そのうちの1人が、大学を辞めてしまったようです。
実は昨年、その甥っ子が悩んでいるから相談に乗ってやってくれと、家族から言われました。
彼の名を、仮に「Kくん」としましょう。
私はKくんに、タイに来るのなら時間をとって話をすると伝えました。
それから紆余曲折があったものの、今年の3月くらいにKくんは1人でタイまで来ました。
初めての海外旅行です。
具体的な悩みはよくわかりませんが、要はどう生きたら良いか迷っていたようです。
そして、周りの期待に応えなければならないというプレッシャーに、押し潰されそうになったのでしょう。
私は、私の生き方を話しました。
広島大学を中退し、新聞奨学生をしながら国士舘大学で学んだことも話しました。
人は、どんな生き方でもできる。
もし今、自分がどう生きれば良いのかわからないなら、今いる場所で一所懸命にやってみることも良いし、今の環境とはまったく異なるところへ行ってみるのも良いと。
甥っ子は、考えてみると言いました。
それから何の連絡もなかったので、元気にやっているのだろうと思っていました。
そこへ先日、母親から手紙が届いたのです。
Kくんに何か言ってやりたいのだけど、私の意見を聞きたいと。
何があったのかわからず、私は「お母さんの好きなようにしたらいいよ」と伝えました。
私が話したいことは、すでに話をしてあるし、私はKくんのことを信頼しているからと。
その後、母が心配したのは、Kくんが大学を辞めたと聞かされたからだとわかりました。
でも、甥っ子はさばさばとしているようです。
私は、中学3年の時、母に対して「高校へ行かない!」と言ったことがあります。
同級生の友人が中卒で大工になるという話をしたとき、その生き方を母が否定したからです。
友だちを否定されたことへの反発から、そう言ったのです。もちろん、本気じゃありません。
けれども、そんな生き方があっても良いじゃないかと思いました。
私自身は、臆病で、他人の期待に応えようとするタイプでした。
ですから、普通の生き方から外れることは考えられませんでした。
しかしその一方で、自由に自分らしく生きたいという気持ちもあったのです。
おそらくその考えは、父親譲りなのでしょうね。
先月、帰省した時に、父から結婚のエピソードを聞かされました。
結婚披露宴で、親戚の人たちに付き合って延々と酒を飲むのが嫌だった父は、わざとその日のうちにハネムーンへ出発する予定を立てたのです。
あとから恨みごとを言われたようですが、父はそんなことを気にしなかったようです。
保守的な田舎にあって、満州帰りの貧乏人のくせにとバカにされることがあっても、それでも自分の生き方を貫いた父。
そんな話を聞かされて、その血が私の中にも流れているのだと思いました。
もちろんKくんにも、その血は流れています。
彼はやっと、周りの人に敷かれたレールから外れる決断をしたのです。
本当は、周りの人が敷いたわけではありません。
敷かれていると自分が思い込んでいただけです。
いずれにせよ、そこから外れて、自分で道を探そうとしています。
私は、大学を辞める決断をした甥っ子を、誇りに思います。
Kくんがまだ小学生になる前のこと、私の両親と一緒に広島にある彼の家へ行きました。
その後、島根の実家へ一緒に行く予定でした。
甥っ子には2歳下の弟がいるのですが、そのとき弟がまだ2歳くらいだったでしょうか。
おもちゃの滑り台を何度も滑っては、「どうだ!」というポーズをします。
それを見て両親などは大喜びで、「すごいねー!」とか言って、拍手しました。
そうやってみんなが弟にばかり注目するので、Kくんはだんだんと機嫌が悪くなりました。
そしてついに、「ぼくは島根に行かないからね!」と怒ったのです。
そのとき私は、見捨てられたような気がして腹を立てたKくんに、自分の過去を重ねました。
私もまた、そういう思いを経験してきたからです。
私はKくんと2人きりになって、一緒に畳の上で寝っ転がりながら言いました。
「おじさんは、Kくんと一緒に行きたいなあ。だって、その方が楽しいもの。Kくんは、おじさんと一緒だと、楽しくない?」
気にかけてもらえることがわかって、Kくんもだんだんと機嫌が良くなってきました。
「ほら、一緒に行かないと、くすぐっちゃうぞー。」
甥っ子は、けたけた笑いながら逃げ回ります。そしてついに折れました。
「わかった。もうやめて。行くから。一緒に行くから。」
Kくんは嬉しそうでした。
もし今、私がKくんに語るとしたら、こんなふうに言うでしょう。
「おじさんはね、Kくんのことが大好きだから。だから、いつも応援しているんだよ。」
「困ったことがあったら、頼りたくなったら、いつでもやってくればいいよ。絶対に拒否したりしないからね。」
「大胆に、思いっきり、好きな生き方をしたらいい。誰かが敷いたレールの上を進むのではなく、自分で切り開いた道を、堂々と歩きなさい。」
「そうすれば、幸せでいられる。幸せでいれば、本当の自分を表現することができる。」
「おめでとう!やっと自分の足で歩くことを始めたKくんを、おじさんは誇りに思うよ。」
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