物心ついた頃から、父親は厳しくて怖い存在だったのです。
母親に対してなら相談もできるし、愚痴を言うこともできました。
でも父親に対しては、そんなことはできません。
小学校の中学年くらいのことだったと思います。
私は切手を集めることを趣味にしていましたが、小遣いでは、なかなか高い切手が買えません。
国宝シリーズの何かが欲しくて、母親にねだりました。
すると母は、「お父ちゃんに言うてみんさい。」と言って、父親と話すよう促すのです。
私は絶対に無理だと思ったし、そんなことをお願いして怒られるのも嫌だと思っていました。
それでも母は、「お前にお願いされたら、お父ちゃんも喜ぶから。」と言うのです。
母の言葉は信じられませんでしたが、切手が欲しいという気持ちが勝りました。
それで意を決して、父親に相談したのです。
ドキドキしながら父親の反応を待っていると、父はこう言いました。
「そうか、どれが欲しいんだ?」
私は、とても驚きました。怒られるどころか、まさか買ってくれるなんて。
年老いて、孫と遊ぶときの父を見ていると、本当に可愛くて仕方がないという感じで、上手に喜ばせて遊んでいます。
きっと父は私を、可愛がりたかったのだと思います。
でも何らかの事情で、厳しく接することしかできなかった。
今になって、そんな風に思うのです。
20歳を過ぎたころ、どんなシチュエーションだったか忘れましたが、父が私に言いました。
「喧嘩をしたら、もうお前の方が強いだろう?」
それでも私は、まだ父が怖かったのです。気迫で負けていたから、ケンカしようという気持ちにもなれません。
負け犬という言葉がありますが、まさにそういう感じです。
戦う前に、すでに負けているのです。
父親との間のギクシャクした関係は、まだ完全に解消されたとは言えません。
でも今はメールでやりとりする関係で、おだやかに平常心で要件を伝えられます。
心の会話ができないという点で、まだ少し、わだかまりが残っているのだと思います。
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