もう常連になった喜多川泰さんの小説です。
150ページもない短い小説ですが、教えられることがたくさんありました。
主人公の青年が、友人と一緒に旅に出る場面から話が始まります。
そして2人で話し合いながら、旅の準備を始めます。何を持って行くべきなのか?それが、この本のテーマになっています。
そして後半は、場面が一転します。ネタバレになるから書きませんけど、喜多川さんが得意な場面展開ですね。
示唆を受けたことを一部、引用しながら紹介します。
「旅先で不自由がないように完璧な準備をしていくと、
たしかに快適かもしれない。
でも、自分のいる場所では経験できないようなことを経験する機会もなくす。
だからぼくは、どうしても必要なものだけ持っていくことにしてるんだ」(p.20 - 21)
旅は、私たちに多くの気づきを与えてくれる素晴らしい体験です。
ですから私も、なるべく違うところに、できれば一人旅をと勧めています。
しかし喜多川さんは、さらに一歩進めて、あえて困難な状況を作り出そうと言うのです。
これには参りましたね。私は消極的に受け入れることを言っていましたが、喜多川さんは積極的に困難に飛び込めと言うのですから。
昔から「かわいい子には旅をさせよ」とか、「若いうちの苦労は買ってでもせよ」などと言います。
そういうことを知っているのに、喜多川さんから指摘されるまで気づかず、ついつい消極的になっていましたよ。
「人と人が出会っているときというのは、
じつは目に見えない<想い>と<想い>が出会っているときなのさ。
そして、同じ<想い>をいだく者同士が出会った時には、
必ず、見えないところで奇跡が始まっているんだよ」(p.41)
旅の目的は出会いにある。
このことを喜多川さんは、明確に示しています。
自分の「想い」を隠さずに表現すると、必ずそれに共鳴する人が現れます。
そうすることで奇跡が起こると言うのです。
「ほんとうは<経験>だけが<真の財産>だって知っているからね」(p.49)
おカネもモノも、場合によっては人脈なんていうものも、本物の財産ではありません。
自分が体験したことが財産だと言います。
これも、知っているようで、改めて気付かされました。
考えてみれば、たしかにそうなのです。
モノというのは、いつ消えてなくなるかわからないはかないものです。どんなに貯めこんでも、不安はなくなりません。
人もまた、いつ裏切られるかしれないものです。もし人を財産だと思えば、執着してしまうでしょう。
しかし、自分が体験したことは、誰からも奪われないし、消えてなくなることもありません。
その体験を重ねることで、私たちは進化成長します。
進化成長した自分は、そこから退化することはないのです。
「でも、みんな、何度もそれを繰り返して、そのまま大人になって、<やりたいこと>が<やらなきゃいけないこと>になるのを放置しているんだよ。でも自由に生きている大人も世の中にはいるんだ。その人たちは朝から晩まで<やりたいこと>だけをやって生きている。」(p.65)
最初はやりたくて始めたことも、すぐに「やらなきゃいけないこと」に変わります。
自由から不自由へと変化するのです。
それは、やることを義務にしてしまったから。
その原因を、取捨選択するようになったからだと言います。損か得かで、やるかやらないかを選ぶからだと。
だから逆に、目の前のことを何でも選ばずにとことんやろうと決めれば、ものごとに対して積極的に取り組めると言います。
そうなると、すべてがやりたいことになるし、その中からさらにやりたいことが見つかると言うのです。
自分がやりたいことを探していても、それは見つかりません。
目の前のことをとことんやってみる。そうすることで、やりたいことが見つかるのです。
旅について、また別の見方を示してくれる1冊です。
そしてそれは旅だけの話ではなく、・・・。
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