そこでは、仕事のやり方と言うよりも、このブログで書いているようなことを話すことが多いです。
それは、仕事というのも人生の一部に過ぎないという思いがあるからで、社員にはみんな、幸せになって自分らしく生きてほしいと願っているからです。
先月のスピーチでは、2人の社員を表彰しました。
1人は、仕事で大きな失敗をした社員です。
私はスピーチで、「失敗というものは存在しない」ということを話しています。
それを失敗だと考える人はいても、失敗という事実は存在しないからです。
考えようによっては、それは成功への一里塚でもあります。
逆に失敗することを恐れて一歩を踏み出さなかったとすれば、成功することもできないのです。
そういう思いが本気であることを示すために、仕事で大きな失敗をした社員を、あえてみんなの前で褒めて、表彰しました。
報奨金として、1,000バーツをポケットマネーで出しましたよ。
会社の経費としても良かったのですが、事前に上司に話すと、反対されるおそれがあったものですから。
実際、あとでそのことを報告したとき、上司からは怒られました。
「そんなことをしたら、恥をかかされたと感じて、逆にやる気がなくなってしまうかもしれないじゃないか。」
みんなが私が思うように思ってくれるとは限らないのだから、余計なことをするなというわけです。
もちろん、それも1つの考え方だと思います。
どっちが正しくて、どっちが間違いというわけではありません。私はそう考えます。
ですから、あえて上司に相談せずに、ポケットマネーを使うことで独断的に実施したのです。
私にも、一抹の不安はありました。
みんなの前で失敗したことを晒(さら)さなくてはなりません。
他の社員がすでに知っていることとは言え、傷口をほじくり返される気がするかもしれません。
それでも、失敗することはむしろ良いことなのだという雰囲気を社内に作るためには、これをやらなければならないと私は思ったのです。
もう1人、表彰した社員がいます。
実はこの社員は、まだ何もやっていません。
ただ、やると言ってくれたので、先行して表彰したのです。
それは、会社の中を快適にしたり、仕事を効率よくできるようにするためのアイデアを出して、実施してほしいという依頼に応えてくれたからです。
「稼ぎたければ、働くな。」という本を読んで感じたのですが、やはり伸びる会社は社員が生き生きとしています。
生き生きとするということは、自由で、自分らしく働いているということです。
管理者は、そういう環境を作ってあげることが大切です。
その第一歩として、何か良くなるアイデアを出して実施してくれたら、私がポケットマネーで表彰するよ、と伝えたのです。
そうは言っても、いきなりでは何をどうやったら良いかわからないもの。
そこでまずは私がラフなアイデアを提供し、それを使えるものとしてブラッシュアップして、実施するよう求めたのです。
私が出したラフなアイデアとは、部屋の入口にある照明のスイッチに、目印を付けることでした。
社員が次々と帰って行くとき、部屋の中に1人しか残っていないのに、部屋全体に照明がついているのが通常でした。
私が最後まで残ったときは、私のところの照明を残して、他を消すようにしていました。
どうして、人がいない部分の照明を消さないかというと、スイッチの位置と照明との関係がわかっていないからです。
どこをOFFにすれば、どの照明が消えるのか、わからなかったのです。
もし間違って人がいる場所の照明を消してしまうと、嫌な気持ちにさせるかもしれない。
タイ人は、そういう行為を嫌いますから、無難に消さないでおくことを選択したのです。
だったら解決方法は簡単です。
スイッチと照明の場所を関連付けてやれば良いだけ。
でも、文字でどの部分の照明とか書いても、わかりにくくなるのは必定です。
そこを工夫して、わかりやすくなるように考えて、実施することを依頼したのです。
そして、それをやると手を上げてくれた社員に、100バーツをあげて事前に表彰したというわけです。
ところが、それから1ヶ月が過ぎても、まったく何も実施されませんでした。
今月のスピーチのとき、私はそのことを指摘しようかと思いました。
「先に表彰してあげたのに、私との約束を守らないの?」
でも、それを言ったら、萎縮させてしまうかもしれません。
私はその社員を信じて、仮に何もやってくれないとしても、指摘するのはやめようと思いました。
それから数日して、私宛にメールが届きました。
その社員が考えたアイデアが書かれていて、これで良いかと問うてきたのです。
私は言いました。
「良いか悪いかを決めるのは、私じゃないんだよ。あなた方がそれを考えるんだよ。」
ともかく自分のアイデアで実施してみて、不都合があればやり直せば良いだけなのです。
失敗を恐れて逡巡していては、いつまでたっても前進できません。
それに、その評価を私に求めていたら、評価の基準はいつも「私がどう思うか」ということになってしまいます。
そうなれば、自分自身で考えなくなるでしょう。「どうすればいいですか?」と、常にお伺いを立てるようになるでしょう。
それでは意味がないのです。
それから1週間ほどして、出社したとき、私は驚きました。
オフィスの中が、お祭り状態になっていたからです。

最初は、中国正月の飾り付けかと思いましたよ。だって、色とりどりの短冊が天井からぶら下がっているのですから。
でも、しばらくして気が付きました。そして、嬉しさが込み上げてきました。
「やるじゃないか!素晴らしいよ、このアイデアは。」
そう、これは照明の場所の目印なのです。
どのスイッチでどの照明がON/OFFされるか、ひと目で分かるように色付けしたのです。
入り口にあるスイッチには、それぞれの色に塗られたラベルが貼ってありました。
これなら、消したい照明のところにある短冊と同じ色のラベルが貼られたスイッチを、OFFにすれば良いとすぐにわかります。
それに、照明のところに色のついたラベルを貼るのではなく、短冊にしたところが素晴らしいと思いました。
味気なかったオフィスが、一気に華やいだ雰囲気になったからです。
「これならウキウキした気分で仕事ができそう。」
待って良かったと思いました。
そして、どんな人でもこんな素晴らしいアイデアを出せる可能性を、秘めているのだなあと思いました。
「100バーツしかあげなかったけど、このアイデアなら500バーツにしてもいいかも。」
そう思うくらい、嬉しかったのです。