「みやざき中央新聞」の魂の編集長、水谷もりひとさんの本を読みました。先に紹介した「日本一心を揺るがす新聞の社説3」よりも前に出版された本のようで、帯には「ベストセラー第3集!!」と書かれていますが、特別バージョンという位置づけのようです。
新作の15編と、水谷さんと読者が一緒に選んだ15編の、合計30編が収められています。したがって、これまでの本に載っていた社説も、いくつか掲載されています。ただ、どれもこれも厳選されているので、「あー、また読みたかった社説だ。」と感じるものでした。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「スパリゾート・ハワイアンズの奇跡」と題された社説です。福島県にある施設で、フラダンスのショーを行うなど、ハワイをイメージしたものとなっています。
東京のある週刊誌の記者が、家族連れでここを訪れた時の話です。春まだ早い東北で、南国ハワイの気分を味わう。そのとき突然、大きな揺れが襲ってきたそうです。そう、あの3.11の当日だったのです。
「「その施設で被災したことは不幸中の幸いだった」と記者は述懐している。そこはガス、水道、電気、いわゆるライフラインがすべて生きていた。あのとき、メディアで報道されたような寒さも、暗闇もなかった。数日間分の食料も備蓄されていた。」(p.35)
しかし、そのホテルの外は全壊だったのです。非常にラッキーな状況だったのですね。しかしその時、その記者は気づきます。ホテルの従業員たちにも家族がいるはず・・・。自分たちも被災者なのにも関わらず、そんなことをおくびにも出さず、客のことを心配してくれるのです。
震災から3日目の朝、ホテルの支配人は、客を東京まで送ることができると説明しました。「道路が寸断されている状況で、どうしてそんなことが言えるのか?」と、記者は思ったそうです。その時、支配人は、前日に従業員を東京に向かわせて、可能であることを実証したと伝えたのです。
「さっきよりもっと大きな拍手が会場を包んだ。震災の翌日、大きな余震が続く中、お客様を安全に東京に送り届けるために、命懸けで試行運転をした従業員がいたのだ。」(p.37)
記者は、毎年ここを訪れようと思ったそうです。そして息子さんには、このホテルの従業員はみな命の恩人なのだと伝えようと。
時代の波によって、炭鉱の町からリゾート地になったとき、これまで支えてきた男たちに代わって、娘たちがフラガールとなって街を支えてきました。そんな街で起きた、1つのエピソードです。社説は、こう締めくくっています。
「スパリゾート・ハワイアンズ、訪れてみたい施設になった。」(p.37)
私も、一度は行ってみたいという気持ちになりました。
次は、「美しさを感知する知性と教養を」というタイトルの社説です。
冒頭で、アップルコンピュータの生みの親であるスティーブ・ジョブズ氏のことを取り上げます。美しい文字をコンピュータで、という彼のこだわりが、アップルを生み出しました。そして、服飾評論家のピーコさんの話を引用します。
「美に対する自分の選択基準を持っていることは知性と教養です」(p.64)
動物は、美しいかどうかという判断基準を持ちません。人だけが持つ感性です。だから、人らしくあるには、美しいものを鑑賞することが大事なのです。
そして、ピーコさんが歌手の淡谷のり子さんのお宅に伺った時、フリルの付いた下着を見せてもらったという話が続きます。戦前、戦中と、おしゃれは非国民とされた時代も、淡谷さんはおしゃれにこだわったのです。そのことから、「ファッションは生き方を表している」と感じたそうです。
社説の最後は、こう締めくくられています。
「「自分の命は、ほかの人の為に」、本当の美しさとは、美しい生き方から生まれると思った。」(p.65)
ピーコさんは、がんで左目を摘出したのですが、その時、仲間が自分を支えようとしてくれている姿を、残った右目で見たのだそうです。
美しく生きること。それが、人間であることの証なのかもしれません。そしてその美しさとは、単に自分を着飾ることではなく、他の人のために自分を使うことなのだと思いました。
添付されたDVDには、水谷さんの約1時間の講演が収められています。その内容は、これまでの社説に書かれていたようなことですが、改めてお聞きすると、すべてがつながっているような気がしました。
収められている社説が30編と少ないので、本は約130ページと薄いものになっています。その分、DVDで水谷さんが語る姿が見られるので、この本のお勧めかと思います。
私は2016年11月に旅行で宮崎へ行った時、表敬訪問させていただいて水谷さんとお会いしました。気さくな方で、ウェルカムボードで迎えてくれる気遣いのある方です。新聞ではなかなか水谷さんの姿を見られませんから、そういう意味では貴重な1冊かもしれませんね。
