ひすいこたろうさんの本は、前回の「ゆるんだ人からうまくいく。」以来です。
この本は、偉人伝だということもわかっていたので、内容は想像できました。しかし、どうしても読みたくなっちゃいます。
そしてこの本には、意図されなかったドラマがありました。それが実に素晴らしかったです。それについては、最後に紹介しましょう。
なお、この本は、ひすいさんのアシスタント、柴田エリーさんとの共著になっています。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「心は「喜び」を求めますが、魂は「成長」を求めているんです。
心は「安定」を求めますが、魂は「変化」を求めています。
不幸、逆境、困難、トラブル、ピンチは魂にとっては、ウェルカムなんです。
困難こそ、魂の成長を誘う、天からのギフトだからです。
きっとあなたの人生にも、悩み、落ち込み、どうすればいいのかわからなくなるときがあると思います。でも、実は、それこそが「チャンス」です。
もう前には進めない、右にも左にも後ろにも逃げ道はない。そんなふうに行き詰まったときこそ、ひとつ上の次元にジャンプするしかなくなるからです。」(p.4)
魂は成長を求めているというのは、まさに「神との対話」にある通りですね。永遠の生命である魂にとっては、逆境など大したことなくて、我々が呼ぶ「死」ですら、どうってことない出来事なのです。
ですから、どんなときでも安心していればいいし、ピンチになったら「チャンスが来たー!」と思えば良いのです。
「人は自分のために頑張るとき10の力がでる。
でも誰かを喜ばせようとするとき1000の力が湧き上がるのです。
大切な誰かを喜ばせようとして、一心不乱に打ち込んだとき、
「夢ってかなうじゃん!」」(p.32)
これは、絵本作家として成功されているのぶみさんのエピソードです。絵本とまったく関係ない世界にいたのぶみさんは、図書館の絵本を6000冊読むところからスタートします。
そして、ボツ原稿が180cmに積み上がるまで書き続け、やっと絵本作家になります。しかし、それから書いても書いても売れず、70冊目がやっとベストセラーになったそうです。
そこで、ベストセラーになった1冊目と70冊目の共通点が見つかったのだとか。それが、大切な誰かのために一心になること。
自分の野望とか損得ではなく、誰かを喜ばせたいと思って打ち込むと、自分のためでは得られないエネルギーが湧いてくるのでしょうね。
「「いまこそ行動を起こすときだ」とロンドンに移住し、ダンサーの養成学校に行きます。このとき、オードリーの持っていた全財産はたった10ドル。でも、オードリーには、「やっていける」という自信がありました。だって、生きているのは生かされているということだから。
だから必ずなんとかなる。」(p.71)
「ローマの休日」の主演女優に抜擢された以降は、映画の世界で大活躍したオードリー・ヘップバーンさんのエピソードです。
両親の離婚、オランダ語訛りの英語をバカにされた学生生活、チョコの食べ過ぎによる激太り。それからナチスに追われて逃亡生活。ドイツ兵に追われ、地下室に身を隠して1ヶ月も過ごしたこともあったとか。
しかし、その体験でオードリーは、まだ生きているのに、死んだように生きることのバカバカしさに気づきます。
自分の努力で生きているのではなく、自然の力で生かされていると気づいたとき、逃げ隠れする必要がないとわかったのです。
「あなたが、生まれたのは宇宙がそう望んだからです。
宇宙があなたを望んだのです。
だから、あなたの心臓は、あなたが寝ているときだって1秒も休むことなくあなたを生かしてくれているのです。」(p.72)
「自分のためを思っているとき、生まれるのは「恐れ」
誰かのためを思っているとき、生まれるのは「勇気」
For me ではなく for you −−。
このときに心の中で爆発するものが「愛」です。」(p.111)
これはガンジー氏のエピソードです。何度も何度も逮捕され、拘束されても、それでも諦めずに非暴力・不服従によってインドの独立を勝ち取りました。
仲間が暴力をふるった時は、何日も断食をすることで、非暴力を訴えました。相手を変えるのではなく、自分が変わるのです。
暴力のない世界、差別のない世界への愛が、ガンジー氏に勇気を湧き起こさせたのです。
「ここに僕らが学べる重要なポイントがあります。恐れや、将来への不安、不満、わだかまってること、誰にも言えない秘密、嫉妬、許せない人への怒り、それらを一度、ベートーベンのように、正直な気持ちを洗いざらい紙に書きだしてみればいいのです。
全部書きだしたら、そう思ってるありのままの自分を認め、「うん。ここから始めよう」とつぶやいてみてください。書き出すことで、自分の頭の中を客観視できますから、悩みと自分を分離できて、悩みから一定の距離を置くことができるのです。」(p.128)
これは、ベートーベン氏のエピソードです。音楽家なのに耳が聞こえなくなり、それが知られないように腐心したベートーベン氏です。
そういう苦労に無理解な人々への不満を、弟に遺書として書き始めました。しかし途中から、希望のメッセージへと変わっていったようです。
このことで吹っ切れたベートーベン氏は、代表作を次々と生み出すようになります。苦しみを超えることで、彼は歓喜の世界に昇りつめたのです。
参考までに、リンカーン大統領も、批判・非難する手紙を書いては、出さずに捨てたそうです。また、「怒らない技術2」などで嶋津良智さんは、アンガーログ(怒ったことの記録)をつけることを勧めています。これらも、同じような効果があると思います。
「死と向き合って、孫さんは、大事なのはお金じゃないんだ、そう気づいた。
地位でも名誉でもないんだ。そう気づいた。
おばあちゃんがやっていたような、人に喜んでもらえること。そういう貢献ができたら幸せだ。入院してから、なおさらそう思ったそうです。」(p.168)
ソフトバンクを創設した孫正義さんのエピソードです。孫さんの事業が順調に進みだしたころ、まだ20代なのに慢性肝炎にかかります。肝硬変寸前で、肝臓がんへ進行する危険がありました。「5年はもつかもしれないけど…」と診断され、孫さんはショックを受けます。
そのとき、地位も名誉もお金も要らないと思ったそうです。ただ、「生まれたばかりの娘の笑顔が見たい」と。そしてそこから、家族みんなの笑顔、社員の笑顔、お客さんの笑顔と、見たい笑顔が広がっていったそうです。
誰かを喜ばせること。それが自分の使命だと気づいたとき、人は自分以上のパワーが出せるのですね。
「「我々は自分に問いかける。自分ごときが賢く、美しく、才能にあふれたすばらしい人物であろうはずがないではないか? だが、そうであってはなぜいけない?
あなたが遠慮しても世界の役には立たないのだ」」(p.196)
これは、ネルソン・マンデラ氏の大統領就任演説の言葉です。マンデラ氏のエピソードは、まるでセミのようです。長い苦難の人生の末に、わずかな期間の栄光があったのですから。
マンデラ氏は、アパルトヘイトの南アフリカで、その政策に抵抗し、実に27年間も牢に押し込められます。獄中にあるとき母を亡くし、息子も亡くします。その葬儀にさえ参列することを許されませんでした。
自分の家族よりも民衆の幸せを優先させたことに対して、疑念が頭をもたげます。しかし、マンデラ氏は、それでも民衆のためにと思い続けたのです。
「アパルトヘイト撤廃。それは夢のまた夢のことだった。
でも人生は、できる、できないじゃない。やるか、やらないかです。」(p.195)
「「怖くなんてないですよ。神の所へ行くのがちょっと早くなるだけのこと」
神さまの所へ行くのがちょっと早くなるだけ、なんてすごい理屈でしょう。
愛あるところに、恐れはないのです。どんなに誤解されても、危険な目に遭っても、マザーテレサは、内なる声を信じて、自分の道を貫きました。
そう、「愛」とは覚悟なんです。」(p.205)
これは、マザーテレサさんのエピソードです。ノーベル平和賞を受賞したマザーですが、最初から歓迎されたわけではなかったようです。
病気の人の手当をしているのに、怪しまれて石を投げつけられたりしました。また、カトリック信者に変えようとしていると批判され、ツバを吐きかけられたりしました。
やがて、マザーを追い出そうとするデモが起こります。警察が出動し、警察署長が取り調べにやって来ました。
事情聴取を終えた警察署長は、町の人たちに言ったそうです。マザーを追い出そうと。しかし、さらに続けて言いました。あなたたちのお母さんやお姉さんが、マザーの代わりに同じことをやってくれるならと。こうして、マザーの活動は認められるようになっていったのです。
「あなたは望まれてこの世に生まれてきたんですよ。
あなたはかけがえのない大切な人なんですよ。
マザー・テレサはそう伝えてあげたかったのです。」(p.207)
マザーの活動は、その思いを伝えることでした。愛の活動であっても、受け入れられるとは限りません。しかし、愛し続けるなら、それは必ず道を開くのです。
最後に、宮沢賢治氏のエピソードからです。賢治氏が生前に出版した本はたったの2冊。しかも、引き受け手がなくて、自費出版だったそうです。
賢治氏は、たった1人の理解者であった妹さんを喜ばせるために、童話を書き続けました。しかし、その妹さんも、24歳で亡くなってしまいました。
賢治氏の作品は、生前は世にでることがありませんでした。あの有名な「アメニモマケズ」の詩も、手帳に書かれていたもので、トランクの中から発見されたそうです。
復活劇のなかった賢治氏です。それでも、妹さんのために、農民のためにと、優しくなれる人だったとか。
このエピソードの締めくくりとして、ひすいさんは最高の言葉を用意しました。しかし、校正も終わって印刷された本を手にした時、その言葉がまったく関係のないものにすり替わっていることに気づきました。
あとでそれは、写真のサイズを変えたことで、工場で間違って他の言葉が入ったことがわかります。しかし、最後の言葉が違っていたのでは、賢治氏のエピソードも輝きません。
ひすいさんは、無性に腹が立ったそうです。その怒りをどこにぶつけていいかわからないほどに。しかし、幸いなことに、気づいたのが真夜中だったとか。それで冷静になったひすいさんは、善後策を考えたのです。
この話は、ヒカルランドの3周年記念イベントで、ひすいさんが話してくれました。かわいいシールに正しい言葉を印刷して、それをイベントなどに来てくれた人に配ることで、付加価値をつければよいというアイデアも生まれたそうです。
しかし私は、この出来事もまた必然だったのだと思います。それは、本来入れたかった言葉が、そのことをよく物語っているからです。
「すべての問題は、あなたを優しくするために存在しています。
優しさこそ、この宇宙の最高芸術です。」(p.239)
まさに、優しさを発揮するチャンスになったのです。この間違いによってこそ、この本は、最高芸術に昇華したのだと思います。
もし読者が、「こんな不出来な本を買わせやがって!」と怒ったなら、それは優しさを発揮するチャンスを逃したことになるのですから。
24人の偉人たちのエピソードは、私たちに勇気と希望を与えてくれます。
だから安心して、自分の人生を自分らしく生きましょう。逆境こそが、神さまからの最高の贈り物なのですから。
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