東洋のペスタロッチーと言われた東井義雄先生の本です。
これは、東井先生が広島県因島市立三庄中学校で行った講演をもとに編集したものだそうです。
この中で東井先生は、人と人がしっかりと出会うことの大切さを説いています。
「人間に屑はない」が持論の東井先生ですが、どんなにひどいと言われる人でも、それが特に子どもなら、しっかりと出会うことで変わるのだと言うのです。
たとえばやんちゃ者の雅樹ちゃんという少年は、女子便所のぞきをしたり、家の金を持ちだすなど、親や先生の言うことをまったく聞かない子どもだったそうです。
ところが、これは「何か燃え上がりたくてウズウズしている子どもの姿なんだ」(p.32)と見る井上先生と出会うことで変わったそうです。
初めて自分を肯定的に見てくれる大人と出会ったことで、雅樹ちゃんも、それなら少し言うことを聞いてみようかという気になったのだとか。
それまで掃除をしたこともなかったのに、掃除をするようになったそうです。
それで先生が、「雅樹ちゃん、見どころありますよ。」(p.34)と手紙に書いて、持ち帰らせたとか。
それを見たお母さんも大感激です。さっそく掃除用の雑巾を縫って、息子に持たせました。
翌日、学校でその雑巾を見ると、「がんばれしっかりしっかり」と太い刺繍がしてありました。
それを見た井上先生は、「お前、すばらしい雑巾持っているやないか。」(p.35)と喜んでやり、さらに校長先生に見せに行けとまで言ったそうです。
雅樹ちゃんの雑巾を見せてもらった東井校長も、「そんな雑巾、何万円出したって買われんぞ。」(p.35)と言って、一緒になって喜んであげたそうです。
こういうことがあって、雅樹ちゃんはどんどん頑張り屋になって行ったそうです。
そうなると、熱が出て体調が悪くても「先生の顔見んと、寝とれるかい」(p.38)と言って学校に行くようなやんちゃぶりも発揮します。
学校で井上先生が気づいて熱を計ると、38度以上もあったのだとか。
「人間屑はないんです。
みんないい子になりたがっているんです。やんちゃ者は、やんちゃ者しか持たぬやんちゃ者の値打ちを持っている。おとなしい奴は、おとなしい奴しか持たぬおとなしい奴の値打ちを持っている。」(p.38 - 39)
そう言って、お父さんやお母さんに、子どもとしっかり出会ってくださいと話しかけるのです。
東井先生の話には、このように子どもや先生、ご両親との体験談がたくさん出てきます。
また、子どもが書いた作文なども読まれ、子どもの気持ちを教えてくださいます。
こういう実例を示されることで、平易でとてもわかり易くなっているのです。
人はすべて素晴らしい存在だ。
それをはっきりと教えてくれる本です。
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