2012年06月04日

自殺未遂をしたTくんのこと

タイで仕事をするようになってしばらくして、後輩のTくんが私の部下として赴任してきました。

Tくんはおとなしくて、いつも穏やかな表情をしています。

ただ、自分の感情をあまり表に出さない感じで、ちょっと得体のしれない雰囲気を持っていました。


Tくんは、私の言うことをよく聞いて仕事をしてくれましたが、それほど優秀とまではいきませんでした。

それもあって、何度か注意したこともあります。

私の仕事はコンピューター・プログラムの開発です。

彼がプログラムのテストが終わったというので、私がチェックすると、すぐにボロが見つかってしまいます。

「本当にテストしたの?まったくそうは思えないよ。」

実績を示さないと、タイで生き残ることはできない。そう感じていた私は、仕事に対して厳しかったのです。


ある日、Tくんが真剣な顔をして怒り出したことがありました。

「赤木さん、どうして前と言うことが違うんですか!?赤木さんがこうしろと以前言ったからそうしたのに、今度はなんでそうじゃないと言って怒るんですか!?自分には、どうすればいいのかわかりませんよ。」

私は驚きました。あの温厚なTくんが怒ったからです。

でも、私にも言い分はありました。私は理論派ですから、理屈が通らないことは大嫌いです。理由もなく前言を撤回することなどあり得ません。

Tくんの話を聞いて、彼が勘違いしていることがわかりました。前提条件が異なっているのです。

たとえば子どもから、こう言われた父親のことを考えてみてください。

「お父さんはどうして、夜には寝ろ寝ろと怒るくせに、朝になると起きろ起きろと怒るの?」

どうでしょうか?「アホかお前は!前提条件が違うだろう!」と、一喝したくなりませんか?

Tくんのケースも、私にすればそういうことだったのです。

なぜそうしなければならないかを考えたら、自ずと結論が出るようなこと。私は、そう感じていたのです。



そんな性格のTくんが、客先に派遣されてから1年くらいたった頃のことです。

昼過ぎに同僚から、「Tくんの姿が見えなくなった」と報告があったのです。

そのころはあまり日常的に接する機会がなくて、彼がどんな状態だったのかわかっていませんでした。

同僚から聞くと、かなり悩んでいたとのこと。

手分けして近所を探しましたが、見つかりませんでした。

彼が住むアパートへも行き、もし彼が戻ってきたら連絡をくれとガードマンに依頼して、部屋に戻りました。


会社の近くに大きな川はないものの、下水のようなドブ川があります。

まさかそんなところに身投げはしないでしょうけど、何らかの事故で落ちているのではと思い、あちこち探してみました。


「待つしかない。」

そう上司から言われていましたが、いても立ってもいられません。

夜になって寝ようと思っても、すぐに目が覚めてしまいます。

朝の3時だったか4時だったか、どうにも寝られないので起き出し、私はまた彼を探しに出かけたのです。

会社から彼のアパートに向かって、ドブ川なども見ながら歩きました。

そしてアパートに着いてガードマンに尋ねると、部屋に戻っていると言うではありませんか。

私はすぐに彼の部屋へ行き、中にいたTくんと話をしたのです。


どうしたら良いかわからなくて、あちこち歩き回ったそうです。

もう死ぬしかないと思って、飛び降りなども考えたけれど、なかなかできなかったのだと。

それで薬局で睡眠薬を大量に買い、部屋に戻って自殺しようとしたのだとか。

彼と仲が良かった同僚がそれを知って、話をしてなんとか思いとどまらせたようです。

彼の気持ちが落ち着いたので、同僚は朝まで寝させることにして帰ったのだそうです。


物が散らかり、少し匂ってくる汚れた部屋は、彼の心がどれだけ荒んでいたかを物語っていました。

彼は私の腕の中で、ひとしきり泣きました。

部下なのに、何も気づいてあげられなかったことを、私は本当に申し訳なく思ったのです。


翌日、彼を病院ヘ連れていき、うつ病と診断されて入院することになりました。

そして、タイではもう仕事を続けられないということで、帰国することになったのです。



おそらく私は、Tくんの中に自分自身の嫌いな一面を見ていたのだと思います。

おどおどして行動力がない点など、私自身もそうなのに必死で隠していた部分を、彼はさらけ出していたのです。

それを見ることは、私自身の隠したい部分がさらけ出された気になる。

それで彼に対して、厳しく変わることを要求したのだろうと思うのです。


うつ病との因果関係がどうなのかということは、私にはわかりません。

ただ、彼が彼自身の性格によって苦しんでいたこと、そして私と接する中で苦しんだことがあることは、たしかなことだと思います。

また私も、彼と接する中で苦しんだという事実もあります。


今は、彼と出会えたことを良かったと思うのです。

そういう経験ができたことを、ありがたいと思います。

そのときは上手く対処できなかったかもしれないけれど、彼は貴重なメッセージを私に贈ってくれました。

そのことを、心からありがたいと思うのです。

posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 21:28 | Comment(2) | ├ 私の生い立ち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
■無題
貴重な体験をシェアしてくださってありがとうございます。
Posted by まきこ at 2012年06月05日 09:45
■Re:無題
>まきこさん

コメント、ありがとうございます。
IT関連は特に、うつ病やプチうつなど、精神的にまいってしまう人が多いようです。
期限内に品質の高い製品を作る仕事は、どうしてもプレッシャーがかかりますからね。
そのプレッシャーとどのように向き合うかが、課題だと思っています。
Posted by 赤木 (幸せ実践塾塾長) at 2012年06月05日 11:04
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

●コメントを書く前に、こちらのコメント掲載の指針をお読みください。

ランキングに登録しています。面白かったらボタンをポチッと押してね。
↓↓↓↓
にほんブログ村 ライフスタイルブログ 自分らしさへ