神渡良平さんの本を読みました。神渡さんの本は、安岡正篤氏の教えなどを解説したりするものや、そういった教えにしたがって生きた人の人生を紹介するものなどもありますが、純粋に小説というタイプもあります。
今回の本は、小説になります。ただし、神渡さんの小説に登場する主人公は、実在の人物です。その人が生きた足跡を、小説という形で目の前にありありと見せてくれる手法です。
今回の主人公は、聖歌「アメイジング・グレイス」の作詞者です。
「アメイジング・グレイス」という曲は非常に有名で、歌詞までは知らないとしても、そのタイトルや曲の調べは、おそらく多くの人がご存知でしょう。
どうしてこんなにも日本人に知られているのか?
私は不思議に思ったのですが、本の冒頭で、この曲がどのようにして日本人に広まったかを説明してありました。
まずは、さだまさしさんが、アルバム「夢回帰線」に「風に立つライオン」を入れたことをあげています。「風に立つライオン」は映画化もされましたが、ケニアの医療活動に携わった柴田紘一郎医師をモデルに作った曲で、その間奏とエンディングに「アメイジング・グレイス」の旋律が使われているのです。
他には、2003年10月から放送されたドラマ「白い巨塔」の主題歌として使われたり、白血病で亡くなった本田美奈子さんのアルバム「アヴェ・マリア」にも収録されました。本田さんが歌う「アメイジング・グレイス」は、日本骨髄バンクのCMとしても流され、多くの人の心に残る歌となったのです。
この「アメイジング・グレイス」は、アメリカの「第2の国歌」とも呼ばれるほど、アメリカ中で親しまれています。
最初は黒人の間でよく歌われたため、黒人霊歌と思われたそうですが、神渡さんはスコットランドのメロディーだと言います。最初はいろいろな節で歌われたそうですが、1829年ごろに、現在の作者不詳のメロディーに定着したようです。
そんな有名な歌なのですが、作詞者のことはあまり知られていません。特に日本では。神渡さんは、作詞者のジョン・ニュートン・ジュニアの人生に光を当てることで、この歌に込められた思いと、この歌の持つパワーを明らかにしたのです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を・・・と言いたいところですが、この本も小説ですので、無粋なことはやめておきます。せっかくですから、ぜひ読んで物語を味わってみてください。
ただ、何の予備知識もなしに勧めるのもなんなので、作詞者のジョン・ニュートンのことを、少し書いておきます。
彼は若いころ、荒れた生活をしていました。徴用されて海軍に入ったものの、逃げ出して商船に移ります。そこで、奴隷貿易に関わることになります。
黒人奴隷は人として扱われることなく、ひどい仕打ちを受けます。それでも、経済のために奴隷貿易はやめられない。そういう主張に抗することができず、ジョンは奴隷貿易を続けたのです。
しかし、イギリスに戻る途中で嵐に遭い、もう少しで海の藻屑となるという体験をします。その体験によってジョンは、これまでの生き方を悔い改め、聖職者の道に進むことになるのです。
奴隷貿易という人にあるまじきことまでした自分が、実は神に愛されていた。この思いが、「アメイジング・グレイス」の歌詞となります。
晩年のジョンは、奴隷貿易廃止法案の成立のために意欲的に尽くします。それが、自分に与えられた使命だと感じたからです。
この本にはCDがついています。歌手のAikaさんが歌う「アヴェ・マリア」と「アメイジング・グレイス」です。
「アヴェ・マリア」は、ジョンが遭難の危機に瀕したときに聞こえてきた歌です。この小説の重要なシーンにおいて、これらの歌が関係してきます。神渡さんは、そういうシーンを書く時、この歌を書斎に流したのだそうです。
ジョンの人生は、決して順風満帆だったわけではありません。また、晩年においても、必ずしも幸せな老後とも言えません。
けれども、ジョンは間違いなく、神の愛を受けていたのだと思います。そして私たちにも、「だから安心して励みなさい」と言っているような気がします。
神渡さんはこの本に、サインをしてくださいました。
「光の中へ」と書かれています。神は、すべての人を愛しておられるし、過酷だと思える人生の中にも、間違いなく神の愛が満ちている。そんなことを、この小説を読み終えて感じました。
神は、私たちを見捨てることはない。たとえどんなに悲惨な状況が目の前にあろうとも。なぜだかわからないのですが、そんな確信に満ちた思いが湧いてくるのです。
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