2週間の一時帰国の間、妻と一緒に九州旅行をしました。私は九州では鹿児島県だけ行ったことがなかったので、一番の目的を鹿児島にしました。
鹿児島と言えば、桜島と知覧でしょう。人それぞれだと思いますが、私の心に浮かんだのは、この2つでした。
あいにくの雨でしたが、知覧の特攻隊博物館は室内なので、じっくりと展示物を見て回ることができました。
ほとんどが20歳代という若さで散っていった多くの命。遺書や家族への手紙を読むと、それを書いた時の心境に思いを馳せずにはおられません。
特攻隊員の遺書や手紙は、本でも読んでいました。「第二集 きけ わだつみのこえ」です。
しかし、本人の写真を目の前にして読むと、また感慨深いものがあります。どんな思いで飛び立って行ったのかと、思わずその心情に自分を重ねてみようとするのです。
その博物館で、DVDを2本買いました。本も売っていたのですが、やはり映像の方がとっつきやすいのではないかと思ったのです。
1本は、特攻隊の生き残りの山岡秀治を演じる高倉健さんと、その妻、知子を演じる田中裕子さんが主役で、そうそうたる俳優が出演している「ホタル」です。
知覧でカンパチの養殖をする山岡は、昭和から平成になったとき、特攻隊員たちに知覧の母≠ニ呼ばれた富屋食堂の女主人、富子から頼まれます。韓国へ行って、特攻で亡くなった金山少尉(本名キム・ソンジェ)の遺品を親族に渡してほしいと。
知子は、金山少尉の許嫁(いいなずけ)だったのです。当時、韓国は日本でした。ですから、韓国人も日本人として、戦争に参加していたのです。
韓国へ行って金山少尉の遺族と会った山岡夫婦ですが、最初はこっぴどく罵倒されます。今の日韓関係を考えれば、当然のことかもしれません。
しかし、その罵倒に耐えた後に山岡は、金山少尉の遺言を伝えたいと言います。罵倒がやんだ後、山岡は言います。「自分は大日本帝国のために出撃するのではない。恋人や朝鮮民族、朝鮮にいる家族のために出撃するのだ」と。
富屋食堂の富子に、「ホタルになって戻ってくる」と言った特攻隊員がいました。そして、彼が出撃したその日の夜、富屋食堂にホタルが1匹やってきたのです。ホタルになって戻ってくる。それが特攻隊員の、せめてもの願いだったのかもしれません。
何が「正しい」のか「間違い」なのか、人それぞれの判断があると思います。しかし、間違いなくあの時代を生きて、死んでいった人々がいます。その生き様を知って、今の私たちがどう生きるのかを考えてしまう。そんな作品です。
もう1つは、その富屋食堂の富子のモデルになった鳥濱トメさん(演じるのは岸恵子さん)を主人公にした「俺は、君のためにこそ死ににいく」という作品です。
ここでも、装備もボロボロな特攻機、隼(はやぶさ)に乗って、多くの若者が特攻で飛び立っていく様子が描かれています。
勝てる見込みはなくても、有利な条件で講和するために特攻をする。そんな理屈で、無謀な特攻が繰り返されたのです。
たしかに、アメリカにとっては脅威だったでしょう。撃たれて死ぬことを当然として突っ込んでくるのですから。
しかし、戦争が終わると、神として崇められていた特攻隊員も、特攻崩れと呼ばれて蔑まれました。その人々の心変わりに、トメは心を痛めるのです。
どちらの作品も、これが完全な事実というわけではありません。フィクションです。ですから、いろいろと異論がある作品であることを知っておくべきかと思います。
それでも、その中に描かれた特攻隊員や、それを見送る人たちの心情を想像するのに、大いに参考になるのではないかと思います。
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