サミュエル・スマイルズ氏の世界的な名著を紹介しましょう。
現代の日本では、竹内均(たけうち・ひとし)氏が現代語に訳した「自助論」として知られていますが、原著は1858年に出版された「Self-Help, with Illustrations of Character and Conduct」という本です。
日本では明治時代に「西洋立志編」という名で出版され、冒頭の「天は自ら助くる者を助く」という独立自尊のスローガンが、当時の青年たちを奮い立たせ、100万部の大ベストセラーになったのだそうです。
これを現代語に翻訳し直し、蘇らせたのがこの「自助論」です。
私もこの「自助論」を、20代の時に読みました。三笠書房の知的生き方文庫です。
最近また話題になっているようなので、買い直して読んでみました。
何が素晴らしいかというと、膨大な量の伝記を読んだであろうと想像させる事例の数々です。
こつこつとまじめに努力し、勤勉に働くこと。それこそが最高の生き方だと語るのですが、それを証明するための著名人にまつわるエピソードが、これでもかと言うほどでてきます。
そういう事例を重ねることで、この本に示される生き方がどれほど正しいかということを証明しようとしているかのようです。
若いころの私も、これを読んで心を震わせました。
器用な立ち回りはできませんが、こつこつとまじめに生きることが最高なのだと、自分に言い聞かせたものです。
「正直に生きよう。ずるいことをせず、良心にしたがって生きよう。」そう思ったのです。
ただ、今の私からすると、「それはちょっと無理があるな」と感じる部分もあります。
強いてあげるなら、子どもに義務の心を植え付けるというくだりです。
それで精神的に強くなり、良い人間になるという考えは、ちょっと安直な気がします。
それは、義務が強制になると、人はそれを喜べないことを知っているからです。
とは言うものの、本全体を通じて言われていることの大部分に共感します。
特に、最後に書かれていたこの部分は、驚くべき内容でした。引用しましょう。
「われわれは、幸福でさえ習慣として身につけられる。世の中には、ものごとの明るい面を見ようとする性格の人もいれば、暗い面ばかりに目を向けたがる人もいる。ジョンソンによれば、ものごとのよい面を見る人間は年収1000ポンドの金持ちよりも価値があるそうだ。
人間は、幸福と進歩を生み出すものに考えを向けるだけの意志力を持っている。反対に、不幸や退廃からは目をそむける力もあるはずだ。他の習慣と同じように、ものごとを楽天的に考える習慣もこの意志力から生まれてくる。楽天性を育て上げる教育は、知識や素養をめいっぱい詰めこむよりはるかに重要な教育といえるだろう。」(p.274)
ここに、このブログのエッセンスが凝縮されていました。
私はすっかりこのことは忘れていたのですが、間違いなく20代の時に読んだはずです。
その忘れていたはずのことを、今になってやっと実現しようとしている。
人生とは、面白いものだなあと思いました。

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