喜多川泰さんの最新作を読みました。
喜多川さんの小説は、これまでに「またかな」こと「「また、必ず会おう」と誰もが言った。」をはじめとして、「「手紙屋」」、「賢者の書」、「上京物語」、「手紙屋 蛍雪篇」、「ライフトラベラー 人生の旅人」、「君と会えたから」、「スタートライン」などを紹介しています。
最初に「またかな」を読んで、すっかり喜多川さんのファンになってしまいました。
代表作の「手紙屋」で見られるような、人と人とが不思議な縁でつながっている世界が描かれているところが魅力です。
今回の「One World」は、まさにその人と人とが不思議な縁でつながっていく物語です。
それぞれが短編小説のようで、それぞれの主人公の物語として描かれています。しかし、その主人公が、別の短編小説では脇役として登場するのです。こうして、全体では長編小説となっています。
まあ、あまり説明するとネタバレになってしまうので、気になったポイントだけ引用しますね。
「挑戦すると失敗することもある。でもそれでも挑戦するのは勇気がいることだ。特に最後の守備。抜けていたら負けていたものをよく止めたな。プロ顔負け。思わず『おおっ』て声が出たもんな。チームを救おうと果敢にノーステップでダブルプレーにも挑戦したろ。あの気持ちを忘れるなよ。」(p.15)
「誰かが好きなことを一生懸命がんばる姿っていうのは、そいつが夢を実現したかどうか以上に、周りの人の心に影響を与えるんだ。」(p.26)
「自分にできることで、誰かを幸せにする行為が、働くということさ。その報酬として返ってくるものの一部がお金である。ただそれだけのこと。だから、自分にできることを増やしたり深めたりすることで、誰かを幸せにする深みが変わってくる。」(p.65)
「でも、考えてみれば、僕たちは自分がつくったわけではない世の中に生まれてきて、ほんの数十年生きて、この世を去っていく。だから、自分がこの世に来たときよりも美しい世界にして去りたいと思ったんだって。」(p.100)
「……でも、これからも予定どおりに行かないことってたくさんあると思うんだ。俺は、それを楽しむのが人生だと思っている。」(p.154)
「いや、そうじゃない。好きになろうと思ったから、掃除をしたんだ。自分が心から大切にしているものは、大好きになるんだってことをある人に教えてもらってね。」(p.178)
「考えられない偶然の出会いは、今この瞬間だって起きている。そのときに相手にあげられる何かを持っている人でありたいとはいつも思っているんだ。だからほら、こうやっていつもいろんな本を読んでる」(p.179)
「ああ、行動は心そのものだ。口で偉そうなことは誰でも言えるが、それをどこまで本気で言ってるのかは、そいつの行動を見ればわかる。(中略)
たしかにな、でも行動はずっとウソをつき続けることはできないだろ。無理矢理やらされていることなら、すぐ手を抜くし、いろんな言い訳をしてやめようとする」(p.209)
もうどれもこれも、しびれるような登場人物のセリフです。こういうことが言えたらかっこいいなーって思います。
喜多川さんの小説を読むと、「私もこんなふうに生きたい」って思うんですよね。
喜多川さんは、最後に「「One World」に込めた思い」の中で、この小説に描こうとした世界を次のように語っています。
「すべての人が、ある人の人生では、主人公の人生を支えるような何かを教えたり、気づかせたりする脇役を演じると同時に、自分の人生の主人公でもあります。そしてそれを支える脇役がいて……物語を一つ挟むと、それぞれの主人公同士は面識もなければ出会うこともありません。それでも、間にいる一人の人間によってつながっている。世の中というのは、出会っていない人も含めてすべての人がつながっているのです。
そして、主人公としての自分の人生で、また、脇役としての他人の人生で、どんな役を演じ、どんな物語を作っていくのかは、自分で決めることができる。いわば、監督も脚本もすべて自分が行っているのです。
どうせ、自分で決めることができるなら、やはり自分が心から演じたいと思えるような役を演じたいものです。」(p.272 - 273)
人と人は離れ離れではなく、すべてつながっています。つながっていながら、それぞれの人生では主役を演じます。
自分の人生を主役として、どう演じますか?また、他者の人生には、どういう脇役として登場しますか?
自分の生き方を振り返ってみたくなる小説です。ぜひ、読んでみてください。
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