みやざき中央新聞の社説で紹介されていた絵本を読みました。作者は内田美智子さん、絵は諸江和美さん、監修は佐藤剛史さんです。
この物語の主人公は、牛の屠殺を仕事にしている食肉加工センターの坂本義喜さんです。そしてこの物語は、坂本さんが体験した実話です。坂本さんの話を聞いた内田さんが、ぜひこれを絵本にさせてほしいとお願いして、この絵本ができたということです。
話のあらすじを紹介しましょう。
坂本さんは、自分の仕事があまり好きではありませんでした。授業参観の時、坂本さんの息子のしのぶくんは、お父さんの仕事を「普通の肉屋です」と答えたのだとか。お父さんが自信を持っていないことが、息子さんにも伝わったのでしょう。
しかし、その授業参観の日、戻ってきた息子さんは、こう言ったそうです。「お父さんが仕事ばせんと みんなが肉ば食べれんとやね」
授業で「普通の肉屋」と答えたしのぶくんのことが気になった先生が、いろいろ話してきかせたようです。それによってしのぶくんは、お父さんの仕事に誇りを感じたのでしょう。
ある日、1頭の牛が食肉加工センターに運ばれてきました。しかし、そのそばには小さな女の子がいました。女の子は牛に話しかけていました。「みいちゃん、ごめんねぇ。」「みいちゃんが肉にならんとお正月が来んて、じいちゃんの言わすけん。」坂本さんは、見なければ良かったと思ったそうです。
坂本さんは、次の日の仕事を休もうと思いました。その話をしのぶくんにも話しました。するとしのぶくんは、坂本さんにこう言いました。「お父さん、やっぱりお父さんがしてやった方がよかよ。心の無か人がしたら、牛が苦しむけん。お父さんがしてやんなっせ」
坂本さんは、仕方なく仕事へ行きました。みいちゃんの所へ行くと、最初は暴れたそうです。しかし、坂本さんの気持ちが次第に伝わり、みいちゃんもおとなしくなりました。
「じっとしとけよ」そう坂本さんが言うと、みいちゃんの目から涙がこぼれたそうです。坂本さんは、初めて牛が泣くのを見たと言います。
後日、牛を連れてきたおじいさんが、坂本さんにお礼を言ったそうです。肉の一部をもらって、食べたとのこと。女の子は食べようとしなかったけど、おじいさんはこう言ったそうです。「みいちゃんにありがとうと言うて食べてやらな、みいちゃんがかわいそかろ? 食べてやんなっせ」
女の子は泣きながら、みいちゃんの肉を食べたそうです。「みいちゃん、いただきます。おいしかぁ、おいしかぁ」と言いいながら食べたのです。
私たちが「食べる」ということは、必ず「命をいただく」ことになります。それは、対象が植物であっても同じことです。
この物語は、「命をいただく」ことがどういうことなのかを、深く考えさせる内容です。「良い」「悪い」と簡単に決めつけられるものではなく、いろいろなことを考えさせてくれるのです。
こういう話を、子どもたちに伝えたいと思いました。それで、この絵本を買ったのです。

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