付き合って3年で婚約し、それから約1年後に彼女の実家で結婚式を挙げました。
そんな彼女と付き合っていた時、私は何度か彼女を泣かせたことがあります。
その中で、私の記憶に一番残っているエピソードを書きます。
その日は、彼女の誕生日でした。
仕事が終わってから、小洒落たタイ料理のレストランへ行きました。
特に予約したわけではなく、単に私の住むコンドミニアム(日本で言うマンション)に近かったから行ったのです。
そこで彼女は何品か注文しましたが、味が気に入らないのか、あまり食べません。
スプーンでいじるだけです。まるで子どものよう。
自分が食べるからと言って注文したのにそれを食べない。
しかも退屈なのか、テーブルの下で足を伸ばし、向かいに座っている私の足を、自分の足の指でつまんだりして遊びます。
「はしたないなあ。そんなことするなよ。」
そうたしなめたいところですが、「はしたない」というタイ語がわかりません。
私は彼女にかまわず、出された料理を食べることにしました。
「食べないの?」と尋ねても、「食べない」と答えるだけの彼女。
私も少し腹が立ってきました。
「自分で注文しておいて、ふざけるなよ!」
そう言いたかったけれど、それはグッと飲み込んで黙って料理を食べました。
彼女にも、私の不機嫌な様子が伝わったのでしょう。
「私のこと、嫌いなの?」と聞いてきます。
「そんなことないよ。」と答えたものの、「好きだよ」とは言えませんでした。「そんなことを今、質問するなよ。」と言いたい気分です。
食事が終わり、精算をして店を出ると、彼女は私と微妙な距離を保ちます。
「ついて来ないなら、それでもいいか。」
そう思いながら、私は彼女の前を歩きました。
「怒りたいのはこっちの方だよ。」と、やるせない気分です。
それでも一応、彼女の動きを見守りながら、私の部屋へ行きました。
私がテレビをつけて見ていると、彼女は誰かに電話をかけ、ベランダの外へ出ました。
窓を締めて、誰かと話をしている様子です。
私はソファーに座ってテレビを見ていましたが、ふと気づくと、けっこうな時間が過ぎています。
「まだ電話をしているのかなあ。どうしたんだろう?」
そう思ってベランダの方へ近づくと、鳴き声が聞こえてきたのです。
私は慌てました。
窓を開けて、「どうしたの?」と尋ねても、彼女は座ったまま泣きじゃくっています。
私は、思いました。
「ああ、また泣かせてしまった。もっと優しくしてあげれば良かったのに。」
私は彼女の背後に腰を下ろし、後ろからそっと抱きつきました。
声を掛けたくても、なんと掛けて良いのかわかりません。
だから黙ったまま、ただ愛しく思いながら抱きついたのです。
しばらくすると彼女が、私にもたれかかってきました。
「許してもらえたのかも。」そんな気がしました。
それからしばらく、彼女は泣き続けました。
5分か10分くらいたって、やっと彼女が落ち着いてきたころ、私は彼女に言いました。
「ごめんね。今日はあなたの誕生日だったのに。」
彼女はまた、声を上げて泣き始めました。
彼女と私とで、価値観が違っているのは明らかです。
私は人前で、はしたないことをするのは嫌いです。
でも彼女は、そんなことをあまり気にしません。
私は、注文した料理を残すのも嫌いです。
でも彼女は平気です。食事代は私が払うというのに、まったく気にしていません。
そんな彼女を、私は愛そうと思いました。
私と価値観が違うから、違いすぎているからこそ、ありがたい。
お陰で私は、自分とは違う考えをする人がいることを実感できるし、それを受け入れることができるから。
そんな彼女と、付き合い始めて丸5年が過ぎました。
もうすぐ彼女の誕生日。結婚してから、最初の誕生日です。
今度は泣かせないようにしないとね。そう思っています。
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