東井義雄先生の本を読みました。
ペスタロッチ賞などを受賞された教育者で、東洋のペスタロッチと呼ばれることもありますが、まったく偉ぶったところのない謙虚な方だということが、東井先生の講演録などを読むとよくわかります。
この本も講演録で、高校生くらいの生徒を前に話されたものです。
東井先生の話は、とても具体的です。
どこそこの子どもがこんなことを日記に書いたとか、以前勤めていた学校でこんなことがあったなど、具体的なエピソードが入っているため、とてもわかり易いです。
また、そういう子が実際にいたのだと想像してみることによって、「よし、自分も負けてはいられないぞ!」という気持になるのです。
この本も読みながら、何度泣いたかわかりません。
悲しいとか、かわいそうというような、同情の涙ではありません。感動するのです。感動して、自分の不甲斐なさに活を入れたくなるのです。
肌にアザがある娘さんから、「なんで私を産んだんだ!?」と責められた親御さんがいたそうです。
それで東井先生は、脳性麻痺で手足が思うように動かない木村ひろ子さんという女性の本を示して、話をしてきかせたそうです。
木村さんは、わずかに動く左足を使って絵を描き、文字を書いています。さらに左足だけで米をといで、ご飯をたくのだとか。
それだけでもすごいのですが、もっとすごいのです。
「自分のために生きとるというのなら、毛虫だって自分のために一生懸命生きとるやないか。せっかく人間に生まれさせていただきながら、毛虫といっしょでは申し訳ないじゃないかというので、この左足でお画きになった絵の収入の中から、毎月、体の不自由な皆さんのために出していらっしゃるんです。そして、
「わたしのような女は、脳性マヒにかからなかったら、生きるということのただごとでない尊さを知らずにすごしたであろうに、脳性マヒにかかったおかげさまで、生きるということが、どんなにすばらしいことかを、知らしていただきました」
脳性マヒにかかったおかげさまで。」(p.49)
これを読んだとき、涙が溢れて止まらなかったのです。
「うぉーっ、こんなことを言う人がこの世にいたんだ!これに比べたら自分の状況なんて、まったく大したことじゃない。自分ならもっとやれるはずだ。弱音を吐くな!この女性でさえできることが、どうして自分にはできないと決めつけるんだ!」
もうこの部分を読まさせていただいただけで、十分に価値があると思えてきました。
「結局、道にいい道、悪い道というのがあるのではない。その道を、どんなふうに生きるかという、その生きざまによって、良く見える道も悪くなったり、悪く見える道も良くなったりするんですね。結局「僕の十年後を見とれ!」ということにならんと、人間はものにならんということです。」(p.56)
貧乏だったり、障害があったり、健康を害したり、人それぞれ大変な状況があるでしょう。
けれども、それが単純に良い悪いを決めているのではないのです。
良い悪いを決めているのは、その自分に与えられた道の中で、自分がどう生きるかという考え方なのです。
「困ることだってやってくるんですが、その困ることがやって来た時、それをどんなふうに受け止めるか。本当はね、待ち望んでいたことがやって来た時よりも、困ることがやってきた時に、本当に人間は人間になれるんじゃないでしょうか。」(p.58)
このように、困難なことがあったときの、考え方こそ重要だと言われます。
また、「若きいのちの日記」という本をとりあげて、残りの人生を大切に生きるとはどういうことか、というテーマで話をされています。
この本は、「往復書簡集の河野実/大島みち子の「愛と死をみつめて」の大島みち子の日記を書籍にしたもの」(Wikipedia)だそうです。
この内容はラジオドラマやテレビドラマ、映画にもなって、本はベストセラーとなったそうですね。
青山和子さんが歌う「愛と死をみつめて」は、1964年に日本レコード大賞を受賞しました。
「マコ 甘えてばかりで ごめんね ミコはとっても幸せなの
はかない命と知った日に 意地悪言って 泣いた時
涙を拭いてくれた マコ」
私はまだ幼い子どもでしたが、今でも覚えているほどですから、きっと何度もこの歌を聞いたのでしょう。
東井先生の師範学校の同級生が、この大島さんを中学校のときに教えたという関係で、話を聞かせてもらったのだそうです。
それによると、大島みち子(ミコ)さんは「顔の軟骨が腐る」という、めずらしい病気にかかったのだそうです。
大学まで進学したものの、病気が再発しました。そのとき手紙を取り交わしていたのが河野誠(マコ)さん。その往復書簡や、大島さんが書いた詩などが本になったのです。
「病院の外に健康な日を三日ください。一週間とは欲ばりません。ただの三日でよろしいから病院の外に健康な日がいただきたい」(p.86)
そう言って、その与えられた3日で何をするかを、続けて書いているそうです。
1日目は、故郷に帰って、お爺ちゃんの肩をたたいてあげたい。母親と一緒に台所で料理を作りたい。父親には熱燗をつけ、サラダを作って、妹たちと楽しい食卓を囲みたい。
2日目は、彼の元へ行きたい。と言っても、遊びたいわけではなく、部屋の掃除をしてあげて、ワイシャツにアイロンをかけてあげて、おいしい料理を作ってあげたい。お別れの時に、優しくキスしてくれればそれでいい。
3日目は、ひとりぼっちで思い出と遊びたい。静かに1日を過し、3日間の健康をもらえたことを感謝して、笑って死んでいきたいのだと。
まだ20歳くらいの若い女性が、こういうことを言っているのだと紹介します。
それに比べたら、なんと恵まれていることでしょう。大島さんが欲しがっていた健康な3日間どころか、それ以上のものを手にしていることがわかります。
だから、どんな状況であっても、その時に出来る最高に自分らしい生き方をすべきなのです。
今あるものに感謝しようとすれば、いくらでも探しだすことができます。
「だから、私ももっとしっかり生きなきゃ。こんなことでへこたれてちゃいけないぞ。」
そう自分を励ましたくなります。
東井先生の本を読むと、自然とそういう気持になるのです。
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