2017年05月20日
人生を変える幸せの腰痛学校
話題になっている腰痛の本を読みました。著者は伊藤かよこさん。自らも椎間板ヘルニアで腰痛になった経験があり、自分で治そうと一念発起して様々なことを学び、鍼灸師の資格も得て、現在は鍼灸カウンセリング治療院を開設されています。
驚くのは、これは小説だということです。小説を読むことで腰痛が治るというしろもの。そんなバカなと思いましたが、読み終えてみると目からウロコがボロボロと落ちました。しかも内容が実に本質的。これには参りました。300ページもある分厚い本ですが、一気に読んでしまいました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。と言いたいところですが、これは小説です。ネタバレになるので、引用はなるべく少なくしたいところです。
しかし、覚えておきたいことがてんこ盛りで、多くのページに線を引いてしまいました。ですから、私の備忘録として引用したいと思います。私の解説は、なるべく減らします。ネタバレが嫌な人は読まないでください。まず本を読んでから、この先を読まれることをお勧めします。
「この本は、確かに腰痛の改善を目的として書かれたものです。
そしてこの本『人生を変える幸せの腰痛学校』は、今や世界の最先端の腰痛治療の現場で行われ、実際に驚くべき成果を上げている「認知行動療法」のプログラムに基づいて描かれたものです。」(p.2)
まず、このようにこの小説の立場を明記しています。
この後、腰痛で会社を辞めざるを得なくなった主人公が、様々な治療法を試しても治らず、最後に出会った認知行動療法のプログラムによって、腰痛から解放されて幸せになる様が描かれていきます。
この後は、小説の展開から離れて、本質的な文や気になったところを引用したいと思います。
「物事はねぇ、とってもシンプルなんですよ。腰痛のことばかり考えていると治らない。いい気分で過ごすと改善する。なんとなくわかりませんか?」(p.59)
「これは面白い現象なんやけど、腰痛のままでもまあええか、と思えた時に、痛みは少しずつ減少していきます。治したい、治りたいという執着を手放すと、結果的に手に入りますから」(p.62)
「私たちはいつでも自分で選べるの。幸福でいるか、不幸でいるか」(p.66)
「みなさんだって明日死なない保証はどこにもないんですよ。腰痛のことはひとまず横においといて先に幸せになりましょうよ。そのためにはね、私は幸せになるんだとまず最初に決心することなんです」(p.76)
このように、意識をフォーカス(集中)すると、その現象(痛み)が続くのだと言います。だから現象から切り離して、まず先に幸せになること。腰痛でなかったらやる楽しいことに意識をフォーカスするのだと言っています。
「「一病一因といって、ひとつの病気や症状はひとつの原因で起こる、ほとんどの人がこの思い込みにとらわれています。みなさんだけではない、医療関係者もね。
でもね、実際は一病多因なんです。原因のすべてを正確に知ることはできません。そのことがわかった時、どうしたらいいと思いますか?」
(どうすればと言われましても…)
「原因について考えるのをやめることです」」(p.86)
原因を考えても良くはならないのですね。この辺はアドラー心理学の目的論的な考え方が反映されています。
「今ね、とても集中してたでしょう? 私たちは、次から次へといつもなにかを考えています。この『思考のおしゃべり』を止めるコツは、考えるのをやめて、感じることに集中することなんです」(p.94)
瞑想のコツとも言えます。そして、体験を重視する考え方ですね。
「先生は、ホワイトボードに書かれた<自分=主><痛み=従>を指さした。
「みなさんは痛みを観察しました。観察する側とされる側では、観察する側が『主』で観察される側が『従』です。わかりますか?」(p.125 - 126)
「頭から痛みのことを追い出せれば一番いいんですけど、痛みに意識を向けないでいることはそう簡単にできることではありません。それやったら、痛みと自分とを切り離して淡々と観察してみましょう」(p.126)
「痛みが強い時にじっと動かないでいるのか、できる範囲で動くのか、痛みだけに集中するのか他のことを考えるのか、痛みを嫌うのか好きになるのか、痛みに話しかけるのか、そんなバカバカしいことはやりたくないからやらないのか、これらを決められるのは自分だけなんよ。
自分で選択し、決断し、行動する。そして、行動したことによって初めて自信がつくんです。」(p.127)
痛みの奴隷にならないこと。痛みはあっても自分が主体なのだということ。主体の意思次第で、痛みを従属する立場に置くことができるのですね。
「子育てにたとえてお話しましょうか? 『悪い子』やという前提があって、ここが悪い、あそこも悪いと、『悪いところ探し』をしたとしましょう。『悪い子』やから治さなアカンし、矯正せなアカンと思うんでしょ? まわりの大人がこんな態度で接したら、その子は本来持っている能力を十分に発揮できると思いますか? からだもいっしょです。もともと備わっている治癒力が働きません」(p.148)
「治ると思えば治るし、治らないと思えば治らない。腰痛に関しては実にシンプルですわ。治りたいのなら、すでに治ったと思い、すでに治ったようにふるまえばいいだけです。せやけどね、こうやって治った、治らないと腰痛に意識を向けること自体が逆効果やからね。そこでお勧めなのが『どっちでもいい』という考え方なんです」(p.155)
「もっとからだと仲よくしましょうよ。仲よくしたい時は、”ダメ出し”やなくて、”ヨイ出し”です。いつもは、当たり前だと気にもとめていないからだの働きに、『ありがとう』と言ってみませんか?」(p.168 - 169)
身体を信頼すること。感謝すること。そして理想を思い描くこと。それができないなら、結果を放り出すことです。
「「恐いことを克服する方法はひとつしかありません。なにかわかりますか?」
「……?」
「その恐いことを実際にやってみることなんです。今回、神崎さんにとって激痛がやって来たのはチャンスでした。あんなに痛かったのに、数時間後には電車に乗れた。そういう経験を一度でもしたらもう大丈夫。腰痛を二度と恐がらなくて済みますよ」」(p.193)
「「中途半端なとこにいるより、落ちてしまった方が結果としては早かったり……」
(中略)
「医者にとって一番勇気がいるのは、信じて見守ることなんですわ」
「そしてこのプログラムの参加者は、先生がなにもしてくれないから自分で治すしかない、と腹をくくるのよ」」(p.207)
恐さ(不安)は幻想です。しっかりと見つめれば消えていきます。だから、恐いことを自分でやるしかないんですね。先生の仕事は、その背中を押してあげることなのです。
「少しは期待していたけど、まさかみんながこんなにも喜んでくれるとは。私の勇気が、ほかの誰かを勇気づけた。そしてまた、そのことが私にさらなる勇気をくれた。勇気はこうして人から人に連鎖するのだと私は初めて知った。」(p.214)
一歩を踏み出す勇気は、先生(指導者)からだけでなく仲間からも与えられます。その影響はまた自分に返ってきて、さらに自分の勇気となるのです。それが共同体の力なのですね。
「逃げるってそんなに悪いことですかねぇ? 野生動物で言うと、逃げることは生存のための最適な選択肢です。疾病逃避という言葉もありますけど、それは弱音を吐けないみなさんに代わって、からだが先にギブアップをしてくれる、人間に備わった素敵なシステムやと私は思いますけどね」(p.235)
精神的につらくて学校へ行けない時、頭痛や腹痛が起こることがあります。それは、身体が先にギブアップすることで、「私」という全体を救ってくれているのです。
「「わかってもらえないと感じる時はね、自分で自分をわかればいいのよ」
篠原さんがそっと立ち上がり、私たちひとりひとりに語りかけるように言った。
「痛いよね、つらいよね、苦しいよね、わかってるよ、ごめんね、大丈夫だよ、もう十分頑張ってるよって。毎日毎日、飽き飽きするほど、うんざりするほど、もういらないって思えるくらいまで自分で自分に声をかけてみて。いつどんな時でも、私だけは私の味方なんだから」(p.243)
自分だけは自分の味方でいる。否定せずに愛することですね。
「私たちが、なぜ生まれて、なんのために生きているのかの正解がないように、なぜ病むのか、なぜ治るのかには、唯一絶対の答えはないのよね。
『原因はこれで、こうすれば治る』と断言口調で威勢のいいことを言っている先生の指示に従っていた方がずっと楽なのよ。『わからない』のはストレスだし、自分で考え、決めるということは、『これでいいのか』『これであっているのか』という不安を抱え続けることになるわ。だから佐野先生は、その不安に立ち向かえるように『あなたにはできることがある』『からだはすばらしい』『すでに力は備わっている』と自信と勇気を与え続けてくれたんだと思うの。」(p.258)
何が正解かわからない中で、自分で考え、自分で決断する。その勇気を持つことが、自分の人生を切り開くことになるのですね。
「その精神科の先生から教えてもらったことはね、どんな状態にあったとしても、”今、この瞬間”の思考と行動は、自分の意志で選ぶことができるということなんです。”今、この瞬間”、少しでもいい気分になれる思考と行動を選ぶ。ひたすらそれだけを心がけているうちに、『焦ってもなるようにしかならへん』、逆に言うと、『焦っても焦らなくてもなるようになるから大丈夫』という心境になれたんです。」(p.270 - 271)
自分の思考と行動は、自分が決めることができる。自分が幸せでありたいなら、幸せでいられるように考え、行動することなのです。
腰痛を治すという本なのに、まるで人生とか宇宙の深遠な真理を語っているような気がしました。結局、すべてのことは通じているということなのでしょうね。
痛みというのも1つの現象に過ぎません。現象はすべて、私たちに何かを気付かせ、より進化成長する方向に促してくれるものです。そう考えるなら、腰痛もまた大事なパートナーであり、ありがたい存在なのだなと思えるのです。
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