日本人を海外に紹介した「代表的日本人」の著書で知られる内村鑑三氏の、講演をまとめた本です。
「デンマルク国の話」と一緒になっていて、文庫本でわずかに150ページもありません。本文だけなら100ページ足らず。
しかし、この講演が本になって、増刷を重ねているという事実に、この本の内容の深さが現れているように思います。
実は私も、この本を過去に1回読んでいます。
「代表的日本人」を買うとき、また読んでみたくなって買ったのです。
もうすでに内容を忘れていたのですが、やはり読むに値する深い内容だと思いました。
どういう内容かというと、私たちが生きた証として何かを残したいという思いについて、内村鑑三氏の考えを述べたものです。
その動機として、天文学者のハーシェルが友人に語った言葉を紹介しています。
「わが愛する友よ、われわれが死ぬときには、われわれが生まれたときより世の中を少しなりとも善くして往こうではないか」(p.18)
このように紹介して、人生において何が遺(のこ)せるだろうか、という遺物について語るのです。
その中で、お金、事業、思想(文学)というものを検討します。
たしかにそれらを後世のために遺せれば、後世の人々の役に立つだろうし、素晴らしいことだと思うと言います。
しかしそれは、誰でもできるものではありません。環境や才能に恵まれた人にのみ許された、特別な遺物だと見るのです。
では、誰にでも遺せる最大の遺物とは何か?
その答は、ぜひこの薄い本を買ってお読みください。
ヒントとして、以下の様な人たちの例を取り上げていることを書いておきましょう。
まずは「フランス革命史」を書いたトーマス・カーライルです。
彼は、何十年かかかってこの本を書き上げました。
その原稿を友人に見てもらったところ、その友人が他の友人にその原稿を貸し、その他の友人の下女が、その原稿をストーブのたきつけにして燃してしまったのです。
カーライルは腹を立て、しばらくは何も手に付かない感じで過ごしたそうです。
しかし再びその執筆を始め、「フランス革命史」を完成させたのでした。
次に、二宮尊徳です。
両親を失い、伯父さんに養ってもらうことになったため、読書さえままならない生活を送ります。
そんな中でも自立する道を模索し、ついには自分の家や田畑を取り戻すまでになりました。
そしてさらに、二十ヵ村か三十ヵ村かの人々を助けるまでになったのです。
最後に内村鑑三氏は、このように言っています。
「たびたびこういうような考えは起こりませぬか。もし私に家族の関係がなかったならば私にも大事業ができたであろう、あるいはもし私に金があって大学を卒業し欧米へ行って知識を磨いてきたならば私にも大事業ができたであろう、もし私に良い友人があったならば大事業ができたであろうと。
こういう考えは人々に実際起る考えであります。しかれども種々の不幸に打ち勝つことによって大事業というものができる、それが大事業であります。
それゆえにわれわれがこの考えをもってみますと、われわれに邪魔のあるのはもっとも愉快なことであります。邪魔があればあるほどわれわれの事業ができる。勇ましい生涯と事業を後世に遺すことができる。とにかく反対があればあるほど面白い。」(p.72 - 73)
※読みやすくすために改行を入れました。
誰にでも後世に遺せる最大の遺物。
それをあなたも、遺そうと思いませんか?
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