映画にもなった話題のビリギャル、読んでみました。著者はビリギャルを指導した塾講師の坪田信貴さん。
なお、アマゾンのリンクは文庫本ですが、私は単行本を買って読みました。また、電子書籍も出ているようです。
物語のように書かれた本です。高校2年生の夏、偏差値30で小学校4年生レベルと判定されたさやかちゃんが、坪田先生の指導によってめきめきと学力をつけ、ついには難関の慶應大学に合格するという、アメリカンドリームならぬジャパニーズ・ドリームを実現させたという実話です。
話題が先行していて、けっこう批判もありました。なので最初は、この本を読もうとは思っていませんでした。
しかし、「みやざき中央新聞」の社説に、「「ビリギャル」から学んだこと」と題して、ビリギャルのママの話が載っていました。
「叱らない教育」に徹してきたとのこと。どんなときでも、子どもを信じ抜くこと、味方であり続けること、それがビリギャルのママの教育方針だったそうです。
そしてそのママの本、「ダメ親と呼ばれても学年ビリの3人の子を信じてどん底家族を再生させた母の話」が紹介されていました。
それで私は、ビリギャルのママの本を読みたいと思ったのです。そのときついでに、それならいっそのことと思い、この本も買ってみました。
まず最初にこちらを読んだのですが、正直に言って、感動しました。
では、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「でも、僕は
人間にとって一番大事なのは
この、ゼッタイ無理を
克服した体験だと思っています。」(巻頭の言葉)
「子どもや部下だって同じこと。
ダメな人間なんていないんです。
ただ、ダメな指導者がいるだけなんです。」(巻頭の言葉)
いきなり、頭をガーンと殴られたようなショックを受けました。言ってることはよくある内容なのですが、なぜかそこに力を感じたのです。
「この本は本物だ。」そう感じました。
坪田さんは、学力的には非常に低いさやかちゃんの中に、素晴らしい才能があることを発見します。そして、それによって「行ける」と感じたそうです。
そして、さやかちゃんのことを褒め、信頼関係ができた後はときにけなすなどしていじりながら、学習に興味を持たせ、指導して行きました。
さやかちゃんのお母さんは、ちょっと変わった教育に対する信念を持っていました。
「「子どもに絶対に腹を立てない。たたかない。子どもなりの理由をよく聞いて、さとして、わかってもらう」
「世界中が敵になって、我が家だけは絶対的に味方だ、と思える家庭を作る。怖い親にはならない」
「いつでも、どんな時でも愛情をかけ続けることで、なんにでも感謝できる子に育てる。感謝できたら幸福感も得られ、運も向いてくる。それが人にとって一番の幸せではないか」」(p.68)
坪田さんは、さやかちゃんのお母さん、「ああちゃん」の教育方針が、慶應大学合格に大きな役割を果たしたと評価します。
「確かに、ほめてばかりでは、子どもがダメにならないか、心配な親御さんは多いでしょう。でも実は、長年の指導経験と、心理学の成果から、僕はああちゃんの哲学には賛同をします。なかなか理解されないとは思うのですが(しかし本書を読み終わった方なら、きっとわかってもらえると思って、僕はこの本を書いています)。」(p.70)
「自分が成功することを”知っている”こと。自分が天才だと”知っている”こと。根拠なんていりません。そう”知っている”だけでいいんです。もし、そう思い込めないなら、
「言葉に出して、みんなに言いふらすといいよ」
と僕はさやかちゃんに助言しました(そして実際、素直にそうしたようです)。」(p.122)
坪田さんは、「神との対話」を読まれていたのでしょうか。それとも、斎藤一人さんの信者だったとか。そう思いたくなるほど、核心をついた言葉ですね。
「結果的に、その後、さやかちゃんが『学研まんが日本の歴史』を全巻読破してしまったことが、前述したとおり、さやかちゃんの日本史の成績を急伸させることになるのです。やっぱり歴史は、暗記ではなく、ドラマやマンガで覚えるのが一番なんです。」(p.202)
これは私も実感しています。大の歴史嫌いでしたから。高校の世界史は40点の欠点ギリギリでした。
そんな私が20歳も過ぎてから、歴史小説にハマったことで、歴史を深く知るようになったのです。
受験勉強に打ち込むさやかちゃんは、相当なストレスを溜めます。そこで坪田さんは、時間があったら山登りをするといい、と勧めます。その理由を、ああちゃんは次のようにさやかちゃんに説明したそうです。
「あのね、山登りでは、ずうっと足元を見て歩かなきゃいけないんだよね。
たまに、頂上を見て、あそこまでたどり着いたら、どんな風景が見えるだろうな〜、って思いながら、また目を足元に戻して、また一歩、また一歩って歩んで行くんだよね。
足元しか見えないと、つらくて、悲しくって、つらくて、つらくて、しょうがないんだけど、そうして登っていくと、いつの間にか、思いがけず高いところまで登っていて、すごい風景が見えたりするんだよね。」(p.206)
指導する方もすごいと思いますが、それを読み取ったああちゃんも素晴らしいと思いました。
さやかちゃんの家族は、お母さんとお父さんが反目しあっていて、けして仲の良い家族関係ではありませんでした。
しかし、さやかちゃんが真剣になって慶応受験に挑戦したことで、家庭内にも一致団結する気持ちが芽生えてきたそうです。
「さまざまな教育的な背景、価値観が違う人間が家庭を作る。そこでいざこざがあるのは「普通のこと」なのです。
誰のせいとか、何が良い悪いとかではなくて、「家族」というのもたぶん、結婚した時を0歳として「成人」していくものなのかもしれません。」(p.271)
問題を抱えているから悪いのではなく、そこが赤ちゃんの状態なのです。そこから大人へと、成長するチャンスが与えられたということなのですね。
さやかちゃんが嫌っていたお父さんですが、仕事ではお客様のために、損得抜きで最大限のサービスを提供しようとする熱い心を持った方でした。
何百キロも離れた人のために、トラックに代車を載せて駆けつけるというエピソードが、たくさんあるのだそうです。
その理由を、お父さんはこう説明したそうです。
「先生ね、友だちが目の前で倒れてたら助けますよね? 10メートル先だったら? 百メートル先だったら? 距離の問題じゃないでしょう。」(p.272)
このお父さんのことに対して、坪田さんはこう言います。
「そして、こんなすごい人でも、「家族」に接する方法は、試行錯誤(つまり失敗を重ねながら適応していくこと)のくり返しだったということ。
それによって、「理想」を生み出して行くんだということを学びました。」(p.273)
「失敗」は、そのままで終わらせない限り「失敗」ではなく、「理想」に近づくための「試行錯誤」なんですね。
そして、さやかちゃんが慶應大学に合格した最大のポイントを、坪田さんはこう言います。
「それは、君が成功した一番の理由は、「中途半端なプライドを捨てて、恥をかくのを恐れなかった」ことにある、ということです。」(p.274)
最初、「聖徳太子」を「せいとく たこ」と読んださやかちゃん。でも、読めないことを恥ずかしがらず、トライした結果だったのです。
ともかくトライする。失敗しても立ち上がって、さらに挑戦する。それが、成功につながるのですね。
さやかちゃんの努力、ああちゃんの教育信念、坪田さんの指導方法、お父さんの熱い思い、すべてに感動しました。
そしてこの本を、教育者だけでなく、子どもを育てている親だけでなく、多くの人に読んでもらいたいなと、心から思いました。
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