2016年12月10日

GRIT やり抜く力



この本を買うきっかけは、TEDの動画を見たからです。そのスピーチで著者のアンジェラ・ダックワース氏は、次のように明言しました。競争に勝ち抜いて成果をあげるのはIQなどの才能ではなく、「やり抜く力」なのだと。スピーチの翻訳もありますので、そちらもご覧ください。

つまり、成功したり一流になるのにもっとも重要なことは、才能ではないということです。才能が優れていることよりも、「やり抜く力=GRIT」があるかどうかが重要だと言うのです。

にわかには信じられませんでした。だって、才能がなければそもそも、挑戦することすらしないのではないか、さっさとあきらめてしまうのではないか、という気持ちがあったからです。

たとえば、若いころ私はドラムを習いに行きましたが、後から入った女子高生の進歩の早さに圧倒されて、ドラム教室をやめてしまいました。どれだけ練習しても、すぐに上達する彼女にはかなわなかったからです。それでも「やり抜く力」の方が重要なのでしょうか?

たしかに「うさぎとかめ」の寓話にあるように、コツコツと努力し続けることは大事なのでしょう。でも、それが才能に勝ると言えるのか、私には何とも言えません。それで、この本を読んで見ることにしたのです。翻訳は神崎朗子(かんざき・あきこ)さんです。


ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。

要するに、どんな分野であれ、大きな成功を収めた人たちには断固たる強い決意があり、それがふたつの形となって表れていた。第一に、このような模範となる人たちは、並外れて粘り強く、努力家だった。第二に、自分がなにを求めているのかをよく理解していた。決意だけでなく、方向性も定まっていたということだ。
 このように、みごとに結果を出した人たちの特徴は、「情熱」と「粘り強さ」をあわせ持っていることだった。つまり、「グリット」(やり抜く力)が強かったのだ。
」(p.23)

つまりグリット(やり抜く力)を持っている人が成功するということです。そしてグリットには、2つの要素があると言っています。それが「情熱」と「粘り強さ」です。


多くの場合、私も含めて、才能の方が重要だと思いがちです。成功するかどうかの要因としてもっとも重要なのは才能だと。しかし、アンジェラ氏はそうではなく、グリットが最重要だと指摘します。では、どうして多くの人は才能だと思いがちなのでしょう?

「我々の虚栄心や利己心によって、天才崇拝にはますます拍車がかかる。天才というのは神がかった存在だと思えば、それにくらべて引け目を感じる必要がないからだ。『あの人は超人的だ』というのは、『張り合ってもしからない』という意味なのだ」
 言い換えれば、「天賦の才を持つ人」を神格化してしまったほうがラクなのだ。そうすれば、やすやすと現状に甘んじていられる。
」(p.66)

前半はニーチェの言葉からの引用です。世間から天才と称せられる人は、本当は誰にも負けない努力家だということが多々あります。たとえば大リーガーのイチロー選手もそうです。けれども人々は天才と称することで、自分が努力しなくて済む理由にしているのです。


「才能」とは、努力によってスキルが上達する速さのこと。いっぽう「達成」は、習得したスキルを活用することによって表れる成果のことだ。」(p.70)

「才能×努力=スキル」であり、「スキル×努力=達成」であると、アンジェラ氏は図解します。つまり、才能だけで達成(成功)が得られるのではなく、2段階の努力が重要だということです。

まずはスキルを作る段階があり、その後でそのスキルを活かして達成する段階がある。その両方の段階において、「努力」という要素があるのだと指摘しているわけです。時系列的なものを除くと、「才能×努力×努力=達成」ということですから、才能より努力の方が重要だということを示しているとも言えます。

肝心なときにどれだけがんばれるかは、もちろん重要なことだが、進歩の妨げとなるのは途中でやめてしまうことだ。コーチやアスリートたちも言っているとおり、長い目で見れば「継続は力なり」の一語に尽きる。
 私たちは、新しいことを始めても長続きしないことが多い。しかし「やり抜く力」のある人にとっては、一日にどれだけ努力するかより、くる日もくる日も、目が覚めたとたんに「きょうもがんばろう」と気合を入れ、トレッドミルに乗り続けることが重要なのだ。
」(p.77)

才能があれば有利に働くことはたしかでしょう。しかし、最後にものを言うのは努力。しかも毎日続ける努力なのですね。


では、どうすれば努力を継続させられるのでしょう? その情熱はどこから生まれてくるのでしょう? その答えを、アンジェラ氏は学生との質疑応答の中に示します。

「そして、これがいちばん重要なこと。やり抜く力は、、自分にとってかけがえのないことに取り組んでこそ発揮されるの。だからこそ、ひたむきにがんばれるのよ」
「自分が本当に好きなことに打ち込む、ってことですね。わかりました」
「そう、自分が本当に好きなことに打ち込むの。でも、好きになるだけじゃだめなのよ。愛し続けないとね」
」(p.81)

対象が好きで情熱を掻き立てるものであることが重要です。そして、日々その情熱を自分で温めることが、さらに重要になってきます。そのためには、その対象に意義を感じていること。いわば使命感のようなものです。何が何でも達成せずにはおかないという意思が、日々の努力のモチベーションとなるのです。


ところが、実際にインタビューで話を聞いてみると、ほとんどの人は「これだ」と思うものが見つかるまでに何年もかかっており、そのあいだ、さまざまなことに興味をもって挑戦してきたことがわかった。いまは寝ても覚めても、そのことばかり考えてしまうほど夢中になっていることも、最初から「これが自分の天職だ」と悟っていたわけではなかったのだ。」(p.142)

つまり、幼い頃から何か秀でた才能があり、その才能を伸ばしたから成功する、というパターンばかりではなく、後になって使命を発見し、花が開く例のほうが多いと言います。日本地図を作った伊能忠敬などもそうですね。彼が天文学を習い始めたのは、隠居した50歳以降のことですから。

ですから、試行錯誤はやむを得ないのです。まずは生活費を稼ぐ手段として、できれば自分の興味のあることを、とりあえずはやってみることです。それも本気でやってみること。結局、常に本気で取り組んでいなければ、天職を発見することはできないのです。


ふつうの人びととちがって、エキスパートたちは、ただ何千時間もの練習を積み重ねているだけではなく、エリクソンのいう「意図的な練習」(deliberate practice)を行っている。」(p.169)

闇雲に努力するだけというのでは、なかなか上達することはできません。今より少し高い目標を目指し、その練習を集中して行い、改善点が見つかったら改善する。この3つの流れが、「意図的な練習」だと言います。


「やり抜く力」の強い人は、ふつうの人よりも「意図的な練習」を多く行い、フロー体験も多い。
 このことは、ふたつの理由によって矛盾しない。第一に、「意図的な練習」は行為であり、フローは体験である。
」(p.186)

「意図的な練習」は、かなり苦しいものと言えます。常に自分の限界に直面するからです。それはフロー(たとえばランナーズ・ハイなど)が起こるから乗り越えられるものではない、と言います。フローは結果的に起こるものであり、それに関わらず「意図的な練習」をするグリットこそが重要だと言います。


私たちが達成する前に挫折してしまうのはなぜでしょう? 生まれつき、グリットが弱いからでしょうか? もしそうだとすれば、赤ちゃんはどうなのでしょう?

児童の学習心理学が専門の心理学者、エレナ・ボドロヴァとデボラ・レオンも、やはり赤ちゃんや幼児は、失敗から学ぶことが苦にならないと言っている。赤ちゃんが座りかたを覚えたり、幼児が歩きかたを覚えたりするようすを見てみよう。なかなかうまく行かず、何度も失敗しても、がんばって挑戦している。ものすごく集中して、周りからたくさんのフィードバックをもらって、多くのことを学んでいる。
 そんなとき、幼い子どもたちはいったいどう感じているのか、訊いて確かめることはできないが、つらそうに見えないことはたしかだ。
」(p.200)

大人になると失敗を恐れ、失敗すると立ち上がれなくなったりします。けれでもそれは先天的なことではなく、後天的にそうなったのです。大人が子どもの失敗を責め、恥ずかしく感じるように仕向けることで、子どもが学んだに過ぎません。


では、大人になってもグリットが強い人は、子どものころからそうだったのでしょうか? そういうこともあるかもしれませんが、「目的」が重要だとアンジェラ氏は言います。

これはべつに、「やり抜く力」の鉄人たちはみな聖人だという意味ではない。「やり抜く力」のきわめて強い人は、自分にとっての究極の目標は、自分という枠を超えて、人びとと深くつながっていると考えている、ということだ。」(p.208)

日本の女子ソフトボールが世界一になったときもそうでした。単に自分が1番になりたいからではなく、世界一になることによって東日本大震災の被災者たちに勇気を与える、という使命感を共有したのです。自分のためだけなら頑張れなくても、他の人のためなら頑張れる。人は、そういうものかもしれません。


実際に、これまでの研究事例を振り返っても、確固たる「目的」を抱くようになった人は、必ず若いときに、「目的」を持った生き方の手本となる人物(ロールモデル)に出会っているという。」(p.220)

天職とか使命を発見する上で重要なことは、そういうものを持って生きた先人に出会うことが重要なのだそうです。こういう人になりたいというあこがれが、そういう生き方への動機となるのです。


この画期的な実験によって、「無力感」をもたらすのは苦痛そのものではなく、「苦痛を回避できないと思うこと」だということが初めて証明された。」(p.230)

マウスなどの動物実験です。けれども、それは人も同じこと。苦痛を与えられるから無力感を抱くのではなく、自分にはそれを回避できないと「思う」から、無力感を抱くのです。

楽観主義者も悲観主義者も同じようにつらいできごとを経験するが、受けとめ方が異なるのだ。楽観主義者は自分の苦しみは一方的で特定の原因があると考えるが、悲観主義者は自分の苦しみを変えようがない原因のせいにして、自分にはどうすることもできないと考えてしまう。」(p.233)

才能が成功の主因だと考えれば、自分にはどうにもできないと考えることができます。そうやって自分で無力感を抱え、努力しないですむ理由を作り、挑戦をあきらめるのです。


これは、自分にはどうすることもできない要素で人生は決まるという「固定思考」か、努力次第で人生は変わるという「成長思考」か、という問題でもあります。「成長思考」の人は、同時に「やり抜く力」が強いとアンジェラ氏は言います。そして、子どもがどちらの思考になるかは、大人の接し方によって決まるのだと。

じつはおとなになって成功や失敗をしたとき、その原因を自分の才能に結びつけるか、それとも努力に結びつけるかは、子どものころの「ほめられ方」によって決まる確率が高い。」(p.242)

才能があることを褒められ、できなくても才能がないのだからしょうがないと慰められると、「固定思考」になる。一方で、努力を褒められ、できなくてもいつかできるようになると励まされると、「成長志向」になる。そういう傾向があるそうです。

これはつまり、子どもに対する親や周りの大人が、あるいは部下に対する上司が、相手をどう見ているかによるということです。「この人はダメだ」と存在を否定するのか、その成長した先を見ているのか、ということです。

結局、「やり抜く力」を発揮するための視点を取り入れるには、「人間は何でもやればうまくなる」「人は成長する」という認識が欠かせない。私たちは、たとえ人生で打ちのめされても、這い上がるだけの力を持っていたいと思っている。」(p.247)


子育てにおいて、グリットを強化するようなやり方は、とても重要だと言えます。では、どうすれば子どものグリットを強化できるのでしょう? 厳しく育てるのが良いのか? それとも、放任主義が良いのか?

子育て研究による大きな発見のひとつは、親が子どもにどんなメッセージを伝えようとしているかよりも、子どもがそのメッセージをどう受け取っているかのほうが重要だという点だ。「テレビを見せない」「汚い言葉遣いを許さない」など、いかにも独裁的な育て方に見えることでも、子どもが必ずしもそれを威圧的だと思うかどうかはわからない。」(p.284)

厳しく育てられたからと言って、子どもが窮屈に感じるかどうかはわからないし、放任されて育てられたからと言って、子どもが自由を感じてのびのびとしているかどうかはわからないのです。

親からの支援を受け、自主性を尊重されながらも高い水準を要求されて育つことには、たくさんの利点があるが、とりわけ「やり抜く力」にはおおいに関連性がある。賢明な育て方は、子どもが親を見習うように促すのだ。」(p.286)

厳しいにせよ放任にせよ、重要なのは子どもの気持ちを尊重し、それを支援することです。その上で、さらに高い水準を目指すように仕向ける。また、親自身が常に自分の限界に挑戦する生き方をして見せることが重要なのです。

もしあなたが自分の子どもの「やり抜く力」を引き出したいなら、まず、「自分が人生の目標に対してどれくらいの情熱と粘り強さをもって取り組んでいるか」、つぎに、「子どもが自分を手本にしたくなるような育て方をしていると思うか」、考えてみよう。
 もし前者の質問に対する答えが「大きな情熱と粘り強さをもっている」、後者に対する答えが「とてもそう思う」であれば、あなたはすでに「やり抜く力」を伸ばす育て方をしている証拠だ。
」(p.289)

子どもに手本としたいと思われるには、まずは子どもを信頼することです。好きになること、愛することです。批判せずに励ますこと。愛情深く見守ること。そうすることで、子どもから信頼され、好きになってもらえ、こうなりたいと思ってもらえるからです。


自分の「やり抜く力」を強化したいなら、「やり抜く力」の強い文化を見つけ、その一員となること。あなたがリーダーの立場にあり、組織のメンバーの「やり抜く力」を強化したいなら、「やり抜く力」の強い文化をつくりだすことだ。」(p.331)

人は、周りに染まりやすいものです。だから、そうありたいと思う環境に身を置くことが、とても大事になります。周りがだらけている状況で、1人だけ勤勉に過ごすことは困難なのです。

そして、逆説的ではありますが、周りに影響を与えたければ、自分から始めることです。特に自分がその組織の中でリーダー的な存在であれば、それが効果的と言えます。他人に対して「やれ!」と言うよりも、自分自身がやってみせる。そうやって、自分が文化を作り出すのです。


グリット(やり抜く力)が達成する(成功する)ためにもっとも重要な要素であることを、本書では指摘しています。そのグリットを強化するには、情熱を持つこと、なければ探すこと、そして努力を継続すること、そのためにそういう環境を選ぶことが、重要であると言います。

この他に、指導者との出会いによって大きな影響があることも指摘されています。ただこれは、自分の努力でどうにかなるものとも言えないので、ここでは引用しませんでした。でも、自分がそう思い続けていれば、あるいは自分にそういう使命があるなら、必然的にそういう人に出会うような気もします。

本書は、自分自身が成功するための道標にもなりますが、子育てに悩んでいる方にも、ヒントを与えてくれるものではないかと思います。

GRIT やり抜く力
 

posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 13:18 | Comment(0) | 本の紹介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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