2019年09月02日
SIGNAL(シグナル)
日本での成功小説の先駆者である犬飼ターボさんの本を読みました。サブタイトルに、「愛 とは 欲求 が 満たさ れ た 喜び の 記憶」とあります。これまでのテーマとは少し違って、「愛」について正面から向き合った小説です。
※犬飼さんの本の一覧は、こちら「犬飼ターボ」のページをご覧ください。
この本は、Kindle版でしか発売されていません。「あとがき」に書かれていますが、4年間かけてやっと書き上げたもの。しかし、出版社の反応があまり良くなくて、紙媒体での出版ができなかったようです。
犬飼さんは、書籍として残したいという希望があるようで、出版してくれる会社を探しているようです。この本もまた、これまでの本と同様に、紙媒体で発行されるといいなと思います。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう・・・と思ったのですが、今回の本は、なかなか引用する箇所の選定が難しかったです。なので、あらすじを簡単に紹介しましょう。
とある国(島)、とある時代、まったくの空想の世界です。そこは、「恐ろしい霧」に包まれようとしていました。その霧は毒で、包まれると死んでしまいます。この世の終わりを彷彿とさせます。
その毒の霧から世界を守ることができるのか? そのポイントは、「愛」です。愛があれば、毒の霧を抑え込むことができる。そう信じられていました。
最初、「愛」とは奉仕する精神であり与えることだと説く教師のところに、若者と娘がやってきます。若者は教師の言葉が信じられません。なぜなら、教師はそう言いながら、物を売ろうとするからです。矛盾しているのではないか? 理屈っぽい若者は、理性で愛を理解しようとします。
一方、娘は、人のオーラを見ることができる能力を持っています。直観で愛を知ろうとします。
その世界では、ある伝説がありました。世界を滅ぼす毒の霧が現れる時、一人の英雄が愛を歌って世界を救うと。
英雄が歌ったという「愛の歌」は、子どもの頃からすべての人が聞かされ、覚え、歌っていました。しかし、毒の霧から世界を救うには、その英雄が歌う必要があるのです。
長老で占いをするオババは、毒の霧の出現を予言していました。そして、世界を救う英雄は、その若者だと言ったのです。
オババはその若者に、愛がわからないと愛の歌は歌えないと言います。そこで、まずは愛のマスターを探せと若者に指示します。
こうして、若者と娘は、愛を教わるために愛のマスターを求める旅に出発するのです。
物語はこうして、若者が少しずつ愛について理解を深めていく様子を描きます。
そうして最終的に、「愛」とは何なのかということを理解します。それが、サブタイトルに示されていた「愛とは欲求が満たされた喜びの記憶」なのです。
そのことについて、「あとがき」にこう書かれています。
「おそらく「 愛 とは 欲求 が 満たさ れ た 喜び の 記憶」 という 定義 に 反対 さ れる 方 も 多い と 思い ます。 私 も 最初 は そんな はず が ない と 何度 も 考え直し まし た が、 考察 し て いけ ば いく ほど「 愛 とは 欲求 が 満たさ れ た 喜び の 記憶」 だ という こと が 鮮明 に なっ て いき まし た。
そして、 人間 が 認知 する 仕組み、 行動 する 仕組み を当てはめ て 考え て いく と、 愛 は 暖か さ、 愛 は 光、 愛 は 思いやる こと、 愛 は 奉仕… といった いろいろ な 本 に 書か れ て いる 定義 が すべて しっくり と 収まり まし た。
この おかげ で、 愛 は 難解 で、 高尚 で、 崇高 な もの で ある という 幻想 から 解放 さ れ まし た。 そして、 誰 でも 再現 が できる よう になり まし た。」(Kindle の位置No.2106-2113)
これが犬飼さんがたどり着いた結論なのでしょうね。
これを読んだ私の感想ですが、これまでの本と違って、やはりわかりにくく、あまり感動が伝わってきませんでした。これは正直な感想です。
しかし、だからと言って、間違っているとは思いません。そうではなく、消化しきれていないという感覚なのです。
このことについて犬飼さんは、すでに予想されていたようで、「あとがき」にはこうあります。
「何度 読みかえ し ても 新しい 発見 が ある よう に、 かなり 深い 心理的 な 解説 や それ を 元 に し た さりげ ない 描写 を 入れ て おき まし た。 愛 とは 何 かが 分かっ て くる ほど、 文章 に 隠れ て いる こと に 気づく でしょ う。
一度 目 は、 愛 の 理解 を 言葉 上 は でき ても 腑 に 落ち て おら ず、 主人公 の 成長 に対して 感情的 に つい て いく のが 難しい と 感じ られる はず です。 しかし 脳 は 寝 て いる 間 も 処理 を 続け て い ます ので、 一 ヶ月 ほど し てから 読む と、 一度 目 よりも 主人公 に 感情移入 が 出 て いる こと に 気付く かも しれ ませ ん。」(Kindle の位置No.2085-2090)-2086)
なかなか読みごたえのある小説だと思います。私も、しばらくしてからまた、読み直してみようと思いました。
犬飼ターボ
犬飼ターボ(いぬかい・たーぼ)さんの小説は、2007年に読んだのが最初のようです。
「チャンス」は、1人の青年がメンターと出会って、成功していく感動のストーリーです。
それから犬飼さんの小説にはまって、全作を読んできました。
ただ、その記録をとっていないので、このブログで紹介できているのは、その一部になります。
◆犬飼ターボさんの本(小説)
・「CHANCE チャンス」
・「星の商人」
・「仕事は輝く」
・「DREAM ドリーム」
・「TREASURE トレジャー」
・「SIGNAL(シグナル)」
・「月の商人」
物語によって重要なことを伝えるという手法は、昔から利用されています。神話というのは、まさにそうなのです。そういう意味では、オーソドックスなのですが、犬飼さんの作品は、それを現代に生かしている感じがします。
他にも、福島正則さんとか喜多川泰さんなども、そういう感じです。私が大好きな著者さんです。
犬飼さんは、最初は「成功」に焦点を当てていますが、そのうちの「幸せ」に焦点が移ります。そして、私が読んだ最新作の「SINGLE(シングル)」では「愛」へ。犬飼さん自身が進化し続けているのだろうと思いました。
上記の他では、「オレンジレッスン」「天使は歩いてやってくる」「月の商人」(※)があります。
※2020年1月13日に「月の商人」の紹介記事を投稿しました。
「チャンス」は、1人の青年がメンターと出会って、成功していく感動のストーリーです。
それから犬飼さんの小説にはまって、全作を読んできました。
ただ、その記録をとっていないので、このブログで紹介できているのは、その一部になります。
◆犬飼ターボさんの本(小説)
・「CHANCE チャンス」
・「星の商人」
・「仕事は輝く」
・「DREAM ドリーム」
・「TREASURE トレジャー」
・「SIGNAL(シグナル)」
・「月の商人」
物語によって重要なことを伝えるという手法は、昔から利用されています。神話というのは、まさにそうなのです。そういう意味では、オーソドックスなのですが、犬飼さんの作品は、それを現代に生かしている感じがします。
他にも、福島正則さんとか喜多川泰さんなども、そういう感じです。私が大好きな著者さんです。
犬飼さんは、最初は「成功」に焦点を当てていますが、そのうちの「幸せ」に焦点が移ります。そして、私が読んだ最新作の「SINGLE(シングル)」では「愛」へ。犬飼さん自身が進化し続けているのだろうと思いました。
上記の他では、「オレンジレッスン」「天使は歩いてやってくる」「月の商人」(※)があります。
※2020年1月13日に「月の商人」の紹介記事を投稿しました。
2019年09月16日
がんばらない
鎌田實(かまた・みのる)さんの本を読みました。Amazonを見ていて、タイトルが面白そうだと感じて買ったのです。どんな方だか知らなかったのですが、あとで調べてみると、テレビでよくお見かけしたお医者様だったのですね。
内容もよくわからなかったのですが、エッセイ集のようなものでした。学生運動に身を投じていた鎌田さんは、人々に優しい医者になるという信念のもと、損得を度外視して医師不足の信州へ行かれた。そこで、住民から喜ばれる医療というものを考え、実践してこられたのです。
2003年に発行された文庫本ですが、私が買ったのは2017年の第30版です。長い間、一定の支持がある本のようです。
ではさっそく、一部を引用しながら内容を紹介しましょう。
「ぼくの大学時代の同級生に長谷川幹という、おもしろいリハビリ医がいる。彼が障害の受容についてこんなことをいっていた。
「障害の受容という言葉を医療人はよく口にするが、そんなに簡単なことではない。障害を受け入れてはいないが、日常的に、麻痺や障害などの回復する話が、あまり出なくなる状態と考えたほうがわかりやすい。そして、そのような状態になるのに、数年かかるのが普通だ」
同感である。障害や死の受容はそんなに簡単ではない。研治くんも悪性リンパ腫であることを家族から話してもらったが、ひと晩だれとも口をきかなかった。ひと晩で受容したように見えたが、受容に軸足を置きながらも、「否認」や「怒り」や「取り引き」に、行ったり来たりしていたのだ。このジグザクがなんとも人間的で、いとおしい。」(p.34)
スケート部で活躍してた研治くんは、親や家族を心配させたくない思い、なんで自分がこんな病気にという恨み言など、様々な思いが押し寄せたのだろうと思います。そういう思いを鎌田さんも理解して、見守っておられたのでしょうね。
「たいした用はなかった。外出の日ぐらいどうにでもなったのさ。治らない病気だと知っていたら、じいちゃん一人にしないで、じいちゃんの布団のなかに入って、いっしょにいろんな話をしてあげたかったのに」と、たぬきのおばあちゃんは笑いながら話してくれた。
「いっしょの布団に入りたかった」か。いい話だなあ。ぼくは二人にそうしてもらいたいと思って外出をさせた。だけど「貧血」というぼくの嘘がそうさせなかった。ぼくが勇気を出して、白血病であること、命に限りのある病気であることを、たぬきのおばあちゃんに伝えていたなら、おじいちゃんは自分の家の、自分の部屋の布団のなかでひとりポツンとしていなくてすんだのだ。
日本流のやさしさがつらい話は聞かせないという習慣をつくってきたが、告知をしないことは本当のやさしさだろうかと思った。」(p.41)
おばあちゃんに白血病と知らせなかったのは、おばあちゃんが動揺しておじいちゃんに伝わってしまうから。それぞれの立場で、それぞれの考え方で、それぞれの判断があったのです。
しかし鎌田さんは、こういうことから、真実を知らせることが何よりも大切だ、という考え方に至ったのでしょう。真実を知らせることほど優しいことはない。私も、そう思います。
奥さんのお父さんが亡くなられた事例をあげて、鎌田さんは次のように語っています。
「ぼくは自分の命のあり方を自分で決めていくことが、大切なことだと常々思っている。自分で決めるためには、本当のことを知ることが大切だ。本当のことをお互いが隠さずいい合えること、真実を語り合えることが、生き方を選択するためにも、決定するためにもどうしても大切だと思っている。」(p.43)
「おじいちゃんの三年半の闘病で隠し事はひとつもない。おじいちゃんがうちに着て、ご飯を食べていても病気であることをみんなが知っている。みんなが大事にする。おじいちゃんもいよいよであることを知っているから、孫たちを大事にする。隠し事がないということがとても大事なことだった。」(p.53 - 54)
「医療は今まで医師が絶大な権限をもって、患者さんそれぞれの生き方まで決めることがあった。しかし、そういうお任せ医療はもう時代おくれだ。自分の体に起きたことをよく知りながら、自分で自分のことを決めていく、自分の人生を自分色に染めて、デザインしていくということが大事だと思う。」(p.55)
人の尊厳は、自分の自由に決められることにある。そのためには、できるだけ真実を知る必要がある。まして、真実を知っていながら、それを隠すようなことはしてはならない。それが鎌田さんの信念になっていったようですね。
「ぼくたちの始めた市民中心のデイケアは厚生省の目にとまり、厚生省で、ボランティアが撮ってくれた八ミリ映画の活動記録の上映会がおこなわれた。これがきっかけになったのだろう、それからしばらくして、デイケアやデイサービスの制度がつくられ、日本じゅうにデイサービスセンターができるようになった。
命を支えるのに、こんなものがあったらいいなあという市民の単純な思いが、国の新しい制度をつくったように思う。」(p.95)
自宅で介護するのが当たり前とされた時代、お嫁さんは休むことさえ許されませんでした。病院で預かるというデイケアなどは、鎌田さんたちのアイデアで始まったのですね。
「ぼくはこの地獄の板挟みのなかで、よしさんから大切なことを学んだ。七十になっても、人は人に触れていたい、触れられていたい。そんな思いだったのだろう。
「治療する」ことを「手当て」と呼ぶ。治療の原点はまさに手を当てて触れることなのだろう。よしさんのことはぼくたちに、その大切さを忘れるなよ、と語っていたような気がする。」(p.99)
よしばあさんは、どうやら故意に鎌田さんの股間を触っていたようです。触られまいとする鎌田さん、何とか触ろうとするよしばあさん、2人の攻防は看護婦さんたちの間でも注目されていたとか。
しかし、そういうやり取りをしている間、よしばあさんは狭心症の発作が起きなかったようです。それが、鎌田さんが東京へ出張したところ、久しぶりに発作が起きた。鎌田さんは、ニトログリセリンよりも人との触れ合いの方が、体調を維持するのに役立ったのではないかと思われたようです。
私もレイキを母にしてあげた経験から、同じようなことを感じています。「手当て」とは、愛情表現なのです。
この本を読み始めたころ、購読している「みやざき中央新聞」に、鎌田さんの記事が載りました。何という奇遇でしょう。
その中で鎌田さんは、昭和23年に生まれ、親から捨てられたという話をされています。養父の岩次郎さんは、奥さんが心臓の病気で入院していることもあり、1日15時間働いて生活を支えていたにもかかわらず、鎌田さんを拾って育てたのです。
鎌田さんは、人間はこの「にもかかわらず」が大事だと言います。
そして、高校を卒業するころ、大学に進学したいと養父に伝えると、3度話して3度とも否定されたとか。大暴れした後、養父はやっと、自由にやっていいが、費用は自分で工面しろと言って、許してくれたそうです。
鎌田さんは、人間にはこの「自由」が大事だと言います。
テレビで拝見しただけの鎌田さんですが、温かくて優しい印象があります。鎌田さんが、様々な苦難を乗り越えてこられた結果、そういう人格が形成されたのでしょうね。そんなことを感じさせてくれる本でした。
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