また神渡良平さんの本です。
「一隅を照らす」という言葉は、神渡さんが師父と仰ぐ安岡正篤氏の言葉からいただいたものでしょう。
「一燈照隅万燈照国」
これは私も座右の銘にしている言葉ですが、自ら一燈を掲げて足元を照らすことで、それが万人に広がり、ひいては国全体を照らすことになるのだということです。
権力を握って上から全体をひっくり返すのではなく、まず自らが範となって行動で意思を示し、それに共感する人が集まってくることで、社会全体が変わっていく。
これは、「神との対話」シリーズでも同様のことを言っていて、いきなり政治体制を変えることを目指すのではなく、まず自分の信念を変えることを勧めています。
話を戻しますが、こういった「一隅を照らす」人々というのは、世間的にはあまり知られていない無名の人が多いものです。
神渡さんは、そういった人々にスポットライトを当て、それが真理とどう符合しているかを、古典の文言などを引用して説明します。
これはおそらく、神渡さんのライフワークというか、おそらく意図してこういう手法を使われているのでしょう。
この本の中で神渡さんは、荀子を引用して、なぜ学ぶかということを冒頭に説明しています。
「(本当の学問は、立身出世や就職などのためにあるのではない。困窮しても苦しみ迷わないためである。将来を憂えて、心まで哀えてしまうことがないためである。禍(わざわい)も幸福も永遠に続くことはなくいずれ終わることを理解し、少しも迷うことがないためである)」
(p.3)
このように言って、この本に書かれた人々の生きざまを学ぶことで、自分自身の生き方に役立てて欲しいと願われているのでしょう。
最後の方に、「日本は世界のモデル国家を目指そう」と題して、神渡さんの呼びかけが書かれています。
「私は日本が国際社会においてもっと崇(あが)められる地位を占めるべきだと言っているのではなく、雛型としてのモデル国家「大宇宙の仕組みを体現する大和の国」を目指すべきだと言っているのだ。」
(p.231)
諸外国の人が日本から何かを学ぼうとするとき、日本には世界の思想家と比べて遜色のない人々がいると言います。
そして、聖徳太子、空海、道元、良寛、二宮尊徳、中江藤樹、上杉鷹山などの名前をあげます。
そういう先賢の思想を明らかにし、広めることが、神渡さん自身の使命だと考えられておられるのでしょう。
それによって、日本が全体として徳のあるコミュニティーを形成できたとき、世界を救うという使命が果たせるのかもしれません。
このことには私も賛同します。
現在の世界には、宗教的にはキリスト教とイスラム教の対立があり、人種的には白人と黒人の対立があります。
それらの中間にあり、しかも、それらを包括する思想を持っているのが日本であると、私は常々思っていたからです。
「天」という思想は中国から渡ってきたものですが、日本人ほどその心を絶やさず持っている民族はいないのではないでしょうか。
そしてその「天」は、一神教の「神」をさらにスケールアップさせるものです。
私は「神との対話」シリーズによって、「すべてはひとつ」という思想を明確に知ったのですが、これはすでに大昔から言われてきたことでした。
仏教で言うところの「空(くう)」もそうですし、今、世界中で多くの人が、すべてが「一体」であることを感じ、そういう話をするようになっています。
そして最近、神渡良平さんの本をまた読み始めたことで、安岡正篤氏などもそういう思想を持っておられたとわかりました。
そして、そのことを表現するのに、「天」という言葉はぴったりだなあと感じたのです。
私も、だいそれたことができる立場の人間ではありませんが、自らの足元を照らしつつ、万燈照国の一助になろうと思います。
この本は、そういう気持ちを奮い立たせてくれました。
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