2012年05月31日

祖母を叱りつけた日

私は、おばあちゃん子でした。

優しくしてくれるおばあちゃんが大好きだったのです。



あれは小学校の2〜3年くらいだったでしょうか。夏の朝、私は蚊帳の中で目を覚ましました。

まだ朝早かったのですが、隣に寝ていた祖母が起き上がり、濡れ縁の方へ出て行ったのです。

田舎ですから、窓は開け放していました。祖母は、朝の清々しい空気を吸いに行ったのでしょう。

私が布団の中から様子をうかがっていると、祖母は突然、スーッと倒れたのです。

ドシーン!


私は慌てて布団から飛び出し、蚊帳をめくって外に出て、祖母のもとに駆け寄りました。

祖母は倒れたまま、返事をしません。私は2階で寝ている両親を呼びに、階段を駆け上がりました。

「おばあちゃんが、おばあちゃんが...」


くも膜下出血か脳卒中か知りませんが、祖母はその影響で半身不随になりました。

祖母が退院して戻ってきてから、母の介護生活が始まったのです。



半身が動かないものの、祖母は以前よりも優しくなったように思いました。

それから祖父が亡くなり、私も中学生になりました。

その頃から、祖母は認知症になったようです。

当時は単にボケと言っていましたけど。アルツハイマー病が有名になる前のことです。


半身不随ながら、徘徊することもありました。

そしてだんだんと、呼びかけにも素早く答えられないくらい、症状が重くなったのです。


そんなある休みの日、母は私に留守番を頼みました。

「おばあちゃんの面倒をみてやってね。おしっこに行かずに止まってたら、行くように言ってあげて。」

私は、祖母の面倒を見るのが嫌でした。

でも、特に何も予定がなかったので、留守番を引き受けざるを得なかったのです。


1〜2時間もしたころ、祖母がトイレに行こうとして立ち上がりました。しかし、そのまま立ち止まっています。

「おばあちゃん、早うトイレに行きんさいや。」

そう言っても、返事はありません。私はテレビを見ていましたが、祖母は何を考えているのか、まったく動こうとしません。

私は怒りました。

「おばあちゃん!早う行きんさいや。漏れるで!」

徐々に激しく、今にも叩かんばかりに、祖母を叱りつけたのです。


何度か怒鳴りましたが、祖母は無反応です。そのうち、祖母の足元が濡れ始めました。

「あーあ、やっぱり漏らした。だから早う行きんさいって、何度も言うたろうがな。」

私は、祖母を放っておくことにしました。

祖母は小便を漏らしたまま、その場に突立っていたのです。


しばらくして、母が戻ってきました。私は玄関まで駆けて行き、母に言いました。

「おばあちゃん、漏らしたで。何度言うても聞かんのんだけえ。」

母は、しょうがないなという感じで、祖母の世話をしに部屋へ入って行きました。



そんなことがあって、どれだけの月日が過ぎたでしょうか。

いよいよ祖母も危ないという夜、私は寝ているところを母に起こされました。

祖母が寝ている部屋に行くと、家族や近所の親戚の人が集まっていました。


しばらく様子を見ていると、祖母の呼吸がときどき止まるようになりました。

数秒間、息が止まった後、また呼吸を始めるという感じです。

促されて私は、祖母の口を水で湿らせた綿で、拭いてあげました。

それから少しして、祖母の呼吸はついに戻らなくなったのです。

誰かが和紙を割いたものを祖母の鼻の前に垂らし、呼吸がないことを確認していました。

祖母は亡くなったのです。


私は、ずっと後悔していました。

あんなに大好きだったおばあちゃんなのに。ボケて言うことを聞かなくなったからといって、あんな風に邪険に扱わなくても良かったのに。

優しくしてあげられなかったことが、ずっとずっと心に突き刺さっていたのです。



それから時が流れ、私は東京の大田区にある河川敷で、軟式野球を楽しんでいました。

季節は春。桜が満開で、花見の客が大勢来ていました。

私たちも野球を楽しんだ後、桜の下で弁当を食べたのです。


そこへ、一組の家族がやってきました。

お父さん、お母さん、子どもたち、そしておばあちゃん。

お父さんとお母さんは弁当などの荷物を持ち、場所を確保することに心を奪われています。

小さい子どもは、お母さんが手を引いています。

おばあちゃんは最後の方を歩いてきますが、土手は足元が悪く、歩くのに苦労していました。


それを見た瞬間、私は思わず立ち上がり、おばあさんのもとへ駆け寄ったのです。
「足元が悪いですからね、手を引きましょう。」

そう言っておばあさんの手を取り、ゆっくり、ゆっくり、一緒に歩いてあげたのです。

お父さんとお母さんのいるところまで案内しましたが、2人は怪訝そうな顔をしています。

おばあさんは、何度も頭を下げてお礼を言っていました。


私は微笑んで、仲間のいるところへ戻りました。

ただ嬉しかったのです。何も考えていないのに、サッと身体が動いたことが。

胸につかえていたものが、軽くなった気がしました。

きっと私の祖母も近くにいて、微笑んでいるに違いない。そう思ったのです。

posted by 幸せ実践塾・塾長の赤木 at 11:53 | Comment(0) | └ 家族のこと | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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