カウンセラーの古宮昇(こみや・のぼる)さんの本を読みました。
話を聞いてあげることは、話し手のストレス解消に役立ちます。ですから、話を聞いてあげるだけのボランティアも、けっこういらっしゃるようです。
この本は、そういうボランティアの人にも役立つように、本格的な心理カウンセリングとしての傾聴の方法と、その意味を教えてくれるものです。
なぜ傾聴するのか、どのように傾聴するのか、それが実例とともにわかりやすく書かれています。
気になった部分を引用してみましょう。
「彼女にとって、自分のことをいっさい評価することなく、また変えようとすることもなく、無条件に尊重して気持ちを分かってくれる人がいることは、貴重なこころの支えになるはずです。」(p.38)
共感的に傾聴できた実例に対して、このように古宮さんは言っています。傾聴はまさに愛なのだと感じました。
「このように、聴き手が話し手の表現に沿う共感的な発言をするほど、話し手は本心を語りやすくなります。聴き手も話し手の気持ちが、より理解しやすくなります。」(p.46)
「要は、話し手の苦しみを感じながらも、理解したことを聴き手ができるだけ的確に簡潔に言葉にして返すことができれば、共感的理解がより伝わりやすく、より支えになれる、ということです。」(p.85 - 86)
重要なのは、話し手の表現に沿った共感的な発言をすることなのですね。共感しているように見えても、表現が大雑把過ぎたり、的を射ていないと、話し手は理解されていないと感じてしまうのだそうです。
「話し手を責めても問題は解決しません。誰だって責められるのは嫌です。他人を責めるほど、解決から遠ざかってしまいます。同様に、自分を責める自己嫌悪と罪悪感も、解決を遠ざけます。」(p.56)
私たちがつい他人を責めてしまうのは、その問題を効率よく解決しようとする動機もあります。しかし、それでは問題は解決しないと言うのです。
つまり批判や非難、自己嫌悪や罪悪感は、私たちのためにならないということ。「神との対話」でも、同様のことを言っていますね。
「最も大切なことは、話し手の気持ちをできるだけその人の身になって理解することです。傾聴の専門家になるには、話し手が表現していることを、短く分かりやすく言葉にして返す技術を繰り返し練習して向上させることが必要ですが、理解することの大切さに比べると、「何を言うか」は決して本質的に重要なことではありません。」(p.115)
相手を100%受け入れることが重要なのでしょう。
そのためには、聴き手に心の余裕が必要です。つい反応してしまうようではダメなのです。
そこで、傾聴の技術をより効果的に高めるために、次の3つが重要だと言います。
@傾聴技術の指導を受けること
A個人スーパービジョンを受けること
B自分がカウンセリングを受けること
@とAは、ともに技術を磨くことになります。Aは、傾聴の個人指導を受けるということです。
Bは、それとは少し違います。聴き手が心に余裕を持つために、自分の心の問題を解決しておくことが重要だということです。
このことはすなわち、まず自分自身を愛することで他人を愛せるようになると、「神との対話」などで言われていることと同じではないでしょうか。
古宮さんは、最も大切なこととして、次のように言います。
「意識からすべてが始まります。意識の大切さは強調してし過ぎることはありません。必要なことは、人の役に立つ有能な援助者になる、と強くはっきりと決意することです。」(p.134)
まず「在り方」を決める。そう宣言し、そのように行動する。そうすればそうなる。これも、「神との対話」で言われている通りですね。
古宮さんご自身も「神との対話」を読まれていて、その素晴らしさを認めておられます。ですから、ご自身の本の中にも、そういう考え方が生かされてくるのかもしれません。
心理カウンセラーを目指していないとしても、子どもの指導に困っている親御さん、生徒指導に困っている先生、部下の育成に悩んでいる上司など、多くの人に役立つ本だと思います。
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