気になっていた「ベーシック・インカム」を詳しく知るために、原田泰(はらだ・ゆたか)氏の本を読んでみました。
「ベーシック・インカム」というのは、国民すべてに最低限必要なお金を直接給付する、という制度です。
私がこれを知ったのは、「神との対話」によってです。ホリエモンさんの本「お金はいつも正しい」で、それが「ベーシック・インカム」と呼ばれる制度だと知りました。
その後、いろいろ調べてみると、これはなかなか良い解決策だとわかってきました。それで、本当に可能なのか、どのくらいの支給が可能なのかを知りたいと思い、この本を読んだのです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「大部分の人は、たまたま所得を得る能力が低くても、子どもや女性に乱暴を働いたり、その所得を分別なく使ってしまったりはしない。まともでない人はごく少数だ。しかし、貧困は、ごく少数のまともでない人々の問題ではない。であるなら、貧困とは、大部分の人々には、所得が少ないという問題なのだから、すべての人々にBIを給付し、現在の福祉制度は、まともでない人々にまともになってもらうように尽力するような制度に改組すべきである。児童相談所は、無責任な、あるいは残虐ですらある親から、子どもを断固として守らなければならない。BIは、福祉官僚の仕事を減らし、彼らがしなければならない本来の仕事をする余裕をもたらすはずである。」(p.B)
BIというのは、ベーシック・インカムの略です。
原田氏は、BIは究極のセーフティー・ネットであり、憲法が保証する最低限度の健康で文化的な生活を保証するための、簡便な制度だと言います。
貧困の問題は、要は所得がないという問題なのだから、お金を与えれば解決するのは自明のことですね。
「高い賃金で人を雇っても引き合わないとなれば、企業は人を雇わなくなるだろう。雇わないばかりでなく、海外に工場を移してしまうかもしれない。」(p.18)
貧困問題を企業が正規雇用をしないせいだとして、最低賃金を上げるとか、非正規雇用を増やさないような規制を導入しようとしていますが、そういうことは効果が無いと原田氏は言います。
私も同感です。そんな苦労して益のないことをやるくらいなら、さっさとお金を配ってしまった方が簡単です。
働かなくても生きていけるなら、安い給料で働くことへの不満も減るでしょう。また、労働者の転職に対する精神的な障壁も低くなるので、労働市場が活性化すると思われます。
「要するに、日本の一人当たりの公的扶助給付額は主要先進国のなかで際立って高いが、公的扶助を実際に与えられている人は少ないことになる。これは極めて奇妙な制度である。
(中略)
私は、日本も、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカのように給付水準を引き下げて、生活保護を受ける人の比率を高くすべきであると考える。」(p.25)
ここを読むまでまったく知りませんでしたが、対GDP比で公的扶助総額を見ると、イギリスやフランスが4.1%、2.0%なのに対し、日本はわずか0.3%でしかありません。また公的扶助を与えられている人の総人口に占める比率は、イギリスやフランスが15.9%、2.3%なのに対し、日本はわずか0.7%です。
では、日本に貧しい人が少ないかというと、必ずしもそうではありません。生活保護水準以下の所得で暮らす人が、人口の13%もいるという調査もあります。
「しかし、その保険は、実際には勘定があっていない。より少ない年金保険料を集めて、より多くの年金を支払う制度になっている。保険料は現在の高齢者に支払ってしまい、将来の高齢者はさらに将来の若者に保険料を支払ってもらう仕組みだ。したがって、日本のように将来の若者が減少していく社会では、将来の若者一人当たりの保険料がとめどもなく上昇していき、その負担が不可能になれば、破綻するしかない仕組みだ。」(p.28)
よく知られている年金制度の問題です。現行の年金制度が破綻することは見え見えですが、これを自分が積み立てたものを受け取る制度に変えたとしても、まだ問題があります。
最近、年金資産の運用で10兆円が消えたというニュースがありましたよね。公務員が国民から預かったお金を、運用によって利益を出そうとすることが間違っています。失敗しても、誰も責任を取らないからです。せいぜい担当者が、良心の呵責に耐え切れずに自殺するくらいなものでしょう。
この問題も、子どもから老人まで、すべての国民がBIを受け取る制度にすれば、消えてなくなります。せいぜい前年度に徴収した税金を、翌年度に支給するだけのことですから、運用する暇もありません。
「だが、政府が個人の名前と住所と年齢を知ることがプライバシーの侵害だというなら、そもそも福祉国家は成り立たない。個人を保護するためであるから、政府がその個人の名前と住所を把握することに意義はないだろう。」(p.33)
マイナンバー制度への批判に対して、原田氏はこう反論します。
私も同感です。BIを導入する時、すべての国民の銀行口座に振り込むことになるのですから、銀行口座も含めて政府が把握しておく必要がありますからね。
国民の側も、お金をもらえるのに情報を教えないなどと、おかしか考え方をするはずがないと、原田氏は別のところで言っています。
また、現行の年金保険料は、負担の上限があることを指摘しています。もしこれをBIに替えれば、税金は所得が多い人ほど多く納めるので、今の年金制度より良いと言います。
「一方、税は基本的には所得の高い人ほど負担する額が大きくなるわけだから、税による負担は、これまでよりも累進的になる。税による安心の制度の利点は、そこから漏れる人がいなくなることだ。税によってこそ本当の国民皆保険制度が実現できる。」(p.34)
年金保険料の未納問題も、税にすれば解決します。また、税務署以外の年金保険庁などの無駄な公務員や、無駄な作業もなくなるわけですから、コストも低く抑えられるというわけです。
「何よりも問題なのは、現在の日本の政策が、現実に貧困を減らしていないことである。
貧困の理由は、仕事のないこと、失業または疾病などにより働けないこと、働いても給与の低いことである。」(p.35)
OECDのレポートで、日本の相対的貧困率が先進14カ国中2番目に不平等だとなっているそうです。
私は最初、その理由がよくわかりませんでした。でも数字は間違いありません。おそらく、貧困層が多いのです。
「相対的貧困率とは、所得が高い人から低い人を並べてちょうど真ん中にある人の所得(中位所得)の半分以下の所得しかない人の比率である。」(p.35)
つまり、中位所得の所得額の半分以下の所得の人が多いのです。これは相対的なものですから、最下位と最上位の差はあまり関係ありません。所得の開きではなく、貧困層の人数が多いことが影響しているのです。
「しかし、最終的な可処分所得で不平等になるのは、児童手当、失業給付、生活保護などの支給額が少ないからである。例えば、前項で述べたように、日本の生活保護制度は、支給額は高いが限られた人にしか配らないという奇妙な制度となっている。また、失業給付制度も、職を失うことの少ない正社員には厚いが、職を失うことの多い非正規社員はその制度に入っていないという、これも奇妙な制度になっている。このような制度の下では、可処分所得で見た相対的貧困率が高くなるのは当然である。」(p.37)
つまり、本来、所得再配分の恩恵を受けるべき人に、それが届いていないということですね。
受け取れるのはごく一部の人で、本当にそれを必要としている多くの人に、その恩恵が届かない制度になっているのです。
本書では、第3章においてBI制度の実現性を検証しています。
「基本的にすべての人の年間所得は、「自分の所得×〇.七+BI八四万」となる。所得のない人も八四万円の基礎所得を保証されるが、自分の得た所得の三割を課税される。自分の所得が二八〇万円になると、その三割の税=八四万円を取られて、基礎所得と税が一致する。」(p.128)
実にシンプルですね。国民全員が年84万円の所得を無条件に受けとります。ただし未成年の子どもは、年36万円で考えているようです。
その代わり、扶養控除、基礎控除などは廃止して、すべてBIで代用することになります。
課税もシンプルにBI以外の所得の30%です。これなら計算も簡単だし、源泉徴収も単純ですから、取りっぱぐれもありません。
この試算した方法であれば、現在の予算からの組み換えで達成できると、原田氏は説明しています。
「BIは、移民を制限することになる。年八四万円のBIは、日本の生活コストが高いことを考えても、貧しい国の人々には魅力的なものとなりうる。移民は、年五〇〇万円以上を間違いなく稼げる人に限定して認めるしかない。福祉国家は、移民を制約する国家であることを、むしろあらかじめ明らかにしておくべきだ。」(p.152)
たしかに、BIだけを目当てに貧困層が流れ込んでくれば、BI制度そのものも成り立たなくなりますからね。
私はBIの支給は、日本国民であることに限っても良いと思っています。あとは、永住権のある人をどうするかですね。
「私は、世間の心配とは異なり、広く薄く配るバラマキ政策が悪いと考える根拠は何もないと思う。」(p.166)
「バラマキ=悪」と考えられていますが、そうではないと言います。目的に適うかどうか、その目的を達成するのに効果的かどうかで、政策を判断すべきだと。
たしかに指摘されてみれば、その通りだと思います。
「会社ではなく、国家が、社会の安心を直接保証すべきであり、貧困そのものも解消すべきである。国家は、すでにそのような力を持っている。現在、国家がなしているさまざまな業務をBIの支給に置き換えれば、国家は貧困を解消することができる。資本主義の矯正をもっとも効率的に行えるのがバラマキであり、究極のバラマキとしてのBIである。」(p.178)
貧富の格差是正に使われている様々な政策予算、および年金などの社会保障をBIに置き換えることは、十分に可能だと試算しています。
シンプルな制度によって、貧困そのものを直接的に解消するBIという制度。私もぜひ、このBI制度が実現してほしいと願っています。
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