3年前、箱根出版合宿で同室になった友人の大平信孝さんの本を読みました。
初めて出版された本ですが、売れに売れて増刷を繰り返しているそうです。大平さん、おめでとうございます。
しかし、ここでこの本を紹介するのは、大平さんが友人だからではありませんよ。内容が素晴らしかったのです。
実は私も詳しくは知らなかったのですが、大平さんのコーチングは、アドラー心理学をベースにしたものだったのです。
アドラー心理学と言えば、このブログでも「嫌われる勇気」と「アドラー心理学入門」の2冊を紹介しています。さらに「嫌われる勇気」については、「「嫌われる勇気」(アドラー心理学)の要点」という本のポイントをまとめた記事まで書きました。
それだけ私が絶賛している考え方と言えます。そのアドラー心理学に基づいたコーチングが、大平さんのコーチングなのです。
そしてそのコーチング技法をによって、1日にたった1分間行うだけで、理想とする自分になることができると言うのです。
では、気になった部分を引用しながら紹介しましょう。
「実は、自分の欲望を正しく知るための、一般的には知られていない方法があります。欲望は考えるものではなく、感じるもの。それがわかったときから、私は自分の欲望にすんなりと向き合うことができるようになりました。
行動イノベーションのプロコーチとしての私は、
「欲望=頭の声、体の声、心の声」
と捉えています。」(p.31)
「欲望」というと、何となく下劣な感じがします。しかし大平さんは、「自分で決めて行動する」には、欲望を知ることが重要だと言います。そしてそれは、頭と体と心が感じるものだと。
たとえば、「あぁ、疲れたなあ。」というのは体の声。「たいくつな仕事だなあ。」というのは心の声。「これをやらないと給料をもらえないから、がんばってやろう。」というのが頭の声というわけです。
頭というのは理性です。けれども、不安に支配されると、「ねばならない」のような頑なな考え方を生み出します。
一方で、体や心の声を聞こうとしない人が多いと、大平さんは指摘します。ですから欲望を考えるとき、注意すべきは体と心の声になります。
「「行動しない理由」は、人それぞれですが、タイプの違いに関係なく、「行動できるようになる」ための方法は1つです。本書ではその提案をしていきます。
キーワードは、ずばり「欲望」です。
(中略)
アドラーは「原因などどうでもいい」と言っています。それよりも大切なのは「今より前進するにはどうすればいいのかだけを考えること」と言っているのです。」(p.42 - 43)
行動できない理由は、それこそいくらでもあげられます。その理由にいちいち対応する必要はないと、大平さんは言います。
ここでもベースになるのはアドラー心理学です。原因論ではなく目的論なのですね。
「人は、「自分が本当にやりたいことならいくらでも頑張れる、続けられる、成長できる」という性質を持っています。
(中略)
脳科学の世界では、私が本書で述べている「欲望」を「ワクワク」と表現することが多いようです。
(中略)
つまり、いくら目標を明確化しても、言葉レベルでの目標であれば行動へはつながらないのです。「わかっちゃいるけどできない」というのがこの状態なのです。
(中略)
人が、劇的に行動し、そして大きな成果を挙げる上で最大の鍵となるもの。
それは、「欲望」からスタートして作られた「ビジョン」だと私は思っています。」(p.52 - 53)
つまり行動しなければならないと思いながらできないのは、「欲望」が動機になっていない、ということなのですね。ワクワクすることをやろうとしていないから、行動できないのです。
ここで大平さんは、子どものころの夢、「電車の運転手になってたくさんのお客さんを運びたい」「結婚して幸せなお嫁さんになりたい」(p.56)などを例にあげて、「ビジョン」を説明します。
「そして、その場面が現実になることに、とてもワクワクしていたはずです。そこには計算や打算はありません。ただひたすら、「体の声」や「心の声」に素直なだけです。
これこそが、私の言う「ビジョン」です。」(p.56)
「あなたも、口にこそ出さずとも「欲望」があるはずです。
それを否定しないでください。
どんなにドロドロ、ギラギラしていてもいいのです。
まずは自分の「欲望」を知り、否定せずに受け入れてください。」(p.59)
「アドラーが挙げた「幸福の三条件」というものがあります。
人が幸福であるためには、3つのことが必要だとアドラーは言っています。
@自分を受け入れていること
A他者を信頼していること
B他者に貢献していること
この3つです。」(p.60)
「「欲望」があるからこそ、出発できるのです。
「欲望」がなければ、スタート地点がないわけですから、出発できません。
いくらドロドロしていても、どんなにギラギラしていてもいいのです。
あなたの「欲望」の半歩先には、必ず「善きビジョン」があるのですから。」(p.62)
つまり、利己的と感じられる欲望でも、まずはそれを認め、受け入れることが出発点になるわけですね。
たとえば「有名になりたい」という欲望でも、「それで何をしたい?」という質問を投げかけていくと、「有名になって人前でしゃべりたい」→「みんなが喜んでくれることをしゃべりたい」というように、必ず「他者貢献のビジョン」に到達するのです。
こうしてアドラーが言う「幸福の三条件」が満たされる「欲望」や「ビジョン」が明確になってくるのです。
「だからこそ、まずは自分自身に余裕を作ることがとても重要なのです。
そのために覚えておいてほしいのが「自分をいじめない。自分と仲良くする」という感覚です。」(p.66)
自分の「欲望」に気づくために、理性が自分をいじめるのをやめさせる必要があるわけですね。
私たちはすぐに、「そんなの無理だよ。」などと言って自分を否定します。
これを大平さんは、もし誰か他の人に同じことを言ったら、いじめと同じじゃないか、と指摘します。
だから、自分で自分をいじめるのをやめよう、と言っているのですね。
そしてアドラーの言う「自分を受け入れる」という表現は、「自分と仲良くする」と言った方がぴったりな気がすると言います。
これらのことを前提として、「1分間行動イノベーション」の説明に入ります。
「これからみなさんに行っていただきたい「1分間行動イノベーション」は、毎日ほんの少しでもいいので、とにかく毎日続けてほしい習慣化プログラムです。」(p.76)
「しかも、この「たった1分間」に大きなレバレッジ(梃子(てこ))を効かせる時間があります。それは、「朝起きてからの10分以内」と「夜眠りに就く前の10分以内」です。この間に「1分間行動イノベーション」を行うことが大切なポイントになります。」(p.78)
「「たった1分間」という時間で行う「1分間行動イノベーション」ですが、実は50秒と10秒の2つのパートに分かれています。
それは、
「50秒セルフトーク」と「10秒アクション」の2つです。
(中略)
セルフトークとは、文字どおり自分との対話とういう意味です。」(p.82)
「「本当はどうしたい?」
これだけを、自分に問いかけるのです。」(p.86 - 87)
「「本当は」という言葉には、「そういう現実を取り払ってみたとき、自分はどうしたいの?」という意味が込められています。
ですから「本当はどうしたい?」というセルフトークを行う際のコツとして、頭の声だけでなく、体の声、心の声から「欲望」を聞いてください。」(p.90)
「初めは、答えなど出なくても全然OKです。
感覚としては、あなたの中に「自分は本当はどうしたいんだろう?」という質問ボードを目立つところに置いておくような感じです。」(p.93)
「ただ唯一、私が素晴らしかった点(!?)は、そこであきらめずに「まず食べるもの」からセルフトークを始めてみようと思い、やってみたことです。」(p.97)
「「50秒セルフトーク」で「本当はどうしたい?」を問いかけ続ける。
すると、他の誰から与えられたものではない、あなた自身が望んだ答えが見つかっていきます。その答えは「行動しなきゃ」という義務感ではなく、「行動したい」と思える答えであり、今すぐに自然と行動したくなる答えです。
……と、ここまでは「50秒セルフトーク」が素晴らしい力を発揮してくれます。
実は、この後がとても大事です。
ほんの小さなことでいい。あなたが「行動」を起こすから、人生が変わるのです。」(p.109)
「この「10秒アクション」の中で行うこと。
これも、基本的にはたった1つです。
それは「自分の望む姿に近づくためのアクションを取る」ということです。」(p.111)
「例えば、「50秒セルフトーク」で、あなたが「将来ハワイに住みたいな」と強くイメージしたとします。そのために思わず取った「10秒アクション」が深呼吸だったとします。
(中略)
ですから、
「行動」=自分の体や気持ちを心地よくしてくれるもの
と、まずは大きく捉えてみてください。」(p.120 - 121)
一気に引用してみましたが、ここに大平さんの「1分間行動イノベーション」のやり方が簡潔にまとめられていると思います。
「「自分と仲良くない」人は、なぜ「1分間行動イノベーション」の効果が出にくいのか?
それは、「自分は本当はどうしたいのか?」を考えにくい答えにくい心の状態になっているからです。」(p.138)
簡単に言えば、セルフイメージが低い、ということですね。自己受容できていないのです。
「毎日「1分間行動イノベーション」を行う前に、この「1分間自己受容エクササイズ」を行うことで、自分を認め、応援する。そうすれば、「1分間行動イノベーション」の効果が出やすくなります。
(中略)
”今の自分”でも「少しでもできていること、ちょっとでもうまくいったことは何?」「他には? あとは?」と1分間聞いて、今の自分を認めてあげましょう。」(p.151 - 152)
「「今うまくいっていないということは、自分はどんな意図を持っているのだろう?」「うまくいかないことで得ているメリット、その目的は何だろう?」と1分間考えてみましょう。」(p.154)
「・解説/今なにかうまくいっていないことがあるとすれば、それは過去に原因があるのではありません。うまくいっていないという結果には、必ず目的があります。「それは一体何だろう?」とアドラーの目的論的解釈で自覚できると、先に進めます。」(p.155)
この「1分間自己受容エクササイズ」を併用することでセルフイメージを高めることができると言います。そしてここにも、アドラー心理学が生かされているのですね。
「「セルフイメージの質が、欲望やビジョンの質を決める」と言われています。
つまり、いいセルフイメージを持つと、いい「欲望」やいい「ビジョン」を持つことができ、さらに「自分にはできる」という感情に満たされますから、行動がどんどん加速していきます。」(p.161)
「ステップ3:「半年後」「1年後」「3年後」のいずれかでかまいません。未来のセルフイメージに書いたものの中からしっくりくるものをひとつ選んで、今この瞬間から、そのセルフイメージに沿った行動をしながら生活してください。」(p.167)
セルフイメージの重要性は、先日紹介した久保ひろしさんの「やるからできる」でも語られていました。理想の自分に変わるには、根底に良いセルフイメージがなければならない、ということなのですね。
この本は、大平さんのコーチング手法を、セルフコーチングできるように解説したものと言えます。
もちろんこの本を読んで、自分でやってみることもお勧めです。また同じくらい、大平さんのコーチングを受けるという選択肢もあると思います。
大平さんと箱根で初めて出会ったとき、私に気さくに声をかけてくださいました。
私のような内気な人間が知らない人と合宿するなんて、それこそ清水の舞台から飛び降りるくらいに勇気がいることだったのです。
それが会ってちょっと話をさせていただいただけで、心から安心できたことを覚えています。
ですからこの本も、また大平さんのコーチングも、本心からみなさんにお勧めしたいと感じています。(大平さんのブログ)
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