2017年08月07日

5分で涙があふれて止まらないお話



これは月刊誌「PHP」に連載された短編小説をまとめた本です。どこで紹介されていたのか忘れましたが、気になって買ってみました。

著者は作家の志賀内泰弘(しがない・やすひろ)さん。この短編集の面白いところは、舞台が同じ場所で、登場人物がその地域の人たちだという点です。


ではさっそく一部を引用して・・・と言いたいところですが、これは小説なので、あまりネタバレにならないよう紹介したいと思います。

個々の短編では、よく出てくるフレーズがあります。

都心から私鉄で、二つの大きな川を越えて一時間余り。終点手前の駅を降りると、「八起稲荷(やおきいなり)商店街」のアーチが出迎えてくれる。「七転び八起き、九難を払う」ご利益があると伝えられる稲荷神社の門前町だ。」(p.59)

書き方は微妙に違ったりするものの、書かれている内容はだいたい上記の通りです。このフレーズで、この小説の舞台を説明しているのです。

この小さな街で、人々は稲荷神社と関わりながら暮らしています。そこに起こる日常の悲喜こもごも。涙あり、笑いありのドラマなのです。


タイトルにある「5分で」というのは、短編小説を1つ読み終える時間なのでしょうね。プロローグとエピローグを含めて18編の短編小説からなります。それぞれには月の名前がつけれれており、1年4ヶ月の期間を表しているように感じられます。

この中から1つ、気に入ったものを紹介しましょう。文月の「甘えてもいいの?」というタイトルの物語です。

主人公は翔太くん。薬局ハセガワの夫婦、長谷川徳一と朝子に子どもができないため、施設から養子として迎えられた子どもです。とても行儀が良い子どもでしたが、2年たってもどこかよそよそしい。

そんな翔太くんは、近くの喫茶店へ行くのが好きでした。そこには脳性小児麻痺で言葉を話せない正くんがいて、翔太くんは正くんと一緒に過ごすのが好きだったのです。

正くんは、とても手のかかる子です。だって、自分では何もできないのですから。お母さんは喫茶店で働きながら、正くんの面倒を見ています。お母さんが忙しそうにしていても、しょっちゅう「あ〜あ〜」と言ってはお母さんを呼びます。

「正君、わがままだよね、いつもお母さんに甘えてばかりいて」
 「そうよね」
 「甘えてばかりいちゃいけないよね」
 「ううん、いいのよ」
 「え……?」
 「だって、甘えられると嬉しいからよ」
」(p.101)

自分は甘えていてはいけないのだ、自立して迷惑をかけないようにしないと嫌われるのだと、翔太くんは無意識に思い込んでいたのでしょう。実の親から愛されず、施設で過ごしてきた翔太くんは、養父母にも素直に甘えられなかったのです。

喫茶店から帰ってきた翔太くんは、唐突にこう言いました。

「あのね、お父さん……、ぼく、一つお願いをしてもいいかな」
 徳一は、グラスを手に眼を開いた。翔太の様子がいつもと違うように感じられたからだ。それを悟られぬように答える。
 「なんだい、翔太」
 「うん……ぼく、お父さんの膝で一緒に野球を見てもいいかな」
」(p.108)

勇気を出して甘えてみたのです。そして長谷川夫婦は気づきます。壁を作っていたのは翔太くんではなく、自分たちではなかったのかと。


こういう気持ちの行き違いって、よくあることですね。私も経験があります。

子どものころ、父はとても怖い存在でした。甘えていけるような父ではなかったのです。ですから、話をするのはいつも母とだけ。父の逆鱗に触れないよう、逃げていたのです。

ある日、趣味で集めていた切手の、国宝シリーズがどうしても欲しくなりました。でも、小遣いで買えるような値段ではありません。私は母に買ってくれないかとお願いしました。母から父に頼んでほしいと。母には甘えやすかったのです。

しかし母は、「直接お父さんにお願いしてみなさい。きっと買ってくれるよ。」と言うだけです。私には、とても信じられませんでした。あの父が、私に何か買ってくれるなんて、あり得ないと思っていたのです。「甘えるな!」と怒鳴られるのがオチだと。

でも、国宝シリーズが欲しいという気持ちには勝てず、母の言葉を受け入れて、恐る恐る父にお願いしてみました。

父は、「カタログを持って来い。いくらするんだ?」と、無表情な感じで言いました。私も感情を隠したようにしてカタログを渡し、「○○円だって」とよそよそしく答えました。

すると父が言ったのです。「わかった。こうちゃる(買ってやる)。」とても信じられない言葉でした。

でも、その時は父の愛を感じたのではなく、ただ災難を避けられた、欲しいものが手に入った、という喜びだけでした。

今になって思えば、父もまた私を愛したかったのです。甘えてほしかったのでしょう。そのことが重なって、この短編を読むと、自然と涙がこぼれて来るのです。

5分で涙があふれて止まらないお話
 
posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 13:14 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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