2021年12月14日
仕事がうまくいく!絶対的な「1日」の習慣
私の友人が初めて出版した本です。タイムマネジメントコーチとして活躍されてる山本武史(やまもと・たけし)さん。双子を含む4人のお子さんのパパでもあり、子育てや家事も応分にこなす愛妻家(愛家庭家?)であり、ストイックなまでに肉体の改造に取り組むトレーニング愛好家でもあります。(Twitter、Facebook)
そんな山本さんとは、セミナーで知り合ったのですが、それ以来、Facebookでお付き合いさせていただいています。
山本さんが出版されると知って、いつも明るくニコニコされてて、仕事も家庭も趣味もエネルギッシュにこなされている山本さんの、その秘訣が書かれているのだろうと思いました。
読んでみると、実際にそうでした。日々の中の「1日」を切り取り、そこにフォーカスする。その「1日」を改めれば、あとはその繰り返し。
肉体改造と同様に、今日「1日」のトレーニングが、いつしか実を結ぶのですね。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「本書では、「もっと時間が欲しい」「もっと時間を有効に使いたい」「仕事も人生ももっと充実させたい」といった理想を叶えるために、無駄のない理想的な1日を作る具体的な方法について紹介しています。
仕事の効率化を図り、家庭も仕事も諦めない、さらに将来の自分への投資もしていく、ある意味『わがままな時間の使い方』です。」(p.4)
冒頭にこう書かれていますが、まさにそういう内容でしたね。
「仮に1日1時間を無駄に過ごしてしまっているとしましょう。1時間というと長いように思いますが、YouTubeやSNSなどを見ていればすぐに過ぎてしまいますよね。これが1ヶ月続けば30時間、1年で365時間(約15日間)の無駄になってしまうのです。
そう考えると、結構大きなロスになってしまいます。しかし、裏を返せば、それだけ時間を生み出せるということです。」(p.21)
私も、ついついYoutubeやFacebookで時間を使ってしまいます。塵も積もれば山となると言いますが、まさにその通りですね。
「「将来なりたい姿もまだはっきりしないし、自己投資と言われても何をしていいかわからない!」という人は、ひとまず運動と読書に取り組んでみてください。」(p.24-25)
資格を取得するとか、明確な目標があれば、その勉強をすればいいでしょう。けれども、そういう目標がないなら、運動と読書をと山本さんは言います。
これは間違いありませんね。身体も頭脳も精神も、私たちが豊かな人生を過ごすための基本的な武器であり、もっとも重視すべきものだと思いますから。
「理想のワークライフバランスは、人生の段階において変わってきます。その時に何がどのくらい必要なのかは、自分で決めなければなりません。しかし、これだけは絶対に必要だと言えるのは、自己投資と家族との時間です。仕事に真剣に打ち込むことも非常に重要ですが、この2つの時間はしっかりと守ってください。」(p.29)
つい短絡的に成果を挙げられる(ように見える)仕事(学生なら勉強)に力を集中してしまいがちですが、それではバランスを崩しがちです。常に大所高所から俯瞰して、将来的な展望も考える必要がある。その時、重視すべきは自己投資と家族との人間関係なのですね。
たしかに、自己投資を怠れば先細りになります。家族との人間関係で軋轢が生まれれば、仕事への意欲も削がれるし、そもそも何のために仕事に没頭したのかと悔やむことにもなりかねませんから。
「1日24時間のうち、たった1%の15分間を自己投資の時間に当てるだけで、その他大勢から抜け出せるのです。」(p.40)
学習・自己啓発・訓練など、自己投資に費やす時間の平均は、1日でたったの6分だそうです。したがって、もし15分をそこに投じたなら、平均の2.5倍もやっていることになります。
他の人の2.5倍も頑張って勝てないことがありますか? と山本さんは問います。たしかにそうですね。勝てないはずがありません。
いや、勝ち負けよりも、1日たった15分で成果を挙げられるなら、こんな素晴らしいことはないと思えませんかね。そこに気づき、それを実践することが重要なのだと思います。
「成功者たちは、鋼の意志を持って生まれてきたかのように思えますが、実はそうではなく、『目的意識の強さ』に、意志を服従させているのです。
つまり、「何のためにそれを行うのか?」という、やるべき理由をしっかりと持っているのです。同じように、私たちも『目的意識』を強く持つことによって、楽なことに逃げず、やるべきことに立ち向かえるようになります。」(p.45)
有名な「7つの習慣」から引用しながら、山本さんは目的意識を持つことが重要だと説きます。
「とはいえ、そう簡単に人生の目的なんて見つからないという場合は、「それは何のために行うのか?」と、何かやろうとするたびに、自分に問いかけてみてください。」(p.46)
「何のためか?」という自問を繰り返すことで、目的が意識され、時間の無駄を減らせるというわけですね。
「締め切り間際で慌てないようにするためには、締め切り日時から逆算して、はじめるタイミングを決めましょう。できれば、突発的な仕事が入ったり、トラブルが起こったりすることも想定に入れて、少しゆとりを持って設定してください。」(p.56)
スケジュールの管理方法として、締め切りだけでなく、「開始日時」を決めておくということですね。こうすれば、つい失念していて、締切日が近づいてから気づいて慌てるなんてこともなくなるでしょう。
「タイムマネジメントを諦める前に、もう一工夫してください。先ほども触れた通り、きちんと時間通りに進められる予定にするには、『余白』が必要です。余白がないと、1つでも時間通りに終わらない仕事が出てきたり、予定外の仕事が入ったりしたら、その後が総崩れになってしまいます。しかし、多くの人は予定を立てる時に余白を入れていません。確かに、仕事中に何もしない時間を入れるのは抵抗があるでしょう。そこで、試してほしいのが『クッションタイム』です。」(p.58-59)
スケジュールを詰め込みすぎると、こういう問題はありますね。そこで山本さんは、「クッションタイム」をスケジュール化しておくことを勧めています。
それは「重要だけど緊急ではないタスク」です。いざとなればそれを外して時間を確保すればいいのです。
「タスクを細かく細分化しておくと、「今日は時間がないからこれとこれだけ。残りの1つは明日に回す」と使える時間の中で、適量の仕事をこなすことができます。また、突然仕事を頼まれたり、クレームやトラブルが発生した時のリカバリーも早くなります。
作業を細かく分けることで、手を止めても良い回数(仕事の区切り目)が増えるため、仕事が中途半端になりにくいのです。そのため、頼まれ仕事やクレーム対応を終えるとすぐに元の仕事に戻ることができます。」(p.89)
これは良い方法ですね。最初からタスクを細分化しておけば、1日の作業スケジューリングにも柔軟性を持たせられます。
「最初はもどかしいでしょうが、余計な手出しをせずに成長を見守り、自分でできる喜びを感じさせることが、のちに時間効率を高めてくれます。」(p.104)
子育て、部下育ての王道ですね。実際に4人のお子さんを育てていらっしゃる山本さんの言葉だけに、説得力があります。
「「性相近也、習相遠也」
これは、『論語』に出てくる「生まれ持ったものはほとんど同じだが、身につけた習慣によって大きく差が開く」という意味の言葉です。」(p.120)
「自分の成長につながる行動は、一度限りではなく、繰り返し行う『習慣』にしなければなりません。孔子と同じく紀元前の偉人、哲学者のアリストテレスもこんな言葉を残しています。
「人はものごとを繰り返す存在である。つまり優秀さとは、行為ではなく習慣になっていなければならないのだ」」(p.120-121)
論語の言葉は知りませんでした。忘れているだけかもしれませんが。
いずれにせよ、「習慣」によって人は変わるし、その人を創るのです。このことに関しては、マザーテレサの言葉を思い出します。
「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。 言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。 行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。 習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。 性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。」
習慣化された行動によって人は自分(性格)を創り、それが運命になる。つまり、その人の人生は「習慣」によって決まるとも言えるでしょう。
もちろんその大本は思考であり、言葉です。思考、言葉、行為の3つで創造していると「神との対話」でも言っていますが、その集大成が「習慣」であり、そうなったら人生に多大な影響を与えるということですね。
「ここでは、人生を変えてくれる6つの基礎習慣を紹介していきます。」(p.123)
詳細は本を読んでいただくとして、その6つの基礎習慣を書いておきます。
「計画を立てる」「早寝早起き」「運動」「読書」「心を落ち着かせる(ヨガ、瞑想など)」「新たな人と出会う」
最初の2つはすべての習慣のベースだと山本さんは言います。計画を立てることと早寝早起きをすること。これを習慣化することで、他の4つの習慣化にも役立つし、1日を有効に使えるようになります。
「習慣というのは、例外をなくす方が早く身につきます。「たまには」とか「これくらいは」という妥協は一切しない覚悟を持ちましょう。」(p.124)
特に「早寝早起き」ではそうですね。習慣化されるまでは例外を認めない方が良いように思います。
「良い習慣を身につけることは、すなわち『より良い自分になること』であり、自分の価値を感じやすくなります。三日坊主を経験したことがある人なら、それを乗り越えた満足感と相まって、自己肯定感は高まります。結果的に、ポジティブシンキングが身につき、メンタルが強化されるのです。」(p.129)
自己肯定感を高めるためにも良い習慣を身につけることだ、と山本さんは言います。
「継続は力」と言いますが、何かを習慣化して自己変革に成功したという体験は、大きな力になるでしょうね。
「多くの人が習慣作りに挫折してしまうのはなぜでしょうか? 習慣を身につけたいと思って始めるわけですから、モチベーションが低いわけではありません。何が問題かというと、「成果」を気にしすぎるのがまずいのです。」(p.130)
「習慣を身につけていく際には、成果には目をつむりましょう。成果ではなく、自分がどれだけ時間を費やせたかだけに注目してください。」(p.131)
私はよく「結果に執着せず行為に情熱を燃やす」と言うのですが、まさにそういう姿勢が習慣作りには大事だということですね。
「どちらにしても、ただ単に休むだけではなく、普段使わない部分を使ってバランスを取るように休憩を取ってみましょう。」(p.140)
「私はこれまで1万人以上に教えてきた経験上、「50:10」が最も集中力が保ちやすい、と考えています。50分集中して、10分間休憩するというサイクルで仕事をするのです。」(p.141)
人の集中力は45〜90分間程度だと言われているそうです。だから小学校の授業は40〜45分間で、大学になると90分間という設定なのでしょうね。
私自身の体験では、やはりやる作業によって集中できる時間が違ってくるようです。後で書きますが、読書は面白い小説などなら長時間連続して読めても、そうでなければせいぜい15分間です。何かものを書く時は、30分でも1時間でも集中できたりします。
そういうものだと知って、休憩することもスケジュール化することですね。その休憩も、肉体を使う作業をしたなら頭脳活動が休憩になります。その逆もまた然り。こうすれば、時間をさらに有効に使えますね。
「「セロトニン」という単語を聞いたことがあるでしょうか? これは、脳内ホルモンの名前で、別名「幸せホルモン」と呼ばれています。セロトニンが分泌されていると、気持ちや感情が落ち着き、精神的にも安定します。不足してしまうと、ストレス障害やうつ、睡眠障害などの原因になりうることでも知られています。
ホルモンとは化学物質です。材料を集めて、化学反応を起こせば作り出すことができます。そして、その反応回路は、すでに私たちの体内に備わっています。私たちは材料を体内に入れ、反応のスイッチを押せば、幸せを実感することができるのです。」(p.152)
この「幸せホルモン」の材料はトリプトファンという必須アミノ酸の1つで、食事やサプリで摂取することが必要です。反応を助けるためのビタミンB6も必要で、これは主に魚や肉、果物から摂取できるそうです。
反応のスイッチは、日光を浴びることとリズムカルな運動だとか。したがってこのことから、山本さんは次のように結論づけています。
「つまり、バランスの良い食事をよく噛んで食べ、食後に日光にあたりながらウォーキングやジョギングをすると、セロトニンが分泌され、幸せを感じることができます。」(p.154)
健康的な生活習慣の基本中の基本とも言えるようなことですが、やはりこれを守ることが効率の良い日々を過ごす上でも大事なのでしょう。
「景色をクリアなレンズのメガネを通して見るのと、サングラスをかけて見るのとでは、見え方が異なりますよね。当然、結果として印象が変わります。このように、私たちの感情は、状況や出来事そのものではなく、受けとめ方によって決まるのです。」(p.162)
これは心理学の「ABC理論」の解説部分です。「A:状況や出来事 + B:受けとめ方 = C:見え方(感情)」だそうです。
この考え方は、私の「幸せ実践塾」でも取り入れています。感情(経験)は状況や出来事で決まるのではなく、それに対する見方(考え方)で決まる、というものです。
状況や出来事を変えるのは大変です。だから私は、状況や出来事は変えられない、と思うようにしています。
それよりも簡単なのは、自分の見方を変えることです。それによって、自分が望む感情を引き出すことができ、簡単に幸せになれるのです。
やるべきことがあっても、どうにもやる気が起こらないということは多々あります。そういう時、次の方法を山本さんは勧めています。
「実は、シンプルで、とても効果の高い方法があります。それは『とりあえず、やってみる』ことです。手をつけたいと思えるまで待ったり、やる気が出てくるまで他のことをしようとすると、やるべきことに手をつけるのが、ますます億劫になってしまいます。」(p.165)
勉強する気が起こらなくてマンガ本を開いたら、のめり込んで時間を費やしてしまったなんて経験は、誰にもあることでしょう。だからこそ、そういう方法ではなく、とりあえず勉強をやってみるのです。
これは、ハードルを下げる方法でもあります。
たとえば、ジョギングを習慣化しようとする時、毎朝起きて5kmのジョギングと決めても三日坊主になりがちです。ハードルが高いからです。
これを、服を着替えて玄関まで行ってジョギングシューズを履いたらOK、というようにハードルを下げます。イヤなら無理に走らなくてもいいのです。次に、5kmでなくても、100mで戻ってきてもOKとしておいてもいいでしょう。
こうやって、とっかかりのハードルを下げて、「とりあえず、やってみる」ことだけを自分に強制します。始めてみれば意外と続けて最後までできたりもするものですからね。
「理想的な「1日」を作るのはあなたの決意と行動次第です。自分の働き方、人生をよりよくするために、本書でお伝えしてきた絶対的な「1日」の習慣を、しっかりと組み上げていってください。」(p.197)
山本さんは、最後をこのように締めくくっています。実は、ここまで本のタイトルにもある「絶対的な「1日」」という言葉は出てきません。それに説明もないので、どういう意味なのかいまいちピンときませんでした。
山本さんには申し訳ないけど、本のタイトルで損しているように感じました。これより何度か出てきている「理想的な「1日」」の方がわかりやすいと思ったのです。
まあでも、編集者さんと打ち合わせた結果、創られたタイトルでしょうからね。素人の私がどうこう言うことでもありません。ただ内容が素晴らしいだけに、タイトルがもったいないなぁと思ってしまうのです。
なぜ内容が素晴らしいと感じたかと言うと、こういうハウツーものの本では、読後に1つでも実践されなければ意味がないと考えているからです。この本を読んだ私は、さっそくこの内容を実践に活かしました。
それが、「インターバル読書術」です。私が命名しました。(笑)
要は、15分間本を読んで、続く10〜15分間は趣味の新聞折りをするというもの。これを1クールとして、数クール繰り返します。
こうすることで、集中力を保って読書ができるし、読み終える時間が想定できるし、非常に濃い時間を過ごすことができます。
※15分間の読書は、なるべくそれに近い時間で、キリの良いところまでという設定です。「趣味の新聞折り」とは、介護の仕事で汚物包みに使う新聞を1枚ずつ折りたたんでおく作業です。
この本を読むのにもこれを役立てました。1時間半で読み終えられるとわかり、実際にかかったのは新聞折りの時間を含めて2時間半〜3時間くらいでした。その間は非常に集中していて、大いに成果が上がったと実感できました。
この記事で引用した部分を読み直していただけると、私がどの部分を参考にして「インターバル読書術」を思いついたかがわかるでしょう。
このように、すぐに実践に活かせて成果が挙げられるハウツーものは、非常に素晴らしい本だと思うのです。
2021年12月17日
マンガでわかる 鏡の法則
あの「鏡の法則」がマンガ化されました。
かつて「鏡の法則」をネットで公開したら、読んだ人の9割が涙したことが判明。そこで出版されたのですが、著者の野口嘉則(のぐち・よしのり)さんは、頑なに無料公開を主張されたとか。なので、「鏡の法則」の内容そのものは、今でも無料で見ることができます。
ただ、それによって不明な点も明らかになり、さらに付け加えてできたのが「完全版 鏡の法則」です。
この本は、その「完全版 鏡の法則」を脚色してマンガ化することで、より面白く読めてわかりやすくするものだと思いました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「「必然の法則」というのがありましてね。」(p.42)
「人生で起きるどんな問題も
何か大切なことを気づかせてくれるために起きるんです
偶然起きるのではなくて 起こるべくして必然的に起こるんです」(p.43)
私も常々こういうことを言っています。人生で起こることはすべて必然で無駄がなく、完璧なのだと。そういう視点に立つことが大事なのではないかと思います。
「自分が不完全な人間であるように
父も不完全で不器用な人間であることを理解すること
父の言動の裏にある愛情に気づくこと
してもらっていることに感謝すること
感謝の気持ちを言葉にして伝えること
これって…夫に対してするべき考え方だ!
私はいつしか彼に対して感謝することを忘れていた!」(p.50)
主人公の秋山栄子のセリフを引用しましたが、こういうことなんだなぁと思います。
自分が不完全だと思うなら、他人の不完全さを許したらいいのです。単に自分とは質が異なっているだけなのですから。
そして、親に対して許せない感情が抑圧されていると、それを解消するための現実が引き寄せられるのですね。
「この法則は、仏教の因果応報という考え方をはじめ、世界の伝統的な宗教や東洋哲学の教えの中にも見られます。
そして、人生において困難な問題に直面したときに、この法則の観点から考えることで、その問題に対処するためのヒントを得られることがしばしばあるのです。
つまり私たちは、自らの人生に起きていることを見ることによって、自分の心のありようを推察することができ、それによって、自らを変えるためのヒントを探っていけるわけです。」(p.62)
「「原因」と「結果」の法則」で言われるように、私たちの思考が原因であり、この世の現実は結果であるという考え方があります。「引き寄せの法則」もそれと同様ですね。
そういう法則があるとすれば、この世は自分の思考の鏡像だと言えるのです。そうであれば、その鏡像を見て正すべきは原因である自分の思考だ、ということになるのではないでしょうか。
「「ゆるす」というのは、相手の行為をよしとすることでもなければ、大目に見ることでもありません。また、「相手が悪い」と思いながら、我慢することでもありません。
「ゆるす」とは、過去の出来事へのとらわれを手放し、相手を責めることをやめ、今この瞬間のやすらぎを選択することです。」(p.69)
この「ゆるす」という定義を読んで、ジャンポルスキー氏の「愛とは、怖れを手ばなすこと」に書かれていた文を思い出しました。それを紹介しましょう。
「ゆるしは上に立って行うことでもなければ、自分が気に入らない相手の行動を我慢したり、大目に見たりすることでもありません。ゆるしとは、相手が自分を傷つけたという誤った解釈を正すことです。」(「愛とは、怖れを手ばなすこと」 p77)
つまり、自分の解釈(見方)次第でどうにでもなるということです。だからこそ、自分の見方が自分のために役立っていなかったと認めて、考え方を変えることが「ゆるす」ということなのです。
「あなたが誰かのことをゆるそうとするときに、ゆるす前にやっていただきたいことが二つあります。
一つ目は、相手の言動によってあなたが振り回されたり傷ついたりする状況が、今も続いている場合です。そのような状況が続いているならば、まずは現実的な対策を講じて、あなた自身をしっかり守ってください。」(p.70)
まずはその状況から逃げ出す、ということも含めて、状況を変えるということですね。相手との境界線を引いて、自分自身を守ることです。今の状況が続くことで耐えられない苦痛があるなら、逃げることですよ。
いじめを受けている時もそうです。耐えられないなら、学校や会社へ通うということをやめるという選択肢があることを、ぜひ知っておいてほしいです。
「ゆるす前にやっていただきたいことの二つ目は、感情を吐き出すことです。相手に対する怒りやうらみ、あるいは、相手との関係の中で自分の中に生じた悲しみや苦しみなどを、外に吐き出す必要があります。」(p.72)
感情を抑圧することが問題だということは、お勧めしている「神との対話」でも言っています。
ただ、感情を吐き出すと言っても、相手に怒りをぶつけることではありませんよ。自分の外に出して、つまりはしっかりとその感情を味わって、受け入れることです。
「また、親が子どもに、「あなたの人生なのだから、あなたが自由に決めたらいいのよ。私は干渉しないよ」と言葉ではいっておきながら、親にとって受け入れられない選択を子どもがしたときは、ため息をついたり、悲しい表情になったり、不機嫌になったりして、間接的に子どもに干渉し、子どもを意のままにコントロールするケースもあります。」(p.130)
これは実際によくあります。話してみると、自分はわかっているかのように言うのですが、行動がまったく伴わないケースですね。
そういう人は、実際はよくわかっていないのです。だから「知行合一」になっていないのです。
「つまり、子どもの反抗期というのは、子どもが自立していくために通る関門であるとともに、親が子離れをして自立していくために通る関門でもあるのです。」(p.132)
最近は「親離れ」だけでなく「子離れ」という言葉も、ふつうに使われるようになりました。子どもに依存してしまう親の問題は、以前からずっとあったのです。
「まず一つ目のこと、つまり、親との間にどうやって境界線を引けばよいかについてお話ししましょう。
今も親から干渉されることが多いようなら、まず物理的に距離を取るのが有効です。」(p.136)
同居しているなら、まずは別居することです。一人暮らしを始めることです。逃げることです。それが境界線を引くということですね。
「そこで、親に対して「ノー」ということが必要になってきます。「いろいろ心配されるのは負担だからやめてほしい」「ほうっておいてほしい」「私の人生に干渉しないでほしい」といったメッセージをはっきりと」伝える必要があるのです。」(p.137)
「それと同時に、何かの選択をするときに、親の期待に応えようとするのをやめ、自分の気持ちをできるだけ優先して選択するようにします。
親が望んでいないことであっても、自分がしたいことがあるのなら、それを選ぶことにトライしてみるのです。」(p.137)
子どもの反抗期というのは、親の期待(望み)よりも自分を優先するための通過儀礼なのかもしれませんね。
「罪悪感を抱えつつ親の期待を裏切っていく覚悟、罪悪感を味わいながらも親をがっかりさせていく覚悟が必要なのです。」(p.139)
「お話ししたように、親に対する怒りを抑圧していると、その怒りが自分に向かうようになり、自責の念や自己嫌悪に悩まされるようになってしまいがちです。」(p.141)
アドラー心理学の解説本で、「嫌われる勇気」という本がありますが、まさにそういうことですね。
たとえ嫌われるとしても、それを受け入れることです。そこに踏み出す「勇気」が必要です。
アドラーは「課題の分離」と言っていますが、相手の課題にむやみに立ち入らないこと、自分は自分の課題を優先的に考えることが、何よりも大切なのです。
先に引用したように、野口さんは、まずは境界線を引くこと、次に感情を外に出すことが大切だと言います。
「この二つの作業に取り組むことによって初めて、親を心からゆるすことができます。親の呪縛から解放されることによって初めて、親に心から感謝することができます。親と適度な距離を取ることによって初めて、無理のない、幸せな親子関係を築いていけるのです。」(p.143)
人間関係において大切なのは、どんなに親しい関係であっても、自分という枠を守ることなのでしょうね。それがあって初めて、他人を受け入れる、つまり「ゆるす」ということができるのです。
「もしもあなたが、誰かに対して「どうしてもゆるせない」という思いを強く持っているなら、その人に対して「ゆるすための8つのステップ」に取り組もうとは思えないかもしれません。あるいは、取り組み始めたもののステップ3以降に進めない、といったケースもあると思います。
そんなとき、ゆるすことができない自分を責めないでください。自分が深く傷ついていることを理解し、ゆるせない自分をゆるしてください。」(p.153-154)
野口さんが、他人をゆるすための8つのステップというものを紹介しています。しかし、そのゆるしのステップに進めないという感情が自分の中にあるなら、それを受け入れることが大切だと言うのですね。
ただ、そうやってゆるせる気持ちになって、相手にその思いを伝えた時、相手がそれを受けとめてくれないこともあります。
せっかく感謝の気持ちを伝えたのに、受け入れてもらえない。そういうことはよくあります。そういう時のために、知っておくべきことがあります。
「感謝の言葉や謝る言葉を伝えるときは、見返りを期待せず、相手に伝えることだけを目的にすることをおすすめします。相手が受け取ってくれようとくれまいと、伝えることができたらそれでOKとするのです。
もしも拒否されたなら、それは、相手がそれだけ傷ついているということです。それは相手の弱さなのです。あなたが責任を感じる必要も、あなたが巻き込まれる必要もありません。」(p.156)
これもまさに「課題の分離」ですね。そして、「神との対話」でも言うように、結果に執着せずに、行為に情熱を燃やすということです。
「人生で起こるどんな問題も、何か大切なことを気づかせてくれるために起こります。そして、あなたに解決できない問題はけっして起きません。
あなたの人生に起きる問題は、あなたに解決する力があり、そしてその解決を通してより幸せな人生を築いていけるから起こるのです。」(p.157)
これが、野口さんがもっとも伝えたかったことだと言います。だから、安心していていいのです。すべてのことは必然で無駄がなく、最善で完璧なのです。
改めてこの「鏡の法則」は素晴らしいなぁと思いました。
すでに多くの方に読まれていますが、さらに多くの方に、もっともっと多くの方に、ぜひ読んでいただきたいと思うのです。
2021年12月21日
かみさまは小学5年生
話題になっていたので気になりました。レビューを読むと、批判的なものも多くありました。その中に、神様の大半がお酒好きで飲兵衛だという話があり、それはあり得ないだろうというもの。
お勧めしている「神との対話」の考え方からしても、それはちょっとあり得ないと感じる部分も多く、買って読むまでの内容ではないと思いました。しかし、神様は飲兵衛だというのも面白し、この子(著者のすみれちゃん)は自分が見たものを正直に語っているだけだとも思えたので、まずは自分で読んでみてから判断しようという気になったのです。
この本は、すみれちゃんが書いたメッセージや語った言葉が書かれていますが、それだけではありませんでした。イラストを描かれているのは絵本作家ののぶみさんで、のぶみさんとの対談も載っています。のぶみさんの絵本は、「このママにきーめた!」などをこのブログでも紹介しています。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「だけど、かみさまの国はいいかみさまの国だけではない。
悪いかみさまの国もある。
その国には、悪いかみさまや、悪い天使さんや、
悪いたましいがくらしている。
悪いかみさまたちは、
悪いことをする人たちを、おうえんしている。」(p.24)
こういうところが、ちょっと受け入れられないなぁと感じます。
たとえば、一方では神様の国同士の戦争はないとも言っているのです。これって矛盾しますよね。
もし、遊びとして善と悪に分かれているなら、競い合うことを楽しんでいるとも言えます。でもそうなら、悪いことをすることも良いことになりませんかね?
そもそも、「良い」も「悪い」も価値基準次第です。そうであれば、何ら基準も示さずに「良い」「悪い」と言い、まるで絶対的な価値基準があるかのような内容は、論理的に破綻するしかないのです。
「かみさまも人間といっしょで、好みもあれば個性もある。
でも、共通するのは、
おもしろいってことと、お酒が大好きということ。」(p.26)
神様はほとんどが男性で、数少ない女性の神様がすみれちゃんなのだそうです。しかも、すみれちゃんが所属する国では、すみれちゃんが最高神なのだとか。また、神様はメタボで、ダイエットに励んでいるというような話もありました。面白いけど、そのまま受け入れることはできないなぁ。
「えらいかみさまは、下の階級のかみさまたちにいろいろ教えたりする。魂はさらに下にいて、かみさまになるためには地球にきて修業をするんだよ。」(p.35)
のぶみさんとの対談に書かれていますが、神様の世界は階層になっており、上位が神様、次が天使、最下層が魂のピラミッド構造になっているそうです。
こういうのも、「神との対話」と比べると論理性がなく、受け入れがたい内容ですね。
「まず、幸せに生きなきゃはじまらない。
人生は幸せではじまり、幸せでおわる。
えがおではじまり、えがおでおわる。
おわりはやっぱりくいなく
空の上(かみさまの国)に行きたいよね。
ならくいなく幸せに生きなきゃね。
「あ〜たのしかった」ってかみさまの国で じまんできるくらい。」(p.48)
「人間って経験するために生きてるけど、
幸せでたのしく生きるために、
地球におりてきてるっていう意味もある。」(p.49)
唐突な言葉ですが、こういうところには「神との対話」に通じるものを感じます。
まず重要なのは、何があってもなくても幸せという在り方を選択することですね。
そして、人生とは経験のためにあるということ。先ほどの修行とは矛盾するのですが、同じことの別表現という面もあるかなと思います。
「相手をマネしなくていいんだよ。
相手がカッコよく見えても、
マネしてあなたがあなたじゃなくなったらダメ‼」(p.64)
自分に正直であること、自分らしく生きること。大事なことですね。
「亡くなるっていうのは、
全部やりとげたから亡くなる。
亡くなるのは、ぜ〜んぶ必然‼
偶然で亡くなる人なんていない。
事故でも病気でも全部が必然。
だから亡くなるってことは、
もうその人は全部をやりとげたっていうこと‼」(p.138-139)
そうであれば死を悼む必要はないし、むやみに怖がる必要もないってことですよ。
こういう「神との対話」にも通じるようなメッセージが、唐突に現れてきます。やはり、本当のことが見えているんだなぁと感じます。
「神との対話」シリーズを熟読し、その論理性に魅せられている私からすると、そのまま受け入れられる部分はわずかでした。
けれども、すみれちゃんが正直に、自分が知っていることを語っていることは感じました。おそらくすみれちゃんには、そう見えたのでしょう。
実際、「神との対話」でも、たくさんの神の世界があるような話もあります。階層構造になっているということですね。
これは、ミクロからマクロまでの物質の構造を見ても明らかです。原子の中の原子核と電子の関係は、宇宙の中の太陽と惑星の関係と同じではありませんか。
ただ、そういう階層構造が神の世界にあるとしても、今、この相対的な世界で生きる私たちには、あまり関係がないことだと思います。なので私は、その部分を正確に知ろうとは思いません。
神様が飲兵衛だったら面白いな。仙人もたいてい飲兵衛で遊び好きだし、私も神様になれる素質があるのかも。(笑)
2021年12月22日
最高の幸せは、不幸の顔をしてやってくる
SNSで何人かの人が紹介していた本です。タイトルからして内容はわかるので、私にはもう十分かなと思い、買わずにおこうと思っていました。
しかし、あまりにこの本の紹介を目にするので、これは私へのメッセージかもしれないと思い、その直観に従って買うことにしました。
結果は、大正解でした!
たしかに、私にとっては既知の内容ですが、著者のしんちゃんの視点からの表現は新鮮で、改めて「そうだよなぁ」と共感することが多々ありました。
それに、多くの人が紹介されているように、この本は最幸です!
私も、この本を多くの人にお勧めしたいと思います。なぜなら、より多くの人に幸せになってほしいから。
内容を紹介する前ですが、これが結論です。読んで損はないばかりか、絶対に得します。騙されたと思って読んでみてください!
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介します。
「ただ、「自分を追い込むようなつらいことはしない!」
そう決めたことから、僕の人生の快進撃が始まりました。
今ではありがたいことに、年間、ほぼ365連休の気持ちで生きています(笑)。
そんな僕が、ふたつだけ、心に決めていることがあります。
それはまず、はじめに自分が幸せになること。
次に、自分から溢れた分の幸せで、目の前の人を笑顔にすること。」(p.6)
自分のことを「何もできないヤツ」と言うしんちゃんですが、自分に優しくして、まず自分が幸せになると決めているそうです。
お勧めしている「神との対話」でも、まず最初に「在り方」を決めて、それを原因として行動する、と言っています。しんちゃんの言ってることは、まさにその通りだなぁと感じました。
しんちゃんが目覚めたのは、高校で野球をやっていて、それに挫折したことがきっかけでした。
3年生の大事な大会の直前に、右肘を負傷して投げられなくなった。その後、幼馴染の上重くん(現在は民放のアナ)がPLの松坂投手と投げ合う試合をTVで観たのです。
「友達ならやっぱり、「頑張れ!」って思いたいじゃないですか。
心の底から応援したいじゃないですか。
でも……僕はそのとき、はずかしいんですけど、そう思えませんでした。
だって上重君……眩しすぎるんやもん!
眩しすぎて、テレビ観てるの、辛かったんやもん!
とはいえ、大事な友達の活躍を素直に喜べない、自分の心の貧しさ……。
それは、どうしても嫌でした。
だから、本気で思ったんです。
「自分を変えたい!」」(p.42)
本来なら応援すべき友人の活躍を喜べない自分に気づいたのですね。そして、その嫉妬する自分の気持ちに向き合った。
相手や環境を変えるとか、蔑んで溜飲を下げるようなことはせず、素直に自分を変えたいと思った。こういう気付きが、しんちゃんの凡庸ではないところかと思います。
そこでしんちゃんは、対戦相手の松坂投手のようになることを決意します。人々に夢を与えられるプロの投手になろうと。
それまでの最高スピードが108km/hの凡庸な野球選手が、一流の選手に憧れ、プロを目指そうとしました。
「そう思ったら、沈んだ気持ちがフワッと浮き立って、急にワクワクしてきたんです。」(p.44)
怪我をして投げられない状態でのことです。当然、今すぐ練習することもできないし、もう高校生活は終わるのです。
そんな状況であってもワクワクが止まらず、できることをやろうとします。それが、松坂投手のビデオを繰り返し徹底的に観て、イメージを完全にコピーすることだったそうです。
そう言葉にすれば簡単なことのように思えますが、実際はそう簡単ではないと思います。それを徹底してやれるのがしんちゃんの非凡なところでしょう。
それから1年後、医師の許可が降りて投げてみたら、なんと145km/hのスピードが出せたとか。イメージトレーニングの成果です。
親は好きな道を進めと言って、大学にも進学せずに野球の練習に打ち込む日々を許してくれたそうです。それから26歳まで、1人で練習を続けてプロを目指したのです。
ここまで読んで、やっぱりしんちゃんは普通の人ではないと思いましたよ。こういう気付き、発想、行動力がすべて、しんちゃんの非凡さを示しています。
ですから、いくらしんちゃんが自分は凡庸な人間であるかのように言っても、そのままは受け取れませんね。(笑)
しかし、そんなしんちゃんも、それで順風満帆の人生を過ごしたわけではありません。
プロ試験を受けようとするたびに、故障や様々な障害があって、合格できずにいました。そして26歳になってプロのスカウトに見てもらった時、その年で経験がないというのは致命的だから、プロを諦めるようにと引導を渡されたのです。
大いなる挫折ですが、そのことも幸せのはじまりだったとしんちゃんは言います。
「夢・目標を追わなくても、人はものすごく幸せになれる。
なぜなら僕は、この後、「夢・目標を追わないスタイル」になったんですが、すると、想像を遥かに超える幸せがどんどん叶うようになったんです。しかも、ありえないくらいのスピードで。」(p.67)
「夢・目標が叶ったところを幸せのゴールに設定したら、夢・目標が叶わなかったら、永久に幸せになれないんですよね。」(p.74)
目標達成型の幸せは、それはそれで素晴らしい面があります。オリンピックの金メダルを目指して苦労を重ね、それが報われた時の幸せは、何ものにも代えられない最高の体験だし、私たちに感動を与えてくれます。
しかし、それを叶えられるのはごくわずかな人だけ。多くの人は夢を叶えられずに挫折感を味わいます。
26歳まで仕事経験がないしんちゃんですが、野球を諦めた以上は、何か働いて食べていかなくてはなりません。
安定して暮らしていくために選んだのは、保険の外交員。そのために、フィナンシャルプランナーの資格「FP技能士2級」の試験を、ほとんど勉強もせずに受けました。
「絶対無理やと思ってたのに、一発合格。
野球はあんなにやってもアカンかったのに……。
だから、「この方向で行け」ということなのかな、と思ったんですよね。」(p.91)
こういう直観に素直に従えるというのも、しんちゃんの素晴らしい資質かと思います。
しかし、それで上手くいくわけではないところが、人生の面白いところです。入社した会社がひどかった。お客様そっちのけで、売上ばかりを追う社風の会社だったのです。
人を幸せにすることを考えて選んだ職業だったのに、現実はそうではなかった。そこでしんちゃんは、入社2ヶ月で退職し、独立することを決断します。
もちろん、将来に不安もあったし、プロポーズしてOKをもらったばかりのパートナーに何と言われるかも不安でした。けれども、自分の生き方を貫きたかったのでしょう。
「そしたらエリちゃんは笑って、「しんちゃん、大丈夫や」。
「最近、うちの前の空き缶集めに来てくれる浮浪者のおっちゃんらだってメタボやん。だから二人で浮浪者になっても食べていけるよ! ハッハッハー!」と。」(p.98)
しんちゃんもスゴイけど、パートナーのエリちゃんもすごい! めっちゃアゲマンじゃないですか。「神か!?」ってレベルの反応ですよ。
実は、私にも似たような経験があります。
リストラされた時です。妻にどう伝えるか、妻の反応が怖かった。でも、その心配は杞憂でした。妻は、リストラされたことを伝えた私にこう言ったのです。
「ソムナムナー!(ざまあみろ)!」そう言って笑ってくれました。途端に肩の荷が下りました。嬉しかったなぁ、笑ってくれたことが。それで、「よし、やっていける!」って思ったのです。私の妻もアゲマンですね。まだそんなに儲かってはいませんが。(笑)
独立しても、すぐに上手くいくわけではありませんでした。保険の営業というのは、相手から契約がもらえなければ商売あがったりです。相手の意に反して契約を取ろうとすれば、前の会社と同じこと。しんちゃんは悩みます。
「そもそも、なんで今のやり方が楽しくないのか? しんどいのか?
考えてみたら、相手の気持ちをこっちがコントロールしようとしてるからなんですね。」(p.117)
思い通りにならない他人を思い通りにしようとすること。それが苦の原因です。
そこでしんちゃんは、結果に執着するのを諦めました。結果がどうであれ、楽しい気持ち、ワクワクする気持ちで仕事をすることを選んだのです。
会う人を笑顔にする。それができたらその日の営業は○。そう考えたら、ワクワクしてきたと言います。
そしてそのために、松坂投手になろうとした経験を思い出して利用することにしました。イメージを使うのですね。
まずは自分が幸せのシャワーをたっぷり浴びて幸せになり、その幸せを出会う人におすそ分けする。
「ポイントは、「相手に何を言って喜ばそう?」とか、頭を使って考えないこと。頭を使って考えると、また相手の気持ちをどうこうしようと計算したくなるんですね。
だから、言葉は使わずに、もう、めっちゃいい笑顔をピカ………っ!
それだけをイメージするようにしたんです。」(p.121-122)
方法論を理屈で考え出すとダメなんですね。それは、相手をコントロールしようとすることにつながるから。
そうではなく、ともかくまず自分が幸せになって、その幸せを根拠に、相手を喜ばせたいという思いだけで行動することです。
しんちゃんが始めた保険外交員というのは、新規の契約をもらうことで報酬が得られます。たとえ何年も継続してもらっても、それでは報酬にはならないのです。
「だから、常に新規のお客様を探さないといけないわけです。そうなると、「来月はお客様がいない」「再来月はいない」と、常に「ない」状態を見ることになる。だから、いつもものすごく不安だったんですね。
でも、「ああ、今、幸せやん」からスタートすると、不思議と「ない」じゃなくて、「ある」が見えるようになりました。」(p.124)
不安(心配)というのは、まだ実現していない未来に対するものだけです。そして未来は、常に不確定です。
だから、不安視しようとすれば、いくらでも不安になれます。逆に、安心しようとすれば、いくらでも、つまり根拠もなく安心していられるのですね。
「ただ、宇宙ではすべてのエネルギーが循環するらしい。
だから、自分が不安なエネルギーを放つと不安が還ってくるし、強烈な喜びのエネルギーを放つと強烈な喜びが還ってくる。
宇宙にはどうも、そういうルールがあるみたいなんです。」(p.126)
投げかけたものが返ってくる。これは、小林正観さんやバシャールなども言っていますし、お勧めしている「神との対話」でも言っていることです。
「身近な大切な人を笑顔にすると、応援してくれる人が現れる。
これが、僕が信頼し尊敬するお客様から教えていただいたこと。
僕が、あなたにお伝えしたい、人生のステージがガラッと変わる法則です!
人生のステージがかわるとどうなるかというと、幸せがやってくるスピードが速くなります。」(p.140)
「ただ、大切な家族の楽しそうな顔を見ると、僕自身がうれしくて上機嫌になる。
自分が上機嫌だと、溢れる分の幸せが増えて、家族も幸せにできるし、お客様も笑顔にできる。」(p.142)
「自分の笑顔が先。家族の笑顔が先。そうすれば、お客様も笑顔にできる。
どうも、この順番が大事みたいなんです。」(p.142)
「宇宙では、すべてのエネルギーが循環している。
だから、自分が放ったエネルギーがやがて自分の元へと還ってくる。
だとすれば、自分の大事な人をとことん大事にする人のところには、同じタイプの人たちが自然と集まって、「あなたが大事です」というエネルギーを循環し合うのかもしれない。
だから、どんどん幸せになるスピードが加速するのかもしれない。」(p.150)
「ちなみに、一番身近な人って、自分です。
自分を幸せでいっぱいに満たして、はじめて、幸せが溢れ出します。溢れた分の幸せで、人様を笑顔にできます。
なので、順番としては、まず「幸せのシャワー」で、毎朝、自分を満たす。」(p.151)
お金を稼がせてくれるのがお客様だからと、お客様を第一にしていてはダメなのですね。
もっと身近な人、パートナーとか家族とかをより優先して大事にする。さらに優先すべきは自分自身。だから、まずは自分が幸せになることを第一に考えなくてはならないのですね。
そのための手法の1つが「幸せのシャワー」。朝、シャワーを浴びる時に、お湯ではなく幸せを浴びているのだとイメージすること。ここで、松坂投手になるとイメージして実現したことが生かされています。
「とはいえ、オーナーとして意識していることが、4つあります。
1つめは、スタッフには自由にしてもらうこと。
僕が保険で独立したのは、自分の信じるようにやりたかったからです。僕が自由に生きているのに、スタッフを縛ることはできません。だから、もし、「しんちゃんとは、もう仕事をしたくない」となったら、遠慮なく言ってほしいとお願いしてます。」(p.168)
実家の古民家を、ふぐ料理屋に改装して活かすことになったしんちゃんは、料理や接客などはスタッフに任せて、自分はオーナーに徹することにしました。ただオーナーとして、4つのことを意識していたと言います。
その第1が、スタッフに自由にやってもらうこと。私も妻に、同じようなことを言いました。「あなたは自由だから。もし嫌になって別れたくなったら、いつでも別れてあげるから」と。
2つ目は、お客様に深く喜んでもらうことを考えようという意識を、スタッフにも共有してもらうこと。3つ目は、お客様に喜んでもらうために、コストカットはしないこと。そして4つ目が、逆ピラミッド構造で考えるということだそうです。
「現代の社会構造って、ピラミッドの上から下にかけて、上が社長、下がスタッフ・従業員というふうになるんでしょうけど、僕は逆のピラミッドをイメージしてるんです。自分が一番底である、と。
そう見ることで、スタッフみんなのことを「あ〜、僕が30年間住んだ実家を守ってくれる神様だ」と見れるんです。実際にそうですしね。
こう見れると、スタッフみんなには、ほんと感謝の気持ちしか湧いてこないんです。」(p.171)
下座に降りると言いますが、しんちゃんは誰から教わるわけでもなく、こういう発想ができるのですね。これも、しんちゃんの非凡さを示しています。
順風満帆に思えたしんちゃんの人生ですが、ここで奈落の底に突き落とされます。会員制のフグ料理屋で肝を扱っていたことが、大阪府の条例違反ということで逮捕され、厳しい取り調べを受けることになったのです。
その時、妻から差し入れされたのがひすいこたろうさんの「ものの見方検定」という本でした。しんちゃんはそれを読んで、過酷な留置場での暮らしの中で、その教えを生かしてみようと考えました。
「なるほど、確かに、僕が今いる場所は、人として入ったらアカン最悪の場所や。
せやけど、見方を変えれば、セレブが万札を高々と積み上げても入れない場所やな。
ってことは………特別!?
え……この経験って、めっちゃユニークで、特別なことちゃうのん!?」(p.188)
「起きてしまった現実は変えられない。
けれど、ものの見方は変えられる。
ものの見方を変えて、自分が上機嫌でいれば、周りにも上機嫌が広がっていく。そして、現実がいいほうに変わっていく。」(p.192−193)
これがしんちゃんの留置場の実体験だったそうです。そしてこの体験が、ひすいこたろうさんとの縁につながり、出版にもつながっていくのです。
「と、こんなことがあって、僕、改めて、自分のこれまでを振り返ってみたんです。
そうしたら、短い目で見たら不幸に見えることも、長い目で見たらものすごい幸せに繋がっていることが多かったんですね。」(p.208)
最大の不幸が、最大の幸せの始まりかもしれない。「人間万事塞翁が馬」の故事で翁が言った、「これが吉兆とならないとも限らないから」という言葉が思い起こされます。
「不幸に見えることも、ぜんぶ含めて幸せ。
そう見れると、何があっても楽しくいられそうですよね。
大事なことは、自分を幸せで満たすこと。
あとは力を抜いて、宇宙にお任せしていればいいんじゃないかなぁ。」(p.211)
だから大丈夫なんですね。そう達観していれば、目の前を一見、不幸そうなことが通り過ぎても、それすら楽しく眺めていられます。
「しかも、見返りがない期間が長ければ長いほど、飛び込んでくる契約の額が大きくなるみたいなんです。これって、すごくないですか!?
これが、僕の気づいた「あさっての法則」です!」(p.212)
「そうすれば、投げかけたエネルギーは、やがて必ず戻ってくる。
なかなか戻ってこないときは、宇宙のどこかで、利息がいっぱいついています(笑)。
だから、奇跡の扉を開けたいなら、ワクワクしながらただ自分を幸せで満たして、目の前の人を笑顔にすることだけに専念する。それだけでいいんです。」(p.213)
お客様を喜ばせても、そのお客様が直接、保険の契約をしてくれるとは限りません。たいていは、その方が他の人を紹介してくれたり、別のお客様が契約してくれたりして、だいたい与えたものが還ってくることが実感できたそうです。
しかし、時にはいつまでたっても見返りがない、ということもあったとか。そんな時でもお客様を喜ばせることを続けていると、突然ドカーンと大きな契約が舞い込んでくる。
しんちゃんはこれを「あさっての法則」と読んで、長い目で見れば与えたものが還ってくると言うのです。
「でも、ここが大事なところで、自然の法則は「ギブ アンド テイク」になっていないんです。ただギブするだけ。「ギブ アンド ギブ」なんです。だからもしプレゼントが来るとしたら、自分が「ギブ」をしたところではない、あさっての方向から来るんです。」(p.216)
こういうことがわかっていないと、つい、与えた相手から見返りを求めたくなってしまうのですね。
「不安な気持ちでいると、宇宙に不安のエネルギーを放つことになるので、やがて不安なエネルギーが自分のところに戻ってきます。
だから、心配はホントにしなくていいんです。」(p.217)
与えただけで戻ってこないんじゃないかという不安も、また1つのエネルギーですからね。与えたエネルギーは、循環するのです。
「夢・目標を持って進むのは、目的地として「認識できる星」に向かうということだと思いますが、あなたの最高の幸せは、今は「認識できていない星」にあるかもしれないんです。
そう考えると、夢・目標を持つのは、あなたの幸せの幅を狭めることになるのかもしれない。自分で、自分の幸せの上限を決めることになるのかもしれない。」(p.230)
夢や目標を持つことの問題点は、1つにはそれを得られるまで幸せになれないということがありました。そしてもう1つは、他にもっと幸せになれる道があるのに、それを見逃してしまうという問題ですね。
宇宙(魂、神)は自分を最大限に生かしてくれると信頼していれば、すべてをお任せすることができます。そして、そうした方がものごとがスムーズに行くとしんちゃんは言うのです。
「幸せで始めたから、トップの地位に運んでもらえたんです。
ものごとって、きっと、自分が幸せになるとうまくいく。
成功したから幸せになるわけじゃなくて、幸せだから成功するんです。」(p.234)
「神との対話」でも、所有が存在(在り方)を決めるのではなく、在り方によって所有が生まれるということが書かれています。幸せという在り方からスタートすれば、成功が所有できるのです。
しかし、だからと言って、無理にポジティブになろうとしてはいけません。それは、今の自分を否定することですから。「神との対話」でも自分に優しくと言っていますが、しんちゃんも同じことを言います。
「自分に優しくしてください。めちゃくちゃ優しくしてください。
スタートは「自分は幸せだ」と決めることなんですが、幸せだと決めても、しんどいときはあるし、「それはいやだな、やりたくないな」ということにも、きっとたくさん出会います。
そんなときは、素直に心の声を聴いて、自分に寄り添ってあげればいいんです。
みんな、人との関係が、人間関係がとっても大事っていうけど、まずは一番近くの人である自分自身との関係を優しいものにしてあげてください。」(p.235)
しんどいならしんどいと認めること。無理をするということは、今の自分を否定することですからね。今はそれでよいと受け入れることですよ。
「10年以上、毎日「幸せだなぁ〜」と思い続けてたら、もうどうやっても、幸せにしかなれないです(笑)。」(p.237)
これはいわば洗脳でもあります。自分で自分を洗脳するのです。自分は幸せなのだと。
この考え方の習慣が身につけば、何があろうとなかろうと幸せでいられますからね。
こういう生き方が最初からできてしまうのは、やはりしんちゃんの非凡なところだろうと思います。
けれども、だからしんちゃんが特別で、他の人には不可能だ、などとは思いません。もちろん、イメージトレーニングで松坂選手のようになるなんてことは、できないかもしれませんけどね。(笑)
けれども、考え方の習慣というのは、日々のちょっとしたことに意識することで変えていけると思っています。
最初から諦めない限り、ちょっとでいいから前に進もうと思い続ける限り、誰にでもできると思うのです。
そういうメッセージを、自らの半生によって示してくれたしんちゃんは、私たちにとって重要なメッセンジャーだと思います。
だからそのメッセージを受け取って、次は自分が実践し、次の人たちへのメッセンジャーとなる生き方をする。そういう気持ちになるだけで、この本を読んだ意味があると思うのです。
あなたも、ぜひ、これを実践してみませんか?
2021年12月26日
藤井聡太のいる時代
将棋界を大きく盛り上げた1人の青年がいます。それが藤井聡太竜王。(2021年に最高峰の竜王タイトルを取られたので、竜王の肩書をつけてお呼びします。)
まだあどけなさも残る20歳にもならない好青年。しかし、いったん将棋盤に向かえば、並み居る強豪の先輩騎士たちに怯むことなく立ち向かい、驚きの指し手で打ち負かす。
「AI超え」。AIが非常に強くなってプロ棋士でさえ負けることが増えたこの時代において、そのAIの読みを超える指し手を繰り出すのが藤井竜王。AIは最初、その指し手を低く評価するものの、読みを深めていくと急に高評価に転じる。AIが追いついていない。AIを超えた。そう驚きを持って「AI超え」と評される藤井竜王の指し手は、将棋をそれほど知らない人をさえ虜にしてきました。
どういう人なんだろう? どんな育ち方をしてきたのだろう? ふだんはどういうことを考え、どういう生活をしているのだろう?
藤井聡太という人間性に魅力を感じると、もっともっと知りたくなる。
そういう思いが高じて、この本を買ってみました。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「興味を持ったことは、何でも気が済むまで自由にやらせてみよう。
これが、夫婦の子育てのモットーだった。「意見は言いますが、『こうしなさい』と強要はしません。嫌なことはずっと続かないと思いますから。」(p.18)
藤井竜王のお母さんは、教育熱心な親によって幼いころから習い事を強要されたのでしょうね。そのことへの反発もあり、自分の子どもは自由にのびのびと育てようとされたようです。
聡太少年は、好きなことには時間も忘れて一心不乱に熱中する性格だったようで、両親はそれを止めるようなことをせず、思うがままにやらせたのです。
「この幼稚園は、イタリアの医師マリア・モンテッソーリが確立した「モンテッソーリ教育」を実践している。「子どもは自ら伸びたいという強い願望を持つ」という信念に基づき、一人ひとりの興味を尊重し、個々の感性や自主性を育むことを重視する教育方法だ。大人は、子どもが1人でできるように手伝う姿勢で見守る。
園児の成長にあわせて「教具」が用意され、園児にはそれぞれが遊びたい教具を使わせ、気が済むまで繰り返して遊ばせている。年少から年長まで縦割りでクラスを編成し、異なる年齢の園児たちが一緒に過ごすのも特徴である。
だが、聡太の両親は、入園前からモンテッソーリ教育に関心があったわけではない。母の裕子によれば、モンテッソーリ教育は幼稚園入園後に初めて知ったそうだ。幼稚園が自宅から近く、偶然、事前に見学した際に施設が気に入ったので、入園を決めたという。」(p.19)
自由に育てる特殊な教育方針の幼稚園に通った聡太少年でしたが、それは偶然なのですね。
しかし、両親の教育方針とも符合しており、導かれたと言うべきかもしれません。
ただ、だからと言って、そういう教育を受けたから今の藤井竜王がある、とは言い切れません。そういう教育を受けた少年少女は、他にもたくさんいるのですから。
「当時の園長は、聡太が6歳の誕生日会で将来の希望について聞かれたとき、元気よく「将棋のプロ棋士になりたい」と答えたのを覚えている。誕生日につくったカードには「しょうぎのめいじんになりたい」と書いていた。
この誕生日会の約1年前、聡太は将棋と出合っていた。」(p.20-21)
わずか4〜5歳で将棋を始めた聡太少年が、1年後にはプロ棋士になって名人になりたいと希望を述べています。このことは、私自身のことと重ねてみても驚きです。
私が将棋を初めて指したのは、小学校低学年くらいではなかったかと思います。2年生か3年生か。父が相手でしたが、何度指しても負けてしまう。それが悔しくて、約600円の小遣いで2冊の将棋の本(当時はたしか1冊が280円か320円くらいでした。)を買い、勉強したのを覚えています。それが小学4年生くらいだったか。
それくらい熱中はしましたが、プロ棋士になろうとはまったく思いませんでした。自分には無理だと思ったのではなく、そもそもそういう夢を持たなかったのです。
そのことからしても、いきなりプロ棋士になりたいと夢見た聡太少年は、やはりなるべくしてなったのだろうと思うのです。
「文本は、日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」に入会する直前にあいさつに訪れた小学4年の聡太に対し、「名人をめざすのではなく、名人を超えてみせろ」と伝えた。
のちに地元ラジオ番組に出演した聡太がこう宣言するのを聞いた。
「名人を超えたい」」(p.24)
聡太少年が本格的に将棋を習ったのは、5歳のころに通った「ふみもと子供将棋教室」だそうです。日本将棋連盟瀬戸支部長の文本力雄氏が指導する教室に週3回通って、聡太少年はさらに腕に磨きをかけていきます。そして小学4年の時、プロ棋士を目指すべく奨励会に入会しました。
その時、夢は「名人になりたい」から「名人を超えたい」に変わったようです。素直に他人の言葉を受け入れるという性格があるのかもしれませんが、おそらく自分の感覚にぴったりだと感じたのでしょう。
他人との比較による相対的なものではなく、将棋における究極の強さ、絶対的な強さを目指すという方向性は、このころ固まったのかもしれません。
「杉本が、聡太の指導で心がけたことがある。自分の将棋の癖をつけさせない方が良いと考え、直接教えることを控え目にしたのだ。代わりに幅広い人脈を生かし、有力棋士たちとの練習将棋という実践を通じて学ばせた。」(p.44-45)
師匠の杉本氏も、聡太少年を自由にさせたそうです。直接指導すれば、どうしても自分の型にはめてしまうことになる。それでは、自分以上に大きくはなれない。自分よりも卓越した才能を聡太少年に感じていた杉本氏は、学ぶ機会を与えることに徹して、才能が開花するままに任せたのです。
「聡太はデビュー11連勝の時、「望外の結果」と感想を語った。通算50勝の時は「節目(せつもく)の数字となった」。同じ意味でも「ふしめ」とは読まないところに、非凡さを感じさせた。
「漢字が好きでしたね。小学校低学年の頃、電子辞書の中に入っていた漢字検定の問題を私と一緒に解いていました。気づいたら、大人が読むような本も読んでいました」
母方の祖母の清水育子は、そう振り返る。幼い頃の聡太は、隣に住む祖父母の家が遊び場だった。」(p.71)
聡太少年が好んで読んだのは、司馬遼太郎などの歴史小説。沢木耕太郎のノンフィクションや、新田次郎の山岳小説など。小学4年生では新聞も読むのが日課になったとか。
私も本はよく読みましたが、小学校のころは小学生向けのSF小説とか推理小説がメインでした。怪盗ルパンやシャーロック・ホームズなどを読みましたが、子ども向けに書かれた本で、難しい漢字や表現は少なかったと思います。そもそも漢字の書き取りは大の苦手でしたからね。(笑)
そんな私でさえ、読書から多くの表現や漢字の読み方などを知識として得たのですから、聡太少年のように大人向けの本を読んでいたとすれば、その知識量は半端ではないでしょうね。
「対局後のインタビューでは、多くの報道陣が藤井と広瀬を取り囲んだ。タイトル挑戦の当時の最年少記録は、現九段の屋敷伸之が1989年に作った17歳10ヶ月。記録更新ができなかったことを問われた藤井は、それには触れず、こう答えた。「最後に間違えてしまったのは残念だが、それが実力かなと思う」。記録にこだわらず、目の前の勝負に全力を尽くす姿勢はいつもと変わらなかった。」(p.190-191)
プロになった直後からの公式戦29連勝は、将棋界で話題になっただけでなく、世間に将棋フィーバーを引き起こし、将棋界全体に活況をもたらすことになりました。その一方で藤井竜王は、なかなかタイトル戦に絡むことができずにいました。
世間の注目は、藤井竜王がいつタイトルを取るか、どんな最年少記録を更新するのかに向けられていました。そういうこともあり、藤井竜王も多少は気にしたのではないかと思うのですが、インタビューではそういう素振りさえ見せませんでした。
藤井竜王の関心は、つねに目の前の勝負にあったのですね。いや、勝負というより、その指し手の完璧さを目指したのかもしれません。
勝負に勝つには、様々な要素が必要です。子どものころから詰将棋で鍛えただけに、終盤力には秀逸なものがありました。しかし、それだけでは勝てません。序盤や中盤で有利になる指し方、的確に形勢判断する力、形勢不利なら相手を惑わしたり、混乱させて間違いを誘うような勝負手の指し方、持ち時間の配分など、様々な要因があります。
そういうものを駆使して一局の勝負が決まっていきます。藤井竜王は、それらを最高の形で展開してどんな勝負にも勝とうとしているのではないかと思いました。
かつてホームラン王と呼ばれた王貞治選手は、投手がどんなボールを投げてこようと関係なく、狙ったすべてのボールをホームランにしようと考えていたそうです。その次元からすれば、4打席連続ホームランを打った時も、まだ自分の実力に満足していなかったのだとか。藤井竜王も、そういう世界を見ているのかもしれません。
藤井聡太竜王がいつも謙虚なのは、相対的な強さを目指しているからではなく、絶対的な強さを目指しているからではないかと思いました。
上には上があるものです。驕れば足元を救われます。それを自然体でできてしまうのは、やはり常に「自分はまだまだだ」という本心からの思いがあると感じるのです。
しかし、だからと言って自己卑下しているわけではありません。自己肯定した上で、より上を目指しているのです。自分はもっともっと上に行けるという自信と、挑戦できる喜びを感じているように思います。
こういうものが、藤井竜王が生まれながら持った資質にあることは間違いないでしょう。それとともに、聡太少年の自由を抑圧せず、型にはめようとせずに育てられた環境も大きいと思います。
それは両親が立派だったということもあるかもしれませんが、私は大いなる導きを感じるのです。たまたま選んだ幼稚園がそうだったり、たまたま選んだ師匠が自由にやらせる方針だったりと、そう導かれたとしか思えないのです。
聡太少年は、竜王になるべくして生まれ、育ってきた。一言で言えば、そうなるのかもしれません。
もちろん、だからと言って私たちの参考にならないと言いたいわけではありませんよ。むしろ逆で、私たちは藤井竜王の考え方とか育った環境について、学ぶべきものがあるように思います。
子育てをしているなら、まずは子どもの自由を阻害しないことです。興味を覚えたものを追求させること。やはりそれが、子ども自身の才能を開花させることにつながると思います。才能に程度の差があったとしても、です。
それから、環境を整えてあげることも大事ですね。聡太少年が読書好きになったのも、周りの重要な大人(家族などの身近な大人)に読書好きの人がいて、その人が読むような本をいつでも読めたからです。大人が子どもに指図してやらせるのではなく、自分が手本になればいいのです。
また、自分がどういう考え方を持つべきかという点では、相対的な優劣という価値基準を持たない、ということも大事だろうと思います。
ある意味では自分との勝負であり、自分との戦いです。自分への挑戦と言ってもよいでしょう。どこまで素晴らしい自分になれるのかという挑戦ですから。
そんなことを考えさせられた本です。これですべてとは言いませんが、「藤井聡太という生き方」が、少し見えてきたように思います。
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