緩める、2.頭の中の声を止める、3.心を開く、4.なりたい自分を描く、という4つからなります。後から出てくるのですが、ジェームズ氏はこの「心を開く」が上手くできなかったと言っています。
「「他人を傷つける人こそ、いちばん深く傷ついているの」
そのとおりだった。ルースが伝えたかったのは、そこだった。自分の傷を癒すことができれば、痛みはなくなるし、他人を傷つけることもない。」(p.104)
愛する気持ちを周りの人に送る。それが上手くできないのは、自分自身が癒されていないから。だから、まずは自分に愛を送ることが重要なのです。
「この数十年のあいだに結果を信じることと結果にこだわることはまったく違うことを僕は学び、何を実現させたいのかを慎重に選ばなければいけないことを、つらい思いをして学んできた。また、人間の意志にはものすごい力があることも学んだ。」(p.161)
ジェームズ氏は、人生で欲しいものを目に浮かべれば、「そのときが来れば必ずはっきりと見えるようになると絶対の確信を持って」いると言います。そうすれば、自分が望むタイミングではないとしても、だいたい実現するのだと。
仮に実現しないとしても、「それなりのもっともな理由がある」とも言います。このように、結果を信じてはいても、それが実現しないということも許容し、結果にこだわらない姿勢を持っています。
「脳が変わると、人は変わる。それは科学で証明された真実だ。でも、もっとすごい真実は、心が変わるとすべてが変わるということだ。世界に対する自分の見方が変わるだけでなく、自分に対する世界の見方が変わる。そして自分に対する世界の反応が変わる。」(p.163)
脳とは別に心があるということに、ジェームズ氏は気づいています。そして、その心を変えることで、世界が変わると言っているのです。
「毎朝毎晩、心の目にその姿を映し出した。どんな結果になるかは心配していなかった。結果から自分を切り離して、なりたい姿を思い浮かべられるようになっていた。いつかなれる。そう知っていた。やるべきことをやって、細かいことはなりゆきにまかせよう、と思った。」(p.197)
一般的には無理と思われることであっても、ジェームズ氏はできると信じて疑いませんでした。しかし、結果にこだわっていない点が注目すべきことだと思います。
「わたしたちの誰もが、人生の中で痛みを感じる状況を経験するの
それを「心の傷」って呼ぶのよ
それを無視するといつまでも治らない
でもときには、心に傷を負ったときこそ、心が開くものよ
心の傷がいちばんの成長のチャンスになるの
困難は魔法の贈り物なのよ」(p.241)
「心はコンパスなの。いちばん大切な贈り物よ、ジム。もしいつか道に迷ったら心を開きなさい。そうすれば、正しい方向に導いてくれるわ」(p.241)
ジェームズ氏がルースから聞いた言葉です。ピンチこそがチャンス。困難な時ほど喜ぶことです。心を閉ざさず開いていれば、心が進むべき方向を指し示してくれるのですね。
「頭は、人間を区別し、一人ひとりが別の人間だということにしたがる。自分と他人をくらべ、違いを見出し、限られた資源の取り分を確保する方法を教えてくれる。でも心は人をつなげ、分かち合おうとする。人間には違いがなく、結局僕たちはみんな同じなのだと教えてくれる。心はそれ自体が知性を持つ。そこから学ぶことができれば、僕たちは何かを与えることによってのみ、何かを持ち続けることができるとわかる。幸せになりたければ、他人を幸せにするしかない。」(p.246)
億万長者に上り詰めたジェームズ氏でしたが、一瞬にして奈落の底に突き落とされます。全財産を失って、さらに借金がある。そんな状態で、取り消し不可として寄付を申し出ていた優良株が、手違いで手続きが完了していなかったと知るのです。
不安を動機とすれば、そこにしがみつくでしょう。そんな状態で寄付をやめても、誰も責めたりはしないでしょう。しかしジェームズ氏は、当初の予定通りに寄付の手続きを進めることにしたのです。
本当の意味では、何も失うものはない。そして、与えることが得ることなのだという、心の声にしたがったのです。
「僕は最後に残った資産を差し出すことで、ルースと過ごしたときには幼すぎて理解できなかったレッスンを学んだ。ルースが教えてくれたマジックのグランドフィナーレは、人生をよりよい方向に変えるには他者の人生を助けるしかないという、究極のレッスンだった。
ルースはテクニックと練習法を教えてくれたけれど、僕と一緒に過ごし、僕に関心を注ぐことで、いちばん大切な本物のマジックは何かを教えてくれた。それは、自分の心の傷だけでなく、周囲の心の傷を癒す、共感の力だ。」(p.249)
他者に共感すること。他者につながること。他者と一体になること。それが究極のマジックなのです。
「人間は動物よりさらに本能的な共感の力を持っている。人の脳には、お互いを助けたいという願望が埋め込まれている。他者を助けたいという願望は、幼い子供にも見られる。」(p.275)
「つまり人間は、助けを必要としている人を助け励ますようにできている。また、他者に何かを分け与えると、脳の快楽と報酬系が刺激され、何かをもらったときよりも大きな快楽を感じる。誰かが親切にふるまったり、他人を助けているのを見ると、自分も思いやりのある行動をとるようになる。」(p.275)
共感は人間の本能だと言います。動物が同じ種の仲間や、時には別の種であっても助けようとすることは、よく報告されています。それよりも人間の共感力は強いと言うのです。
「人生が僕をどこまで連れていってくれるかに、いつも驚かされてばかりだ。
あとになって振り返れば、人生の点と点をつなげることはたやすいが、渦中にいるときには、点と点がつながって美しい姿を描き出してくれるとはとても思えないものだ。僕は人生の成功も失敗も予想できなかったけれど、そのすべてが僕を以前よりもいい夫に、いい父親に、いい医師に、いい人間にしてくれた。」(p.283)
順境も逆境も、自分の為になるのです。「あの出来事があったからこそ今がある。」と、後になれば思えるのです。
「僕たちはつながりの旅の途中にいる。それはこの地上で他者に心を開き、全員が兄弟姉妹であることに気づく旅だ。ひとつの共感の行いに気づけば、それが次の共感の行いにつながり、地球全体に広がっていく。最後には、人がどれだけ深く愛し合うか、お互いを大切にし合うかが、この星と人類の生き残りを左右することになる。」(p.286)
私たちは、愛に近づこうとしています。それが、私たちの人生の目的です。それが進まなければ、地球の破壊や人類の滅亡につながる可能性もある。そう、ジェームズ氏は言います。
浮き沈みの激しい人生を通じて、人生を変えるマジックを習得したジェームズ氏は、それを多くの人に伝えるためにこの本を書きました。ルースから教えてもらった手法は、マインドフルネスと呼ばれる瞑想法と、イメージングによる引き寄せの法則を活用するものです。
しかし、それだけではありませんでした。ただ思い通りのものを現実化することが重要なのではなく、その過程において、心を開いて他者に共感し、一体化する方向に自分の気持ちを向けることが重要なのです。一言で言えば、愛に生きるということ。
愛こそがすべてを解決するマジック。この本を読んで、私はそう感じました。
