少食や冷えを防ぐことが健康に良いと思っていたので、ついこういう本も買ってみました。今津嘉宏院長の本です。
上体温というのは、今津院長の造語のようです。要は高めの体温を維持すること。そうすることで、89.8%の病気を防ぐことができる、というわけです。
そうなると気になるのは、「本当にほとんどの病気が防げるの?」「上体温って、何度くらいの体温なの?」「上体温になるには、何をすればいいの?」ということになるかと思います。
私もそこに注目して本を読んでみたのですが、結論から言うとちょっと残念なものになっています。
ただし、だから上体温で病気を防げるのはウソだ、と結論できるわけではありません。むしろ、それは正しいかもしれないけど、ちょっとツメが甘いなという感じです。
とりあえず気になった部分を引用して紹介しましょう。
「わたしは今年で52歳になりますが、白髪もほとんどありませんし、肌にしわやシミの類いもありません。何より健康で、病気はおろか風邪ひとつひきません。世間一般の「年相応」よりはずっと若くみえるため、患者さんからは「何か特別なことをしているのではないか?」と思われるようです。
しかし、わたしはサプリメントや健康食品は利用していませんし、スポーツもしません。「からだを温める」という心がけだけで、肉体と精神の若さを保っていると言えます。
本書のタイトル通り、病気の約89.8%は体温を上げるだけで防ぐことが可能です。正確には89.796%というこの数字は、日本人の主要な死因(がん、高血圧疾患、糖尿病、感染症、肺炎、脳血管疾患、腎不全、不慮の事故、老衰、自殺など)から「老衰」や「感染症」「自殺」といった避けられないものを除き、独自の計算式で算出した根拠のある数字です。
つまり、ほとんどの病気は、体温が高ければ罹患を防げるもの、発症しないもの、というわけです。」(p.3-4)
この「はじめに」で書かれたこの一文が、結論であると同時に、私の疑問の2つの答でもあります。ここ以外には、それほど重要な答はありませんでした。
と言うことは、上体温で健康だとする根拠は、自分自身がそうだから、ということだけですよね。
まあもちろん、実際はそれだけでなく、これまで見てきた患者さんの様子などから、上体温が効果があると思われたのでしょう。
しかし、その統計も示されてないため、説得力が弱いと言えます。
また、89.8%の根拠も、単に防げるはずの病気で死亡する人の割合をあげているだけで、効果があったことを示すものではありません。
本を売るためのセンセーショナルなタイトルなのでしょうけど、私としてはあまり好感は持てません。
「朝の回診の時、寝相が悪く、布団をかけずに寝ている人や、衣服がはだけてお腹が出てしまっている人を見かけます。寝ている間に体を冷やしてしまった人は、朝、体調が悪く、顔色も冴えません。いつも手足が冷たい人や、お腹をこわしやすく、冷えるとすぐに下痢をしてしまう人は、風邪もひきやすく、とかく体調を崩しがちです。
このような患者さんたちをたくさん見ているうちに、わたしは、体を冷やすことが体調を崩す原因となり、それがやがて病気へと発展するのだと考えたのです。」(p.26 - 27)
体温が病気と関係するのではないか?と気づくきっかけはこれでいいでしょう。けれども、その検証が必要です。
考えてみれば、寝相が悪いくらいで病気がちだと言えるでしょうか?また、傾向としてそういうものがあるとしても、上体温なら病気にならないと言い切れるでしょうか?
こういうところが、ちょっとツメが甘いなと感じるのです。
「つまり、筋肉をつけたほうが「からだを温める」ことが簡単にできるようになります。とはいえ、わたしは、みなさんに相撲取りのようなからだをおすすめしているわけではありません。今より元気で健康な状態になるためには、どうすればいいか、そのヒントをお教えしたいのです。」(p.37)
一般的によく言われるように、筋肉は身体最大の発熱装置です。したがって、筋肉を増やすことが体温を上げるのに役立つことは、よく知られています。
でも、今津院長はスポーツすらやらないのです。どうして筋肉が重要だと言えるのでしょう?また、筋肉が重要で、その理想が相撲取り(皮下脂肪が厚くて熱が逃げない)だと言うなら、相撲取りは風邪ひとつひかないのでしょうか?
ここから見えてくるのは、上体温が重要だとしても、筋肉はそれほど重要ではない、ということになります。なんだか矛盾してますよね。
「このように、「冷え」の原因は、いろいろとあります。肉体的なストレスから冷える場合もあれば、精神的ストレスから冷える場合もあります。生まれつき冷えやすい体質の人もいますし、年を取るにつれ、だんだんと冷えやすくなる人もいます。「冷え」の原因はひとつではないのです。このため、からだを冷やさないようにするには、原因に応じた対応が必要になります。」(p.41)
ということで、原因別対処法が続くのかと思ったのですが、そういったことは書かれていませんでした。そもそも、年を取るにつれて冷える人は、原因が年齢なら、年齢を下げるのでしょうか?おかしな話になりますよね。
年を取るにつれて冷える人の本当の原因はここにあるから、だから効果的な対処法はこうなんです、と示さなければならないはずです。でも、そういう記述はありません。
「血液は、からだの中から手足末端へと運ばれていきます。温かい血が全身を巡れば、手足も温かくなるというわけです。
元気で健康なからだを作り上げていくためには、特に、からだの芯を温めることが重要です。」(p.97)
これはたしかにその通りだと思います。逆に冷やそうとすれば、血液を冷やすことです。太い動脈や静脈に対して、直接温めたり冷やしたりすれば、その効果は非常に高くなります。
よく寒い冬にマフラー1つで温かくなるというのは、首の血管を冷やさないからです。それだけ、違いがあるということですね。
このあと、食べ物で体を温める方法として、食材ではネギ、ニンニク、そして何よりショウガが効果が高いとしています。
また食べ方も、温かいものを食べるのが重要だとか。まあこれも、よく言われていることです。
あとは色が濃いものを食べると、体を温める効果があるとか。ただし夏野菜や、温かい地域の野菜は、たとえばトマトなどは体を冷やすそうです。
これも漢方でよく言われることですね。旬のものを食べなさい、ということです。
「「からだを温める」ことを目的とした場合、胃腸を冷やさないように注意して、まず最初に口にする料理に温かい料理を選ぶことです。」(p.141)
食べ方もまた重要と言うわけです。最初に温かいものを入れれば臓器の温度が下がらず、働きも良くなるからだそうです。
「ところで、「体温を上げる」というと、体温計で常に測って体温を把握していなくてはいけない、というイメージがあるかもしれませんが、計測は必要ありません。なぜなら、温かいお茶を飲めば体温は0.1℃くらいはすぐに上がりますし、反対に冷たいアイスクリームを食べれば0.1℃はすぐ下がるからです。数字に一喜一憂して振り回されることなく、長い目で見て温かいからだを保つことが必要です。」(p.142)
これはたしかにそうなのでしょうけど、こういうところも説得力を欠く原因となっています。どうして、体温は何度以上を保つようにしましょう、と言わないのでしょうね。
それはおそらく、体温との相関関係を統計的には把握していないからだと思います。
もちろん、だからと言って相関関係がないとは言い切れません。特に癌などでは、高い体温を保つことが重要だとして、37℃以上を保つ方が良いとさえ言われますからね。
あとはよく噛むことが重要だとか、呼吸をゆっくりにするとか、漢方薬の説明などが続きます。ただ、それがどうして上体温に効果があるのかは、よくわかりませんでした。
衣食住が重要だとする内容もありましたが、はっきり言って、何が良いと言っているのかよくわからないものになっています。
これを読んで感じたのは、「上体温が健康に良い」ということはあるかもしれない、ということです。そして、「上体温にするには、ショウガをよく食べるようにするだけでなく、温かい食事や飲み物を好むようにし、また無用に手足を冷やさないように注意する」ということです。
私自身は、この本を買ってでも読んだ方が良いとまでは勧めません。ただし、漢方薬のことなど、それぞれに役立つ内容もあるかもしれませんので、興味のある方は読んでみてください。

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