よく知られた中村天風氏の思想を、また違った切り口から紹介する神渡良平さんの本です。
中村天風氏は、ご自身でも本を書いておられるし、同氏を紹介している本はたくさんあります。その中には、すでに私が読んだ本もあります。神渡良平さんも、すでに天風氏のことを書かれていますね。
中村天風氏の思想を一言で言うなら、「思考が人生を創る!」に尽きるでしょう。
今さらながらですが、1900年ころの日本に、こういう思想を広めようとした人物がいたということは、驚く他ありません。
なぜなら、世界中に広がっている成功哲学の元は、ジェームズ・アレン氏の「「原因」と「結果」の法則」だと言われていますが、それとほとんど同じことを、ほぼ同じ時期に日本人が言っていたのです。
しかも、難しい哲学的な用語を使うのではなく、平易な言葉で、しかも実践的なことを言っていました。
潜在意識を活用するためのテクニックだとして、中村天風氏は言葉の威力を伝え、信念を変える方法を示したのです。
たとえば、つい口癖で否定的なことを言ってしまうことがあるでしょう。
そうしたときは、「・・・と昔はよく愚痴ったものだが、今は違う」と付け加えれば良いと言います。
そうすることで、わずか1メートル飛びのいて、弾丸列車をかわすことができるのだからと。(p.86)
これなどは、「ツキを呼ぶ魔法の言葉」にあった、「キャンセル」と言って前言を取り消すというのと同じですよね。
また、「こうなりたい」というように願うのではなく、あたかもそれが成就したかのようなイメージを心に描いて、その気持ちになるのが重要なのだと言います。
潜在意識の活用法として、よく知られた重要なテクニックです。
もちろんそのテクニックの背景には、この世に対する深い洞察がありました。
「宇宙は今なお生成化有しており、宇宙の根本主体の人間に対する願いは、進化と向上に寄与することなのではないか!」(p.52)
「人間はそれ自身、この宇宙の創造を司(つかさど)る造物主と称する宇宙根本主体である宇宙霊と自由に結合し得る資格を持っている!と同時に、造物主と共同活動を行う一切の力が与えられているのだ!」(p.52)
天風氏の悟りの核心だとして、神渡さんはこのように言い切っています。
これは、私にとっては驚きでした。なぜなら、これはまさに「神との対話」で言われている内容だったからです。
神とは生命であり、進化するプロセスである。人格を持った超弩(ど)級の存在ではない。それが、「神との対話」で語られていることです。
人というのは、神が作ったもの(=被造物)であると同時に、神が神自身を体験的に知ろうとした試み、つまり神自身なのです。
したがって、より素晴らしいもの、より偉大なものを、自然と求める性質があります。なぜなら、神がそういうものだから。
このような背景を理解していなければ、なぜ人が自分の人生を創造できるのかもわからないし、なぜすべてが上手くいくのかも理解できないでしょう。
「引き寄せの法則」や「「原因」と「結果」の法則」では、ただそういうものだとして語られています。
しかし、中村天風氏の思想の背景には、「神との対話」で示されているように、唯一絶対の存在である神(=生命)の目的と、その表れとしてのこの世(=宇宙)があるという関係への理解があるのです。
この本の素晴らしいところは、単に天風氏の思想を紹介するだけに終わっていないところです。
神渡さんが得意とする手法ですが、天風氏の思想を現実に表現した多くの人の具体的な活動を示すことで、その思想を浮き彫りにするのです。
最初に紹介しているのは、イハレアカラ・ヒューレン博士。ハワイに伝わる伝統的な心理療法ホ・オポノポノを広めておられる方です。
「ありがとう。ごめんなさい。許してね。愛しています。」
この4つの言葉によって、すべてが癒されると言うのです。
まさに天風氏が言うように、「感謝と歓喜の感情は、宇宙霊に正しい力を呼びかける、最高にして純なる合図ともいえる。」(p.12)ということなのです。
このように、多くの人々が天風氏が示す思考によって、幸せを創り出しています。
もちろん、必ずしも上手くいくばかりでなく、困難に直面することもあります。
しかしそれさえも、魂を向上させるために必要な困難なのだと思うことで、前向きに乗り超えることができるのです。
「古来、「天に棄物(きぶつ)なし」という。一見不利なように見えることも、回りまわって益となって働く。だから憂うことはない。どんな状況に立たされようと、それを感謝して受け、最善の努力をすれば道は開けていくという。私の場合もこれは真理だったのである。」(p.5)
「それは天風が言うところの「常に心に感謝と歓喜を持って事に当たれば、宇宙のエネルギーが流入する」に通じる。このように天風哲学は生きる知恵に満ちていて、私はどんなに助けられたかわからない。」(p.5)
神渡さんはこのように言って、中村天風氏の思想がどれだけ現実に役立つものであるかを説明するのです。
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