もう随分と前に買った本ですが、やっと読むことができました。どうしても分厚い本は、後回しになってしまうんですよね。
著者は細胞生物学車のブルース・リプトン氏。翻訳は西尾香苗さんです。
細胞を研究する中でリプトン氏は、心が細胞に影響を与えること、細胞は遺伝子よりも環境の影響を受けること、環境と細胞は一体のものであるということなどを、発見したと言います。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「遺伝子は分子でできた単なる設計図で、細胞や組織、器官をつくるときに参照される図面にすぎない。遺伝子が”設計図”ならば、環境は”建設業者”にあたる。建設業者は設計図を読みとり、必要な部分をうまく組み合わせ、責任をもって細胞を構築する。つまり環境こそが細胞の生命のあり方を左右する。そして何より、その細胞が環境を「認識」することによって、生命のメカニズムが動き始めるのだ。」(p.13 - 14)
これまで遺伝子(DNA)こそが細胞にとって最も重要なものであり、遺伝子によって細胞が操作されると考えられてきました。その定説に対してリプトン氏は、遺伝子は単なる設計図だと言います。そうではなく、細胞のあり方を最終決定しているのは環境の方なのだと。
「わかっていただきたいと心から願うのは、あなたの人生を動かしている”信念”の多くが間違っていること、あなたがそれに縛られていることだ。それがわかれば、誤った”信念”を変えることもできるのに気づくだろう。思考や知覚に細胞がどのように反応するのか、科学的なレベルで理解すれば、あなたは力を授かる。この新しい生物学を通じてわたしたちが得る洞察は、意識と奇跡の力を解き放ってくれるのである。
『「思考」のすごい力』は自立を助ける(セルフ・ヘルプ)本ではない。”自らに力を授ける(セルフ・エンパワーメント)”本なのだ。本書を読めば、”自分(セルフ)”についての知識が得られ、その知識はあなたの人生をコントロールする力を与えてくれるのである。」(p.19)
私たちが持っている信念の多くが間違っており、それは自分で変えることができます。それを変えることによって、自分自身を変えることができる。それが、リプトン氏が得た結論なのです。
私たちは、他の動物や植物などを知性がないものとして見下すことがあります。たしかに、私たちと彼らとには決定的な違いがあるように見えますから。しかし、この見方は正しくないとリプトン氏は言います。
「けれども、もしも細胞の大きさまで縮んで、その観点から身体を見たとしたらどうだろう?
世界の見方はまったく違ったものになってしまう。細胞レベルの観点から我が身を振り返れば、それはもはや一個の実体とは見えない。そこに見えるのは、五〇兆個以上の独立した細胞からなる、活気あふれる共同体なのだ。」(p.60)
「また、それぞれの細胞は知性のある存在だということも強調した。細胞は一つだけでもなんとか生きていくことができる。これは科学者が身体から細胞を取り出して培養しているのを見れば明らかだ。わたしは子どものときに直感的にわかっていたのだが、この賢い細胞たちは意志や目的を持っている。」(p.61 - 62)
人間をはじめどんな生物も、知性ある細胞の集合体であるという見方が正しいと言います。そうであれば、細胞レベルで見るなら、すべての生物が同等なのです。
「DNAが生物をコントロールするのではない。核は細胞の脳ではない。
わたしたち誰もがそうであるように、細胞は生活している環境に合わせて形を変える。
つまり「環境こそが問題」なのだ!」(p.118)
リプトン氏は、同じDNAを持つことは、細胞同士が共同体を形成する上で重要なのだと言います。仲間だと認識できるからです。したがって、重要なのはDNAがどうかではなく、細胞を変化させる契機となる環境だと言うのです。
「細胞膜は環境からの信号をキャッチしてそれに反応し、その結果、細胞の行動が引き起こされる。膜はある種の情報処理を行っているのだから、「知性的に(inteligently)」活動しているのだとすると、細胞膜こそが細胞の真の脳であるといえる。」(p.137 - 138)
「細胞が「知性的」にふるまうためには、レセプタータンパク質とエフェクタータンパク質が必要なのだ。レセプターが環境を認識し、エフェクターの働きによって細胞が活動する。両者の複合体は細胞の知能の基本的なユニットであり、事実上、このユニットが「知覚」の単位だと言ってもよいかもしれない。」(p.138)
細胞膜にある様々なタンパク質が、レセプターやエフェクターとして機能することで、細胞は環境からの情報に反応して自らを変えます。餌があれば捕食し、外敵があれば逃げる。そういう基本的な生命維持のための反応も、細胞膜の働きなのです。
「二十世紀を迎えることには、新世代の物理学者たちが出現し、エネルギーと物質との関係の探求という使命に邁進した。その後、十年もたたないうちに、物理学者は、世界は物質でできているとするニュートン的な世界観を信奉するのをやめた。物質という概念は幻想だと理解するようになったのだ。宇宙にあるものはすべてエネルギーで構成されている、と認識したからである。」(p.160 - 161)
物質という確実なものが存在すると思われていましたが、アインシュタインによって物質はエネルギーから作られていることが示されました。そして量子物理学では、物質をさらに細かく見ていくと、質量もなく、存在もはっきりしない素粒子で構成されることがわかってきました。
原子のレベルで人間を見れば、そこにはスカスカの空間しか見えません。その原子核でさえ、ボーッとしたものでしかなく、実体があるのかどうかはっきりしない存在なのです。
「わたしたちが暮らしているこの宇宙は、確固たる実質的な物体が何もない空間に浮かんでいるのではない。宇宙は一つにして分かつことのできない、ダイナミックで全体的な存在であり、エネルギーと物質がからまり合っているので、両者を別々のものとして考えるのは不可能なのだ。」(p.163)
1952年、イギリスのメイソンという医師がミスをしました。イボを催眠療法で治したのですが、後になってそれはイボではなく、先天性魚鱗癬(ぎょりんせん)という別の病気だとわかったのです。催眠療法は、イボに対して効果があることは実証されていましたが、先天性魚鱗癬という命にかかわる遺伝病では、その効果がなかったのです。では、どうして治ったのでしょうか?
メイソン医師は、その後も先天性魚鱗癬の患者に対して催眠療法を試みます。しかし、それによって治癒することはありませんでした。
「メイソンは、治療に対する確信のなさが失敗の原因だと考えた。少年を治療したときは悪性の疣(いぼ)だと思いこんでいて、必ず治せると自信満々だったのだが、そのあとの患者の治療にはそういう態度で臨むことができなかったという。自分が相手にしている症例が先天的かつ「治療不可能」なこと、経験を積んだ医師ならそれは承知しているはずだということを、いやというほど思い知らされた。」(p.197)
つまり、これで治ると確信を持った医師の態度、そしてそれを信じた患者の態度が、病気にも影響を与えるということなのです。これは、前に紹介した「シーゲル博士の心の健康法」でも言われていることですね。
「”信念効果”はすばらしいものだ。これこそ、身体/心には治癒能力が備わっていることを示す、驚くべき証拠である。」(p.221)
プラシーボ(偽薬)効果と言われますが、ニセの薬であっても、それで治ると信じれば、効果があることが明確になっています。
「結果は衝撃的だった。もちろん、手術を受けた患者の症状は改善した。これは予想通りである。だが、偽手術を施したフループにも、手術を受けた二つのグループと同じ程度の治療効果が見られたのだ!」(p.225)
プラシーボは薬だけでなく、手術したと見せかけただけでも効果があることが実証されたのです。
「ほとんどすべての生物は、生命にかかわる刺激を実際に直接経験している。ところが人間は、脳がもつ知覚を「学習する」力がたいへん進んでいる。そのため、わたしたちは他人から間接的に知覚の仕方を教わることがある。ひとたび他人の知覚を受け入れ、それが「真実」だと思ってしまうと、他人の知覚が自分の脳内の回路として固定してしまい、自分の「真実」となってしまう。」(p.215)
つまり脳が発達しているので、他人の知覚を受け入れて、自分の知覚としてしまうのです。「そんな危ないことをしてはいけません!」と言われて育ち、それを「危ないこと」と信じて疑わない、というようなことです。
この脳の発達は、危険を未然に防ぐという意味で効果があるものの、逆に言えば、自分で体験するということをやめてしまう危険があります。
「ここで大事なポイントは、何を見るのかは、自分で選択できるということだ。あなたは信念(フィルター)を通して人生を見ることができる。バラ色の信念(フィルター)を選んで、身体を構成する細胞が活発に活動する手助けをすることもできる。逆に、暗い信念(フィルター)を選んで、すべてにダークな影を投げかけ、心も身体も病気になりやすい状態にすることもあり得る。恐怖の人生を送るのも愛の人生を送るのもあなた次第だ。選択権はあなた自身にある!」(p.232 - 233)
ここで信念をフィルターと呼んでいるのは、その前にフィルターを通して物を見ると見え方が変わるという例を出しているからです。出来事や現実が重要なのではなく、それをどう捉えるかということが重要だと、リプトン氏は言います。そして、その見方の決定権は、私たち自身にあるのだと。
「といっても、生命の秘密は秘密でもなんでもない。一千年以上も前から、ブッダやキリストのような導師がわたしたちに語りかけていることだ。現代では、科学も同じ方向に向かっている。人生をコントロールしているのは遺伝子ではなく思考である。……ほんのちょっとした思考が鍵なのだ!」(p.233)
大昔から言われてきたことを、最近の科学がやっと追随してきた。重要なのは思考なのです。
「親から「バカな子だ」とか、「おまえなんか何の価値もない」「何の役にもたたない」「生まれてこなければよかったのに」「病気がちで、身体が弱い」などと言われて育ったら、どういう結果になるだろうか?
子供たちに向けて発せられたこの手のメッセージは、絶対的な「事実」として、潜在意識のメモリーにダウンロードされる。」(p.267)
リプトン氏は、同じ意識でも潜在意識の方が顕在意識よりも、身体に与える影響が大きいと言います。たとえばいくら目をつむらないようにと顕在意識で思っていても、ボールが顔面に向かって飛んでくれば、思わず目をつむってしまうようなものです。
そして、何度も繰り返されて受け入れてきた考え方は、潜在意識にダウンロードされ、自然に身体が反応するようになります。特に、6歳までのシータ波が脳波を支配している状況では、入ってくる情報がどんどん潜在意識にダウンロードされるのです。
「わたしは本書に出てくることはすべて、以前から頭では理解していた。だが、わたし自身が変わろうと努力するまでは、人生は何一つ変わらなかった。」(p.294 - 295)
ただ知っているだけでは意味がないと、リプトン氏は言います。本気でそれを受け入れて、変わろうとしなければ変わらないのです。
「ここであなたに課題を出そう。
根拠のない不安は捨ててしまうこと。
不必要な恐怖や限界を定めてしまう思考を、あなたの子どもの潜在意識に埋め込まないように、気をつけること。
何より大事なのは、遺伝子決定主義による運命論的メッセージを受け入れないこと。子どもたちの可能性を目一杯手助けすることができるし、あなた自身の人生を変えることもできる。あなたは遺伝子に、”縛られた”存在ではないのだから。」(p.295)
無意味に不安がったり、恐れたりしていては、自分の可能性を自分で潰すことになります。そして、そうやって自分の可能性をあきらめた大人が、今度は子どもの可能性を潰そうとするのです。ですから、まずは自分が変わろうとすることが重要なのです。
「細胞膜のメカニズムの美しさと見事さを見極めて、わたしがたどりついた結論はこうだ。わたしたちは不滅の霊的(スピリチュアル)な存在であり、身体とは別に存在しているのである。」(p.300)
環境が細胞をコントロールできるのは、細胞の中に環境に反応するそれぞれの機能があるからです。それはつまり、細胞が単独で存在しているのではなく、環境の中で一体として存在していると言えます。ですからリプトン氏は、「地球は一つの生命体」だと言います。
全体としての生命、つまり魂(スピリット)というものがあって、私たちの本質は魂なのだと言うのです。科学がついにスピリチュアルな世界を証明し始めた。そんな感慨がありますね。
「レセプターは白人でも黒人でもアジア人でも、あるいは男性でも女性でも、いずれにも現れ得る。それがわかれば、性差別や人種差別は不道徳的であるばかりか、ばからしいことであるのがわかるだろう。環境は「あるものすべて」(すなわち神)の表象であり、自己レセプターのアンテナがダウンロードするのは、全体のなかのほんの一部である。だから、わたしたちは全体のごく一部分の現れなのだ……つまり、わたしたちは、神の一部分の現れなのである。」(p.314)
差別は、道徳的でないからしてはいけないのではなく、単に無知から来るものなのです。かつてイエスが神に祈ったように、彼らは何も知らないから、ひどいことができるに過ぎないのです。
私たちの本来の姿は、全体である生命、魂、神の一部だとリプトン氏は言います。しかし、それなのに今の世界は、いまだに争いを続けています。そんな人類に未来はあるのでしょうか?
「これと同様に、人口増大によるストレスが、進化の階段をもう一段昇るという結果につながるだろうとわたしは信じている。わたしたちは必ずや、”地球規模”の共同体に結集するはずだ。」(p.324)
かつて単細胞が飽和状態になったとき、生き延びるために細胞同士の共同体が作られたと考えられます。そうだとすると、人口増大によるストレスは、生き延びるために人間同士の共同体を作る方向に進むと、リプトン氏は言うのです。
それにしても、単細胞の機能の話が、こういう話にまで展開してくるとは思いもよりませんでした。けれども、科学者が科学的に考えた上での指摘だけに、そこには説得力があります。
分厚い本ですが、読み始めると一気に読めてしまいます。科学的に生命の神秘に触れる上でも、お勧めの本だと思います。
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